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私の部屋にいたのは雅輝くんの親友である達也君だった。
なぜ、達也君が私の部屋にいて、先輩と一緒にいるのか?
達也君と先輩は知り合いだったのか?
そんな疑問が次々とわき上がる。
少し振り返って先輩の顔を見ると先輩は少し困った顔をしていた。
「町で偶然会ってね。それで知り合いになったんだ」
「町で?」
「ああ」
偶然町で会ったとしてもお互い認識があったわけじゃない。
知り合いになるには他の何かがあったはず。
「突然お邪魔しちゃってごめんね?七海ちゃん」
「あ……ううん」
私の戸惑っている様子に気づいたのか、達也君が申し訳なさそうに笑う。
「……雅輝くんと別れたことについて聞きにきたの?」
手に持っていたコートをハンガーにかけて、私は達也君の近くに座った。
達也君が先輩と私のところへ来た理由なんて1つしか思い当たらない。
それをどう切り出すべきなのか考えてもうまく言えないような気がして、そのままストレートに言葉にしてみた。
私の言葉に達也君は驚いたような表情を浮かべる。
「別れた? 雅輝と……別れたの?」
「うん……私にはついていけないって」
達也君が驚いていることを考えると雅輝くんから何も聞いていないのだろう。
あの時のことを思い出すと胸が鋭く痛む。
鼻がツンとしたので意識をそらす。
こんな所で泣くわけにはいかないから……。
「別れたって言うのはいつ?」
「……クリスマスの数日前」
「七海が俺と会った日の夜か……」
別れた日を言い当てられて少し動揺してしまう。
先輩と一緒に帰宅したのだし、自分の部屋であれだけ泣いてしまったのだ。
気づかないはずはない。
私は頷いて見せた。
「雅輝はケンカの勢いで言っただけで別れるとかの意味じゃないんじゃない?七海ちゃん、ちゃんと聞いてみた?」
「……」
あの言葉が別れの言葉かどうか、確かに確認はしていない。
けれど、雅輝君が私を恋人として好きではないこととや、電話してきた女性の存在が私を臆病にさせた。
付き合っているかどうかは別として、雅輝くんには私とのデートの予定について話しをするほど親しくしている女性がいることは確かで……。
「……他にも何かあるんだろ?」
私の様子に先輩が気づく。
幼馴染で兄のような存在だからこそすぐに分かってしまうのだろう。
「何かって……」
「お前、前に一度泣いていたよね?」
あの日以前に部屋で泣いたのはあの女性から電話がかかってきた時だけだ。
「雅輝はあの性格だかだから話してくれないんだ。だから七海ちゃん……何があったか全部話してくれないかな?」
何をどこまで話せばいいのか困惑してしまう。
そんな私の事をわかっているのか、先輩が頭を撫でてきた。
「何でもだよ。この際、思っていることも全部話してしまえよ?」
「先輩……」
「七海ちゃん、お願い」
達也君に頼まれてしまって困る。
私はお願いされると弱いのだ。
どこまで話していいかわからないまま、私はぽつぽつと話し出した。
「雅輝が二股とか絶対にありえないから!」
事情を話す私の言葉に達也君がものすごい勢いで否定する。
「しかし七海の携帯番号を知ってて、クリスマスの予定を知ってるってことだろ?」
「うーん」
「雅輝くんは優しいから私と別れたいってずっと言えなかったんだと思う」
私は自分の気持ちを隠すことはなかった。
よく聞く恋の取引は私にはむずかしずぎる。
だから、雅輝くんに私の気持ちはわかったはず。
優しい彼は別れをどう切り出すのか悩んだのかもしれない……。
「ない!絶対にない!雅輝って自分の意思を頑なに貫く性格なんだよね。とにかく嫌だと思えばそれを我慢するような性格じゃないよ」
達也君は思いっきり否定したけれど、私と付き合う事にになった時が思い出される。
あの時も私と付き合っちゃえと言うみんなに、最初は冷たく『くだらないこと言うな』の一言だった。
でも何度もしつこくみんなが色々言っていたある日、雅輝くんは私がそれでいいならと、めんどくさそうに折れた形で付き合うことになったことを考えると、とても絶対に意思を曲げない性格だとは思えない。
「私と付き合うことになった時、雅輝くん最初は嫌がってたのに結局私と付き合ったでしょ?」
「ああ。あれは雅輝も七海ちゃんのこと好きだったからだよ」
「え?」
私のことを好きだと聞かされ驚いてしまう。
達也君は雅輝くんからそう聞かされてたのだろうか?
「中学の時、ちょっと家庭で色々あってさ。それから急に女の子に冷たくなったんだよね。前に話したと思うけど女性不信と言うか……。女の子を見る目がちょっと気になるくらいにね」
「……」
彼はわりと無口な方で、あまり自分の事や気持ちなんかを話すのを嫌がる。
だから雅輝くんの情報は幼馴染でもある達也君からばかりだった。
「最初は七海ちゃんを見る雅輝の目も他の女の子を見るのと変わらなかったんだけど、みんなと一緒に遊んでいるうちに、雅輝が七海ちゃんを目で追っていることに気づいたんだ。それに気づいてからよく見てたんだけど、七海ちゃんを見る雅輝の瞳が時々ふと優しく緩むんだ。あんな雅輝見たのは初めてだった……。それに七海ちゃんだけには雅輝のヤツ何かと世話してたでしょ?」
そう言われて記憶を探ってみる。
友達だった頃、いろんな所へ出かけた。
困っていると雅輝くんが時々助けてくれたことを思い出す。
さりげなく黙って差し伸べられる手。
雅輝くんのそんな控えめな優しさに私は惹かれたのだ。
そんな優しい手が私以外に差し出すことがあった?
必死に記憶をさらっても思いだすことが出来ない。
もしかして本当に私だけを助けてくれていた?
「雅輝の特別が七海ちゃんだってことは付き合いの長い俺にはすぐわかったよ。だから七海ちゃんが雅輝を好きだって知って2人に付き合うように薦めたんだ。それに、もう1年近くも付き合ってきたんでしょ? 七海ちゃんが好きじゃなかったらそんなに続くわけないよ」
「そう……なの、かな……」
「それにさ。相手を傷つけたくないから二股?そんなことが優しいって言える?他に好きになった女性がいるなら相手を傷つけてもちゃんと別れる。それが本当の優しさなんじゃないかな? だから雅輝が二股なんて絶対にありえないよ」
「……」
「本当に優しいと言うのなら好きでもない子と付き合うべきじゃないと思うよ?」
そっと私の頭を先輩が撫でる。
今まで一度も好きだとは言われてたことはない。
けれど、定期的に会うデート。
こっちが送らなくても雅輝くんから送ってくれる短いメール。
手を繋がないけれど、私が腕を絡ませても嫌がったことはなかった。
体を繋げる時、彼はまず私を気持ち良くしてくれいつも気遣ってくれた。
言葉はないけれど、ちゃんと恋人同士だった……。
思い出せば恋人同士の思い出ばかりだった。