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自分の家の前に着く。
ご飯を食べて一緒に帰った。
「ごちそうさまでした」
「おお、また食べに行こうな?」
「うん!」
先輩は小さく笑って私の頭を大きな手で撫でる。
付き合いが長い幼馴染で兄のような存在。
気兼ねなく甘えられた。
ずっと一緒にいたせいで麻痺してるのかもしれないが、先輩はいわゆるイケメンに入るらしい。
頭もいいし性格もいい。
先輩は見た目の良さより中身で人気のある人だ。
昔は先輩をお兄ちゃんと呼んでいたんだけど、中学の入学を境に先輩と呼ぶように言われて今でも先輩と呼んでいる。
まあ、その呼び方に慣れてしまったこともあるだろう。
「七海、ちゃんと約束は守れよ?」
「え?」
「ほら、言わないって、や・く・そ・く」
「ああ、わかってるよー」
先輩との約束。
私と先輩が幼馴染だと言うことを誰にも言わないという約束。
すでに知っている人はいるので今更隠してもしょうがないんだけど、どうしてか無理やり約束させられた。
先輩と別れてから自分の部屋に入り、さっそくかばんから携帯を出す。
忙しい雅輝くんに悪いかと思って謝ろうと思ったんだけど、それもなんだかおかしいことに気づく。
勤めている会社が違うのだ。
当然勤務状況が違う。
うちの会社が今暇なのと、雅輝くんの会社が忙しいのはどうしようもない。
それに私が遊んでたからと言ってそんなことで雅輝くんが怒るとも思えなかった。
謝らないとなると電話する用件が見つからない。
でも、なんとなく不安もあって雅輝くんの声が聞きたかった。
散々悩んだ末、次のデートの約束と仕事のねぎらいでも出来たらと思って電話をかけることにした。
用がなければ電話も出来ない自分が笑える。
普通の恋人なら用もなくても電話するもんなんだろうね……。
通話ボタンを押してコールが鳴るのを確認する。
なかなか出ないので仕事がまだ終わってないのかと思った時だった。
コールがやむ。
『……はい』
「あ、七海です」
疲れたような低い声。
もしかしてタイミングが悪かったのだろうか?
「お仕事お疲れ様」
『ああ、それで何?』
素っ気ない返答。
良くあることだけど、やっぱり悲しくなってしまう。
クリスマスまで10日。
連続でデートが3回もキャンセルになるほど忙しいなら、もうしばらくデートは無理だろう。
クリスマスも会えない。
その事を思い出すと電話の彼女のことが思い出された。
「……あのね、24日、お弁当作って夜に会社に持って行っていいかな?」
どこかで電話の女性の言葉を信じている部分が少しだけあるのかもしれない。
でもそれ以上に少しの時間でも彼に会いたいという気持ちが強かった。
だからなのだろうか、とっさにそんな言葉が出てしまた。
『今日の先輩って……大学の時の先輩?』
「え?」
返事をもらえるとばかり思っていたので、突然先輩について質問されて驚いてしまう。
彼は私に関することにはあまり興味ないようだったのに、なぜ先輩だけ気になるのだろうか?
「ううん、中学……」
『そんなに前から!?』
私の言葉によほど驚いたのか、話してる途中で遮られた。
今まで私は雅輝くん以外の男性と仲良くすることはなかった。
人見知りが激しく女子高育ちのせいか、男性と話すのに躊躇してしまう方だからだ。
そのことは彼も知っている。
だからこそ私に仲のいい人がいると知って驚いたのかもしれない。
「う、うん。家が近いから……。あ、でも、先輩には彼女さんがいるよ?」
やましいことなどないという意味も込めて彼女がいることを言ってみる。
しかしそれがよくなかったようで、雅輝くんの声がさらに低くなった。
『彼女のいる男に会いにいったのか?』
「え、あ……と、友達だし……」
幼馴染だと言うことは禁止されている。
どう説明すればいいのかと言葉を詰まらせてしまう。
友達としか言うことが出来ない私に雅輝くんは納得出来なかったらしい。
『最低だな……』
冷たい言葉が胸に突き刺さった。
今まで聞いたこともないような低い声。
頭が真っ白になる。
「さい……てい?」
『……普通、彼女の気持ち考えたらそんなこと出来ないだろう?』
「……恋人がいたら友達と会っちゃいけないの?」
『勝手にすればいい。七海がそういう考え方なら俺はついていけない……』
「!」
『じゃあ』
あっさりと電話が切れた。
最後の『勝手にしろ』と『ついていけない』という言葉だけが心に残る。
それはどう考えても別れの言葉だった。
「え? あ……」
あっさりと告げられた別れ。
ツーツーという電子音が携帯から聞こえる。
私は携帯を両手に握って画面を見れば画面は通常画面に戻っていた。
「う……ああっー!」
ただ、泣き崩れるしかなかった。