2 事件発生
遅れてしまい申し訳ございません!!
「うわ、また負けた……」
「また僕の勝ちだね」
「勝者と敗者が固定化されてるってどういうことなの」
「……イカサマ?」
「まさか。この年でそんなこと出来るわけ無いだろ?」
「イカサマだけど?」
「はぁぁ!?」
屋敷に到着し、しばらく各々の時間を過ごしたゲスト達は自己紹介および親睦を深めようと言うことで、現在大富豪をやっていた。
が、始めた時から常に野球帽の少年、山崎幸一がトップを独占し、逆に水色のヘアピンが印象的な少年雪村疾人が大貧民という苦汁を嘗め続けていた。
しかし、幸一がイカサマを自白した瞬間に疾人の怒りが有頂天になり幸一に飛び掛るも、間にいた圭戒幕田が竹刀を振り上げるように拳を振り上げこれを撃墜。疾人はあえなく床とキスをする羽目になった。
「流石は剣道有段者だね。やっぱり体が瞬時に動くの? ……いや、実は…と……な関係だったりして!? うふふ……」
幕田に質問したのは童顔でミディアムロングの薄い茶髪という容姿の佐々木歌姫である。質問したと思ったらすぐにどこか別世界にオデカケしてしまっているような雰囲気が否めないが、誰もそれについては触れなかった。何故なら時々ニヤつきながらぶつぶつ何かを呟いていたからである。この状態の彼女に声をかける猛者は未だ現れないようだった。
「……もう一回やる?」
遠慮がちにもう一回やるかを提案したのは、若干緑がかった白色の髪を持つ美少女染元翡翠だった。知らない人が多い中で、緊張しているのか動きがぎこちない。そんな彼女の提案にいち早く反応したものが一人いた。疾人である。
「もう一回だ! 山崎! お前今度はイカサマやるなよ!?」
「いや……大富豪になるのにイカサマはするけど、大貧民になる人のことまで考えてイカサマはしてないんだけど。ただ単に雪村さんが弱いんじゃないか?」
「次こそ俺が勝つんだよ!」
「いやぁ、それこそ負ける人の台詞だと思うんですけどねぇ」
やけくそな疾人の宣言をあっさりとぶち壊したのは神田晴彦である。メガネをかけた好青年で、首元には十字架のチョーカーをつけているところから見るとキリスト教徒のようだが、それを裏付けるように手元には聖書が置いてあった。
そんな年相応の振る舞いをする少年少女たちから少し離れた席で、一人の男が不機嫌そうに座っていた。本来ならいないはずの9人目のゲスト黒川宗次朗だ。
何を隠そう、彼はこのイベントにいくらか投資した人物だった。にもかかわらず、彼が屋敷に到着したときはすぐにメイドが出迎えることも無く不満をあらわにした結果その場にいた年端も行かない貧乏なガキに軽蔑の眼差しを送られ、終いには馬鹿みたいに騒ぐ子供のど真ん中に放り込まれ、これといって特別なもてなしもされていないといった状況だった。
(私は黒川財閥のトップだぞ!? それがどうしてこんなガキどものど真ん中で何のもてなしもされずに座っていなければいけないんだ!!)
溜まるストレスは限りを知らず、今にも爆発させそうになるのを必死で押さえつけながら恨めしそうに子供達を睨みつけたその瞬間食堂のドアが開かれ、メイドと執事と共にグレーのスーツを身に着けた温厚そうな老人が入ってきた。
(ふっ、やっとお出ましか……)
老人を見た瞬間、それまで溜まっていた怒りは消し飛び別の感情が彼を支配した。表情や態度には出さないものの、それは確かに彼の中で高まって行った。
トランプをやっていた美奈たちは、突然開け放たれた食堂のドアに驚き慌ててトランプをしまった。ちなみにこの時、気配を完全に消したまま落ちたトランプを拾おうとしている翡翠を手伝おうとしたフードの少年十神煌士に心底驚いた翡翠が悲鳴を上げ、隣にいた美奈が反射的に煌士の顔に膝蹴りを叩き込んでしまったことを記しておこう。
それはさておき、真打登場といわんばかりの雰囲気を漂わせ食堂に入ってきたのはゲスト一行を迎えた執事とメイド2人、そして白髪でグレーのスーツを身に着けた老人だった。
老人はゆっくりと歩きながらゲスト達に微笑み、軽く会釈をしながら部屋の奥まで進むとあらかじめ用意されていた椅子に着席した。
それを確認したメイドのうちの片方がパーティーの開始を告げ、老人――米川金治――がなにやら形式ばった挨拶を言った後ゲスト達の前に普段お目にかかれないような豪華な料理が次々と運ばれてきた。
「うぉぉ……超美味いぞこれ…! 最近まともな弁当も食ってなかったから染みるぜ」
と、マナーなどなかったと言わんばかりの勢いで料理を平らげていくのは幕田だった。
「ちょっと、あなたもう少しマナーをわきまえなさいよ!」
あまりのマナーの悪さに美奈が思わず声を上げるも、幕田には全く届かない。少し様子を見ようと放って置いた美奈だったが、いつまで経ってもマナーの三文字を知らない幕田に我慢ならなくなった美奈は、席を立とうとしたがそれは翡翠にとめられた。
「…あ、あの……別にせっかくのパーティーだし止めなくてもいいじゃ……」
常日頃からマナーに厳しい母親の躾を受けてきた美奈にとって、友達同士で開いたパーティーで無い以上幕田の振る舞いをよしとは出来なかった。だが、翡翠の言うとおりせっかくのパーティーなのだからわざわざ注意やら何やらで不愉快な思いをすることもないかと思いなおし、そのまま着席しなおす。とは言え、不愉快なことには変わりないのだが。
とりあえず幕田は諦め食事に集中しようと目の前の料理を口に運んだ途端、ほんの少しだけ、本当に少しだけ幕田の気持ちが分かった。先ほどまでは馬鹿みたいに料理を食べる幕田に気を取られあまり味を意識はしていなかったのだが、食事に集中した途端そのうまさが口の中に広がった。
「なにこれ……すごくおいしい」
思わず口から出た言葉は素直な感想。彼女も、これほど豪華で美味な食事はしたことがなかった。無論、最も口に合うのは彼女の母が作る手料理ではあるが。
「本当に、おいしいですね。私も普段はもっと質素な食事をしてますが……たまにはこういう食事もいいものです」
美奈の独り言に答えるように呟いたのは晴彦である。彼にとってもまた、これほどの食事は初めてだった。そもそも、クリスマスはイエス・キリストの誕生を祝う日であって本来はお祭り騒ぎをする日ではないのである。少なくとも彼の家庭ではそうだったので、それほど豪華な食事などしていなかったのだった。
「でも、ちょっと食べきれないかな……」
少し困ったようにそんなことを言ったのは翡翠だ。確かに、ゲストの前に出された食事はほとんどが大人一人分の量であり、男性陣はともかくまだまだ大人には遠い女子陣にはいささか多すぎるといっても過言ではなかった。
「確かに、ちょっと多いかなぁ。でも、……と、一緒に……なんてしたら……うふふふ……」
「歌姫さん……ちょっとこっち帰ってきなよ」
何かにつけて別世界にオデカケしに行ってしまう歌姫に若干引きながらも美奈は歌姫に声をかけた。が、美奈の声など全く聞こえてないのか歌姫ワールドは止まるところを知らず、よくよく聞けばどんどんエスカレートしている独り言に美奈は寒気すら覚えた。
兎にも角にも、これ以上歌姫に関わると自分もソッチの世界に道連れされかねないと悟った美奈は大人しく食事をすることに戻った。
それからまた豪華なデザートが出され、幕田が発狂しそれに飛びかかろうとするのを幸一が隠し持っていた手品用のクラッカーでこれを妨害。驚いた幕田が後ろにのけぞったところを気配を消した煌士が幕田のデザートを掠め取りそれを疾人が受け取ってぺろりと平らげる、という華麗な三段コンボを決めた。ちなみに傍観に徹していた女子陣+晴彦は呆れた目でこれを見つつも、普段なかなかお目にかかれないデザートに舌鼓を打っていた。ちなみに歌姫は未だにオデカケ中であった。
そんな騒がしいディナーの時間を終わりを向かえ、次なるイベントの準備が終わるまで各自自由に過ごしていてくれとメイドから指示を出されたゲスト一行はおのおの自室に戻っていった。
染元翡翠はディナーの後の自由時間に、気になっていた大浴場にいこうと考えていた。お世辞にも広いとはいえない自宅のバスタブもそれはそれで悪くはないので不満があるわけではないが、あえて言うなら身体を思いっきり伸ばせるような広い場所でのびのびと湯船に使ってみたいという思いがあった。
「でも……どうしよう……」
いくら広い屋敷とはいえ、今ここにいる女性は翡翠を含めて片手で足りてしまうような人数しかいないのだから別に大人数の人に自分の姿を見られて恥ずかしい思いをすることはない。(そもそも何を恥ずかしがる必要があるのかすら彼女自身分かってはいないのだが、なんとなく恥ずかしいようだ)
しかし、自分が余り経験したことのない広い浴場にたった一人で風呂につかるというのもそれはそれで寂しい。なので誰かに一緒に行って貰いたいのだが、その誰かが思いつかないのである。いや、正確には美奈を誘おうかと思ってはいるのだが彼女の部屋がどこにあるか知らないため、誘うに誘えないのである。
もういっそ自室に備え付けてあるユニットバスで済ましてしまおうか、と思い始めたとき部屋の扉がノックされた。
「翡翠ちゃん、いる~?」
美奈だった。慌てて小脇に抱えていた入浴セットをベットに放り出し、ドアに向かって駆け出す。その瞬間、足元に置いてあった自分のかばんの紐に足を引っ掛け見事に転び、強かに顔面を床に打ち付けた。
顔の痛みにうっすら涙を浮かべながら部屋のドアを開けると、そこには心配そうな表情をした美奈が立っていた。
「ちょ、ちょっと大丈夫? すごい音聞こえたよ……って綺麗に顔から転んだのね…」
「う、うん……ところで美奈さん…どうしたの?」
「え? あぁ、上にお風呂あるって聞いたから一緒に入らないかって誘いに来たのよ。……べ、別に一人が寂しいとかじゃないわよ?」
若干赤面しながら言った美奈の言葉は、翡翠には聞こえていなかった。それよりも、美奈の方から誘いに来てくれたという事実が彼女にとっては嬉しかったのだ。
「あ、すぐに用意するから…ちょっと待ってて?」
思わずぽーっとしてしまった自分に気づき、いそいそとベットに放り出した入浴セットを取りに戻り部屋を後にしようとした。そんな彼女を美奈が呼び止める。
「あなた、部屋の鍵も掛けないで行くつもり?」
「あ……」
当たり前のことをすっかり忘れていたことに恥ずかしさを覚えながらもポケットに入れていおいたルームキーで部屋の戸締りをしっかりとし、今度こそ美奈と一緒に部屋を後にした。
その後翡翠たちは、二人きりで入るには明らかに広すぎる大浴場で、しかしのびのびと湯を堪能した。途中、翡翠が足を滑らせてあわや大惨事になりかけたが運良く湯船の中に墜落しただけで大事には至らなかった。
そんなハプニングがありながらも、気持ちよかったねー等と笑顔で会話しながら大浴場から出てくると丁度エントランスホールに降りてきた辺りでメイドの山根に出くわした。
「あ、天川様、染元様。そろそろ次の催し物が始まる時間でございますので、準備が出来次第食堂にお集まりになってください」
「あ、はい。分かりました。さ、早く部屋に戻って荷物置いてこようか翡翠ちゃん?」
「うん」
「それでは、私はこれで」
必要事項だけ伝えると、山根は階段を降り下の階に向かっていった。きびきびしているようだが、どこかおっとりとした雰囲気の抜けない女性だという印象を美奈、翡翠共に受けた。
兎にも角にも、荷物を置いてこなければと二人はその場で一度別れその後再び合流して食堂に向かった。既に美奈たち以外のゲストはほとんど揃っており、美奈達以外に来ていないのは例の招かれざる(と言えば本人は激怒するだろうが)客の黒川とか言ういけすかない金持ちとホストの米川だった。
「よかった…私たちが最後じゃなくて」
注意していなければ聞き取ることの出来ないであろう音量で、隣にいた翡翠がそう呟いたのを美奈は聞き逃さなかった。同時に、この小さな少女が知らない人達が多いこの状況に緊張してしまっていることが手に取るように分かり、唐突に愛おしさを感じた。
「さ、早く座っちゃおう?」
自分でもこんな声が出せたのか、と思わず内心で驚いてしまうほど優しい声色で翡翠に声をかけると、翡翠のほうも少し安心したような表情をして歩き出した。
二人が席に着くと、彼女達の近くに座っていた晴彦が声をかけてきた。
「お二方、少々遅かったようですが大浴場にでも行ってらしたんですか?」
「あ…えと……」
突然の問いかけにテンパってしまっている翡翠に変わり、美奈が問いかけに応じる。
「まぁ、そんなところです」
「そうですか。僕も先ほど行きましたが、なかなかいい湯でしたよ。最も、広すぎて逆になんだか落ち着かない気はしましたけどね」
「お金持ちって、なんでも大きなものを作りたがるみたいですね。ほんと、理解に苦しむわ。あんな大きくしなくたって、入る人もそんなにいないでしょうに」
「そうですね。お金を持つと、人は強欲になっていく。本当に大切なことは欲求を満たすことなどではないというのに……」
なんだか宗教がらみの話になりそうだと感じた美奈は、僅かに顔を引きつらせた。彼女は神や仏を信じていないわけではないが、だからといって熱心に拝んだりするような人間ではないからだ。にもかかわらず、神や仏に関して語られても反応は出来ない。それに、彼女は積極的に宗教のことを語る人間を苦手としていた。
なんとか話題をそらそうと、さりげなく辺りを見回すと時計の針は既に8時15分を超えているのが目に入った。メイドたちの行っていた時間によれば、次のイベントは8時だったはずである。
――まだあの老人と黒川とか言う人は来ないのか――と思わず見回そうとしたとき、食堂の扉が開かれた。
「いやぁ、すまないね。僕としたことが遅れてしまったよ。あ、あと米川老人はもう少ししたら来るそうだ」
そう言いながら入ってきたのは黒川だった。相変わらず嫌な雰囲気の人だと心の中で思いながら、視線を前に戻した。その時煌士と目が合った……様な気がした。というのも、彼は相変わらずフードを深く被っていたからである。あまりにも深く被っているので、正面から見ても鼻先から下しか見えないのだ。
あのフードの中はどんな顔なんだろう、などと思っていた美奈は思わず頭を振った。少なくとも自分は恋にあこがれるような性格をしてないと自負していたからだ。
そんなことを考えていると、近くに立っていたメイドの山根が隣にいた水上に小さな声で話しかけているのが聞こえた。
「ねぇ鈴奈。米川さん、いくらなんでも遅すぎじゃないかな?」
「恵理子、業務中よ。私語は慎みなさい」
「ご、ごめん。でも、これだけ遅いなんて何かあったんじゃ……」
「あのねぇ、オーナーは持病なんか持ってないし、怪我をしてるわけじゃないのよ? 恵理子、最近テレビの見すぎじゃないの?」
「そ、そうかな……でも一応様子を見に行ったほうがいいんじゃ……」
「分かったわよ。私が様子見てくるから、あなたは松田さんとここでゲストのお相手をしっかりやってて」
「うん……」
山根の返事を聞くや否や、小さくため息を吐きながら水上は食堂から出て行った。後に残された山根は未だ不安そうな表情だったが、美奈自身小説や差サスペンスドラマのようなことが起こるなどあり得ないと思っていた。……ほんの数秒後までは。
「キャァァァァァァァァァ!!」
一瞬、その場の空気が凍りついた。誰もが、今耳に聞こえたものが悲鳴だと認識するのに数秒かかった。そして、その事実をいち早く認識した松田が少々震えながらゲストに呼びかける。
「げ、ゲストの皆様! 私が様子を見に参りますので、それまでどうかここでじっとしていてください。何のことはありません。きっとメイドが虫か何かに驚いただけだと思いますから」
その場の人間を落ち着かせようと言った言葉だったが、誰もがそんなチャチなことではないことを理解していた。さらにそこへ追撃をかけるように水上が食堂に駆け込んでくる。その目は恐怖に染まり、身体はがたがたと大きく震えていた。
「お、お、お、…オーナーが……!」
震える声で辛うじてそれだけ言った水上の言葉を聞いて、幸一が食堂を飛び出していった。それを止めようとした疾人も後を追うように食堂から飛び出していく。その二人に触発されたかのように、残りの人間も皆彼等の後を追っていった。
「おい、イカサマ坊主! お前何勝手に飛び出してってんだ!」
そう怒鳴りつつ疾人の脳裏に取り乱しきったメイドの言葉が蘇る。
[オーナーが……!]
あの悲鳴をあげたのは間違いなくあの水上というメイドだろう。その後取り乱しきった状態で食堂に駆け込んできて口にしたあの言葉の意味は、疾人にはうすうすと分かっていた。それでも、何かの間違いであってほしいと思いつつ目の前の少年を追う。
だが、現実とは無常なものだった。廊下の突き当たりにある開け放たれた両開きの扉の前で止まった幸一の正面に、それはあった。……背中にナイフを深々とつき立てられた米川老人の死体が。
「何が起こってるんだ……」
呟いた疾人の言葉に答えるものはいない。だがこれだけは言えた。
ここで紛れもない殺人事件が起きた。ということだけは。
えー、どうもおにぎり(鮭)です。
ようやくの更新となりました。しかし低クオリティ……ほんとにごめんなさい。
やらなきゃやらなきゃと思いつつ、なかなか文章構成がまとまらないのでいつもゲームに逃げていたらいつの間にか1月も下旬……クリスマスネタなど古過ぎる状態に……
と、とにかく途中で放り出すことのないようにちゃんと完結させます……!