1 パーティーの始まり
完結は年内を目標にします……
都会から少し離れた場所に位置する小さな街に住む女子高生天川美奈はクリスマス・イブである今日、一人あるイベントの集合場所に向かって歩いていた。
決して友達がいないわけではないが、その性格からせっかく遊びに誘われたのにもかかわらず素直にYesと言えず一人さびしく自宅の壁でも殴っていようかと思っていた矢先に、何の気になしに挑戦してみた商店街の福引で特賞を引き当て今日行われるイベントに参加することになったというわけだ。
「とはいえ、立派なお屋敷でクリスマスパーティーかぁ……私にはどんなサプライズが用意されてるのかさっぱりね……」
元よりこの町は都会から少し離れており、特にこれといって名物らしい名物も無いためセレブな人間とは無縁の場所だった。そのため彼女にはセレブの価値観などが全くといっていいほど理解できないため、これから行われるパーティーも何が起こるか、それどころかどんな風に行われるかも予想でき無いのは仕方の無いことかもしれない。
「それにしても……クリスマスに一人でさびしく過ごすくらいならってパーティーに行くことにしたのはいいけど、学生なんて私くらいよね……」
そんなことを呟きながら集合場所である地元の駅前に到着した美奈。その途端、彼女は踵を返したくなる衝動に駆られた。何故なら駅前の一角にはでかでかと
『商店街主催! 屋敷で豪華なクリスマスパーティー 集合場所』
と書かれた看板を持った男性が立っていたからだ。
「何よ……あれ……」
やはりセレブの考えていることは分からない、と心の中で呟きながら周りの目を気にしながら看板を持っている男性に近づいていく。
「あの……すいません、パーティーの参加者なんですけど……」
周囲からのチクチクとした視線に心臓をバクバク言わせながら、特賞を引き当てた数日後に届けられた招待状を懐から取り出し男性に見せる。
「あぁ、天川様ですね。この度はおめでとうございます」
「はぁ……」
よく見ればこの男性、こんな寒いというのに執事服のみで立っていた。上着は着ないのだろうか、と美奈が疑問に思っていることに気がついたのか男性は
「あぁ、私のことはお気になさらずに。これも仕事ですから」
と軽く微笑みながらそう言った。
「とはいえ、流石にゲストの方までこんな寒い中で待たせるわけには行きませんからね。そこのバスに乗ってお待ちください」
「あ、ありがとうございます」
男性のことがかわいそうだとは思いながらも、自分までわざわざ一緒に寒い場所で待ちぼうけするつもりの無い彼女は一言礼を言うとそそくさとバスに乗り込んだ。
バスには既に何人か乗り込んでいたが、その中の全員が美奈と同い年辺りか年下であることに彼女は驚いた。
(このイベント、学生限定なんて指定あったかしら? ま、大人ばっかりの中に学生一人、なんてシチュエーションよりは気が楽ね)
そんなことを考えながら誰も座っていない席に腰を下ろす。たかだか地元の駅まで歩いて来ただけだが、それほど運動が得意でもない彼女にとってはそれだけでも重労働だったようだ。やっぱり乙女はそんなに歩くものじゃないのよ、などとぶつぶつ言いながら腰辺りまで結わずに伸ばしている髪を手櫛で整えていると、突然後ろの座席から
「ちょっとおねーさん。あんまり席揺らさないでくれないかな? 僕は今トランプの整理をしているんだ」
という声が聞こえた。少々ムッとしながら後ろを振り向くとそこに座っていたのは小学生くらいの少年と少女だった。どうやら文句を言ってきたのは男の子の方のようだ。
「あら、それは失礼したわね。でもそんな細かい作業ならちゃんと家でしてくるべきよ、僕?」
自分よりも明らかに年下の少年に生意気な口を聞かれたことへの腹いせに、小馬鹿にしたような口調でそう言い返した美奈は少しだけ得意げな顔をしていた。
しかし
「そっちこそ、公共の場所で堂々と身だしなみを整えるなんて女性としてどうかと思うけどね。そういうのはもっと目立たないところでするべきでしょ?」
という、手痛い反撃を食らってしまった。だが、少年の言葉は確かに正論でこちらが反撃できる隙などこれっぽちも無かったため、不本意ながらも美奈は引き下がることにした。
その後、大き目のヘッドホンを首にかけた少年と、深めにフードを被り素顔の見えない怪しい少年がバスに乗り込み、その後に例の執事服を着た男性が乗り込んできて参加者が揃った旨を伝えた。
「ようやくこのバスも発車か。ずいぶんと待たされたもんだな」
「そうだね。楽しみだな……」
男性の言葉に美奈の後ろに座っている二人がそんな会話をする。少年のほうは生意気で好きになれそうにも無いが、彼の隣に座っている少女のほうは純粋にパーティーを楽しみにしているといった感情が伝わって来たので好感が持てた。
自分のほかには一体どんな人間が着ているのだろうと、改めて確認したくなった美奈はそっと後ろを振り向いた。
まずは先ほどの小生意気な少年。野球ファンなのか、プロ野球チームの帽子を被っている。こだわっているのはそこだけのようで、後は至って普通の赤いトレーナーにジーンズと言った服装だった。
続いてその隣に座っている少女。わずかに緑がかった白銀の髪に、エメラルドグリーン色の瞳。そして白地に黒いラインの入ったコートを着込んだ彼女は、年相応の幼さを残しながらもどこか大人びた印象を美奈に与えていた。
その二人と通路を挟んだ反対側に座っているのは神父のような青年だった。大人、というほど年をとっているわけでもなさそうだが、少年という表現が似合うほどの人物にも見えない。なんとなく、とらえどころの無い人だと美奈は思った。
その後ろに座っているのはいわゆる童顔で、ミディアムロングの薄い茶髪の美奈と同じくらいの少女だった。ぱっと見普通の女子高生に見えるが、どこと無く病的なものを持っていそうな雰囲気を漂わせていることに美奈は気がついた。そのことに悟られないうちに次の人物へと目を移す。
童顔の少女と通路を挟んで座っているのは美奈より後になって乗り込んできた例のフードを被った人物だった。灰色のパーカーのフードを深く被っているため人相は分からない。背格好的には美奈と同年代辺りだとは推測できたのだが、それ以外は全く分からないので次の人物へ。
フードの人物の隣に座っているのは、揺れるバスの中だというのに携帯ゲーム機に熱中している少年だった。見た目は、男子だというのにこめかみの辺りに水色のヘアピンを留め、青いパーカーにジーンズという格好だった。それにしても酔わないのだろうかと思わざるを得ない美奈は、しかしあまりに見すぎていると不審に思われるかと思い次の人物へ。最も、先ほどからずっと後ろを向いて他人を観察している彼女自身が少々不審に思われているとはこれっぽちも知らずに。
最後に、一番後ろの席に座っている少年へと目をやる。例のヘッドホンの少年だ。黒い髪にカラコン……だろうか? 水色の瞳をしており、服装は至って普通のパーカーに長ズボンと言った出で立ちだった。
(って、結局大人一人もいないじゃない)
いよいよ学生限定のイベントだったかのかと、疑問に思った美奈であったがそんな旨はどこにも書いていなかったことを思い出し、世の中不思議なこともあったものね、と一言呟いてそれ以上の追求はやめにした。
そんなことをしているうちにバスは屋敷に到着し、執事の男性がバスの運転手となにやら打ち合わせをしてから屋敷へ案内すると言った。
バスを降りた途端、その場にいた美奈を含むゲスト全員が驚きを隠せなかった。何しろ、何も名物など無いこの街の近くにこんな大きな(セレブからすればきっと小さいほうなのだろうが)屋敷があるなどとは全く知らなかったのだから。
そんな感動はすぐに冷め、それを上回る寒さに耐え切れなくなったゲスト一同は早々に荷物を持って屋敷に入っていった。
楽しいパーティーになるはずだった。誰もあんなことが起きるなどと予想もしていなかった。しかし、自体はゆっくりとだが確実に進行していた。
今、血に染まったパーティーの幕が上がろうとしている。
終わるんだろうか……これ。
とりあえず、感想などお待ちしております