エピソード2
乾いた地面。
踏みしめるたびに、細かい砂が軋む。
曇天。
重く垂れ込めた空の下、
響くのは――銃声と、怒号と、
途切れかけた命の音。
焦げた匂い。
鉄の味。
そして、鼻の奥に残る――硝煙。
「……い」
視界が、揺れる。
その瞬間――
「おいってば!!」
強く引き戻されるように、意識が浮上する。
硝煙の匂いは、いつの間にか
どこか柔らかい、
フリージアのような香りに変わっていた。
曇っていたはずの空は――
抜けるような青。
その青を背にして、
何かがこちらを覗き込んでいる。
燻んだ黄色の体毛。
丸く、少し間の抜けたシルエット。
黄緑の迷彩みたいな羽毛に包まれた、
鳥にしては平たい顔。
そして――
ブルーベリーみたいな、丸い目。
じっと、こっちを見ている。
目が合った瞬間。
「あ、おはよう」
当たり前みたいに、そいつは言った。
オウム目フクロオウム科。
飛べない鳥。
カカポ。
――名前は、まだない。
ゆっくりと上半身を起こす。
その拍子に、身体にかけていた
黒のロング雨衣がずれて――
「うわわわ〜!!」
一緒に乗っていたカカポが、
ハンモックからコロコロと転げ落ちた。
少し遅れて、静寂。
……風が、吹く。
ここは郊外の山頂公園。
彼女達を見下ろす様にリアシートを中心に
左右に垂れる合成革のサイドバック。
リアシートの上には真新しい取手にテープで雑に修理された酷く年季が入り革のトランク。
小高い手入れはされているけど、平日の昼間、
人の気配はほとんどない。
気温はやや高い。
けれど、吹き抜ける風が心地よくて、
暑さは感じなかった。
さっきまでの“あの場所”が、
嘘みたいに遠い。
彼女は小さく息を吐いて――
「……ありがとう」
ぽつりと、呟いた。
ほんの少しだけ、心を込めて。
カカポは首を傾げる。
「え、どういたしまして?」
間の抜けた返事。
でも、その軽さが、ちょうどいい。
ふと、昔読んだ本の一節がよぎる。
――人は、鳥を見ると旅に出たくなる。
空を見上げる。
青は、どこまでも高くて――
まるで、どこにでも行けそうだった。
彼女の赤いツインテールが、風に揺れる。
まだ、何も始まっていないみたいな顔で。
でも――
どこか、もう戻れない場所を知っている目で。




