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僕の色に輝くステラ  作者: 真野 時雨


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3/3

命を奪うということ

「おはよう、アルカ」

「リノ、おはよう。今日も朝の訓練お疲れ様。今日の神父様との訓練は何をするの?」

「それが、今日はよくわからないんだ。昨日の訓練の後、夜はよく休んでおくようにって言われたけれど、何か特別なことでもするのかな」

 朝食を食べながら、昨日の訓練を思い返す。するとリノは、普段のシグルと違い、思考が伴っていると考えずらい動きが多くあったことに気が付いた。ただひたすらに急所である首を狙う。単調であるがひどく重い一撃。

 何か関係があるのかな............

「リノ、朝食をとったら真剣を持って外に来るんだ」

「神父様!いつもは訓練は午後からなのに、今日は早いね。何をするの?」

 純粋な興味からの質問にシグルは、「命の勉強だ」と言った。

 普段の様子とは少し違い、真剣な表情を浮かべるシグルを見て、リノは背筋を伸ばした。


「神父様…」

これまでにないほど緊張を感じている。シグルは命の勉強と言った。騎士になれば命に剣を向けることになるのは当たり前である。それが例え悪人であっても、魔物であっても、命であることに変わりはない。確かにその身をもって体験し、命の重さを感じる必要があるかもしれない。けれど、それは騎士になると決めた時から分かりきっていたこと。人々を守るためには必要なことだ。リノはそう思った。この時のリノにはまだかけらも想像できていなかったのだ。

「リノ、今日から週二日は森に入って魔物を討伐する。リノはまだ対人訓練しかしたことがないから本物の殺意に触れる機会がなかったが、試験まであと二年、実践で経験を積むんだ」

 この言葉が、リノが騎士になるためのスタートラインに立つ最終試験の始まりを告げていた。


 ズシャッ! ビチャッ…!

 あの日巨体に見えたゴブリンは、今では剣を一振りすれば討伐できた。

 確かに強くなったリノは、魔物に後れを取ることはほとんどなかった。

 スライム、ホーンラビット、ゴブリン、オークなど、Eランクまでの魔物は一通り単騎で倒せるようになっていた。

「うん、これくらいは一人でやれるな。次からはもう少し奥に行く、今日はゆっくり休むように」

 初日は魔物を狩ることに必死で、命についてよく考えられなかった。

 魔物は本気で殺そうと襲ってくる。集中しないと殺されるかもしれないと思うとどうにも余裕がなくなってしまった。


 魔物を討伐するようになって一年半が過ぎた。

 リノは、シグルのサポートを受ければDランクの魔物も討伐できるほど成長していた。

「よくやったリノ、今日はオーガ5体だな」

「ありがとう、魔物を討伐するのもだいぶ慣れてきたよ」

 この一年半で多くの魔物を討伐してきた。

 命を奪うということが少しはわかってきたのではないかと思っていた。この時までは。

「もう日が落ちる、今日はここまで…」

 振り返ったシグルの目の前には、顔の半分を口が占める黒い魔物がいた。

 ............⁉ ゴフッ…! 

「神父様!」

 驚いた時にはすでにシグルは後方に蹴り飛ばされていた。

 訓練を始めて4年がたったころ、リノは一度だけシグルの本気を見せてもらっていた。目にもとまらぬ速さとはこれのことだと感嘆した。

 しかし、今目の前にいる魔物はシグルの速さを上回っていた。

「............ヒト…ガタ」

 シグルが立ち上がりながら呟く。

 ヒトガタ、Aランクの魔物。シルエットは人間のようであり、身長は個体によってさまざまである。特徴的なのは手が人間の倍ほどあること、目や鼻は無く、顔とされる部位にはその半分を占めるほどの大きな口があること、ほかの魔物と違って知能が高く、強者を求めて戦いを挑み、快楽のために殺すということ。

 目の前のヒトガタは傷ついたシグルと恐怖するリノを見て楽しんでいた。シグルを指さしながら腹を抱えて笑っていた。それに怒りを覚えたリノに不気味な笑みを浮かべながら首を傾げゆっくりと近づく。

 リノは死を覚悟したが、ただでやられる気などなかった。

「うぉぉぉ!!」

 自らの恐怖を払いのけるため、雄たけびを上げてヒトガタに向かって走った。

 瞬きなどする間もなかった、そのはずなのに気づいたら目の前にヒトガタの顔があった。

 「ウッ…!」

 ベシャッ…!

 リノは後方の巨木に背中を打ち付けた。今の一撃ですでに肋骨は4本は折れた。脳震盪だろうか、立ち上がることもできない。

 ヒトガタが目の前で拳を振り上げる。

 何もできずに終わるのか............?

 ズザッ!

 そのとき、シグルの振るった大剣がヒトガタの頭部に当たり、ヒトガタが飛ばされる。

「誰だって…勝利を確信したら…気が抜けるよな............」

 手負いとはいえシグルの一撃がまともに入った。しばらくは動きも鈍くなるとリノは考えた。しかし、ヒトガタはパラパラと音を立てながら立ち上がる。

「ケヒッ!」

 力強く地面を蹴ったヒトガタはシグルに向かって手を伸ばす。

 シグルとヒトガタの速さは目で追えるものではなかった。リノは、目の前で起こっている出来事が理解できず、数秒硬直した。

 攻撃が向けられるたび、瞬時に剣で攻撃をいなし直撃を回避するが、少しづつ体をかすり確実にシグルにダメージを負わせる。だが、10秒もたつ頃にはシグルの動きはリノの目で追える速さまで減速していた。

 ここまで減速してはヒトガタの攻撃をいなすことも難しく、リノが一度瞬きをする間に、ヒトガタの鋭い手がシグルの腹部を貫いていた。

「ゴフッッ…‼」

 びちゃびちゃと音を立てながら地面に血が流れる。誰もが即死と信じて疑わない光景に、リノは言い表すこともできない黒い感情があふれ出す。

 「ああああああああ!」

 攻撃なんてできたものじゃないようなおぼつかない足でヒトガタに向かう。理性なんて働いていなかった。

 そのとき、ヒトガタが塵になって消えた。リノは何も状況を理解できなかった。

「えっ…、!! 神父様!」

 駆け寄るとシグルも塵になって消えた。

「神父様!」

 そう叫ぶと背後からシグルの声がした。

「実感できたか、リノ」

「⁉ 神父様! よかった…、無事で」

 涙で瞳を埋めるリノにシグルが話し始める。

「命を奪うってことは奪われるってことなんだ。魔物討伐で感じた殺されるかもしれないという恐怖、肌で感じたならわかると思うが、俺たちはいつでも奪われる側にいる、魔物なんて視界に入ればほぼ無条件で殺しに来るからな。だから、強くなったからと言って奪う側だと思ってはいけない。その慢心が命取りだ。そして、俺が死んで分かったように、その奪われる側にはリノだけじゃない、仲間もいるんだ。自分の力不足で死ぬのは自分だけじゃない、それを忘れないように訓練に励め」

「うっ............はい…、」

 涙ながらに答えた。

 教会に帰ってから教えられた。森で遭遇したヒトガタや戦闘していたことそのものがシグルが生み出した幻だったこと。

 シグルは剣術だけでなく魔法もかなりの精度で使うことができた。痛覚も、精神魔法の応用で幻覚を見せ、被術者が幻覚状態に入れ込むことで発現させることができる。

「いつになっても勝てる気しないよ」

 リノは、シグルへの尊敬の念を深めるとともに、どれだけ鍛錬しても、強くなっても終わりなんてないということが分かった。

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