努力という才能
ーーガンッッ、ガコッッ!
「まだまだ弱いぞ! 腕だけで剣を振るな、全身の体重を剣にのせるんだ!」
「はい!」
シグルの振るう木剣が、リノの構える木剣を薙ぎ払う。
「うわっ、っった……」
リノは、シグルに薙ぎ払われた勢いで地面に転がる。
シグルは手を差し出しながら言う。
「こんなんじゃまだ騎士になるのは先だな。」
「……神父さまが強すぎるんですよ……。稽古つけてもらい始めて一か月たつのに僕まだ一回も神父様に剣当てられてないし、褒められたことすらないんですけど。」
自分の成長を感じられないリノは焦りを感じ始めていた。
「ははは!元騎士団の俺が、初めて一か月のやつに剣当てられてたらまずいだろ。いいか、リノ、稽古をつけ始めるときにも言ったが、実力が付いたと実感できるまでには時間がかかる。何年もかかることが普通なんだ。それに、お前はまだ体が出来上がってないだろ。まだ伸びなくて当然だ。稽古で守るルール覚えてるか?」
「ご飯をしっかり食べること、基礎訓練を大切にすること、自分の頭で考えること、痛みを知ること、休息も訓練。」
「その通りだ、ちゃんと覚えてたな。」
頭にのせられた手がリノに安心感を与える。
「そのルールを守って、努力を継続するんだ。」
「はい。」
結果が出るにはまだ早すぎるんだ……、まだまだ頑張らないと。
ーー三年後ーー
「おはよう、リノ」
「アルカ、おはよう」
パンをほおばりながら答える。
「毎日毎日よく食べるね。三人前は食べてるんじゃない? 筋肉もついてきて、ほんといい体になったよ。」
三年間、毎日訓練していたリノの体は以前とは見違えるほど鍛え上げられたものとなっていた。
「ありがとう、でもまだ神父様には一撃も入れられてないんだ。僕には才能もセンスもないから、もっと頑張らないと。」
「焦りすぎだよ、リノはよく頑張ってるだろ? こんなしんどいこと、そうやすやすとできないよ。リノには努力っていう才能があるんだと僕は思うよ。」
朝、起きたらまず走り込み、汗を拭いたら孤児院のみんなと朝食を少なくとも三人前はとる。学園入学のための筆記試験の勉強をして、昼食をとり、基礎訓練をする。シグルと打ち合い稽古をして、その日の稽古の反省点をまとめ、改善策を考える。夕食をとったらまた、筆記試験の勉強をし、遅くならないうちに眠る。リノは三年間、このサイクルを中心とした生活を送っていた。
「……努力が…才能……。」
ガコンッッ……、ゴッッ!
「はぁー…、今日も一撃も入れられなかった。」
「だが、日に日に剣が重くなってきている。体の重心も安定してきたし、踏み込みも良くなってきた。基礎訓練の成果が出ているな。」
その言葉を聞いてリノは驚きを隠せなかった。
えっ…、成果が出てる? 一撃も入れられていないのに? 基礎訓練の成果……出てたんだ。稽古をつけてもらうようになってから一度も実感できたことはなかったのに……
「よく頑張っている。学園入学試験まであと一年だ。ここからは追い込みだぞ。明日からは本格的な剣術の稽古に入る。これまでは剣を扱うための稽古だったが、これからは剣を持つ者と戦う稽古だ。気を抜くなよ。」
「はい!」
やっと一歩先へ進める。
剣で戦う稽古を始めて10か月。
ズザッ!
「踏み込みが甘い! 間合いまで入らないと剣は当たらないぞ!」
「はい!」
相手の間合いを正確に把握しろ。
「剣の動きだけを追うな! 俯瞰して全体を見るんだ!」
「はい!」
県で戦っていたとしても、攻撃方法が剣だけとは限らないんだ!
「目線で次の手が丸わかりだ! もっと工夫しろ!」
「はい!」
目線ですべてがばれてしまう。フェイクを入れてみるか。ポーカーフェイスを極めた先に、だれにも読ませない表情や目線があるんだ。
この時にリノはゾーンに入ったような感覚で、いつもより思考も動きも速かった。
じゃあ、もっと踏み込みを深くして、一歩で間合いに入ったらどうなるかな。今の僕ならそれができる気がする。神父様は僕の目線を追えるくらい多くのことが見えているし、剣の動きで神父様の意識を誘導して、そのすきに視野の外から背後に回ってみたらどうなるんだろう。神父様は僕がまだ揺動なんてしないと思っているだろうし、油断している今なら上手くいくかもしれない。あぁ…! 楽しい!
リノは剣を逆手に持ち替え、体をシグルの後方に流しながら姿勢を下に落とし、シグルの胸をめがけて剣を伸ばした。その一瞬、強烈な殺気を感じたシグルは、戦場を思い出し、剣を裁くことで精いっぱいだった。リノは、裁かれた剣の勢いを利用し剣を持ち替え、シグルの首に突きつける。
「うっ……、はは…、負けたよ。よくやった、合格だ。」
シグルは笑みをこぼしながら言った。
「はぁ…、はっ、っっ……はぁ…。合…格?」
「あぁ、合格だ。これなら入学試験も大丈夫だ。よく頑張ったな。まさかあんな揺動を仕掛けてくるなんて、成長したんだなぁ。」
「あ……ぼく…、あんまり覚えてなくて、」
自然と涙が溢れてくる。
才能もセンスもないと思っていた。努力しか取り柄がなくて、そんな僕が騎士なんて無理なんだって思い始めてた。でも、なれるかもしれないんだ、あの人みたいな騎士に。




