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僕の色に輝くステラ  作者: 真野 時雨


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あなたの色に輝くステラ

「リノ、前へ」

「はっ」

 僅かに震える足を前に出し、王の御前へと歩き跪く。

 今日から僕にもステラが与えられる……これでまたあの人に会えるだろうか……



 教会に併設される孤児院では、今日も子供たちの元気な声が響く。

「神父さまっ」

「リノ、おはよう。今日も元気だなぁ」

 シグルの豆だらけで大きな手がリノの頭を心地よく撫でる。

「神父さまっ、あのねあのね、ぼくね、森に行きたいんだ!」

「森? 何で森に行きたいんだ? 森は怖い魔物が出るし、リノにはまだ早いだろう」

「ぼく、アドゥリノアの花がほしいんだ。つぎの水日はアルカのお誕生日だから、アルカの目の色と同じ色のお花をあげたいの! 森にあるってご本に書いてあったんだ!」

 キラキラした瞳で訴えかけられ、シグルの心も揺れざるを得なかった。だが、森には魔物が住み着いており、剣の腕がたつシグルでも、行動の予測がしづらい子供を守りながら森に入ることは難しかった。

「ごめんなぁ、リノ……森は危ないから入れないんだ。次の光日に町に贈り物を買いに行こうな」

 リノは聞き分けのいい子だ……落ち込んでいるのはかわいそうだが、安全には変えられないよな……


 そんなことを話した日から二日がたった。昼前の時間、礼拝に訪れる者も多く、シグルも忙しくしていた。すると…

「シグル神父様!」

 孤児院にいたはずのシスターが息を切らしながら教会に入ってきた。

「マリー? どうしたんだそんなに慌てて、一応ここ神聖な教会内…」

 シグルの言葉を待たずにマリーが叫ぶ。

「リノが…リノが居なくなったんです! 心当たりの場所は探したのですが……」

 その言葉を聞いて、シグルはリノと話したことを思い出した。

「リノッ」

 教会での仕事はすべて頭から抜け落ち、リノのことだけが残った。

 まさか森に入ったのかっ……一人で!?

 嫌な想像が頭の中を巡る。

 魔物に襲われていたらっ…けがをしていたらっ…リノ…!


 リノは、孤児院のみんなとのかくれんぼの間、考えに耽っていた。

「うーん…アルカのお誕生日まであと二日……、今なら森に入っても気づかれないよね、お花見つけてすぐに帰ってこれば大丈夫!」

 魔物が危険な存在だということを教えられていても、実際に目にしたことのないリノはその本当の怖さがわかっていなかった。

「深い青のお花…ないなぁ…。あっ! あった、あれだっ!」

 ずっと求めていた花を見つけたリノの意識はアドゥリノアの花に釘付けだった。

「いっぱいある、たくさんあったほうがアルカも喜ぶよね! ……あれ、暗い…?」

 後ろを振り返ったリノは、驚きと恐怖で、出したはずの声も声にならなかった。

「ッッ!? あぁぁっ…!」

 魔物!? ゴブリンだ! 気が付かなかった……大きい…怖い…!

「ハッッハッッ…来ないでぇ!」

 恐怖で鉛のように重くなる足を途切れそうな気力で動かし、息を切らしながら必死に逃げる。しかし、子供の足で逃げ切れるわけもなく転んでしまう。

「うっ…、…はっ!」

 振り返るとそこには、粗末な棍棒を大きく振り上げたゴブリンがいた。

 ッッ……僕…死んじゃうのかな……嫌だ…! 死にたくない!

「神父さまぁぁぁ!」

 …………ズシャッッ

 肉が裂ける音とともに、地面を踏みしめる力強い音がした。リノは太陽の光で七色に輝く宝石を瞳に映したまま、その女騎士の大きな背中の安心感に動くことができなかった。

「怪我はなぁい? しょーねんっ」

 振り返って、微笑とともに差し出された手は魔物と戦うには小さかった。

「…はい」

 差し出された手を取ろうと、リノが手を伸ばした時、聞き覚えのある声が聞こえた。

「リノ!」

「神父さま!」

 リノはシグルのほうへ走り出す。

「こんのだぁほ!」

 言葉とは裏腹に、硬く抱きしめるその腕は微かに震えていた。

「うぅぅ……ごめんなさぁい……!」

 抱きしめられた痛みすら心地よく、リノは安心と迷惑をかけてしまったという罪悪感で一気に涙が止まらなくなった。

「この子のこと、助けてくれてありがとうございます。その制服…王都の騎士団の方ですか?」

 そう尋ねられると、女騎士は目を泳がせながら答える。

「あー……そうそう! そうなんです。視察でいろいろな村を回っていて……」

「……? 本当に助かりました。ほら、リノもちゃんとお礼を言うんだ。」

「助けてくれてありがとうございました。」

 女騎士の耳元で揺れる宝石の光が、涙のたまった瞳に届く。リノは、そのまぶしさに目を細めた。

 遠くで人の声がする。誰かの名前を呼んでいるような。

「やばっ、私そろそろ行くねー! 森の外まで送っていけなくて申し訳ないけど、あなたが一緒なら大丈夫な気がする。少年が無事でよかった。もう一人で森に入っちゃだめだよ。」

 木漏れ日のような優しい笑みを浮かべると、つい目を閉じたくなるような風と共にその姿は消えていた。

「あの人、王都の騎士さんなの?」

「うーん…制服は王都の騎士のものだったけど、なんか変な感じだったんだよな……」

 最後の…俺が居れば大丈夫っていうのも、俺の事を知らないはずなのにすべてを見透かされているみたいな……何者なんだ?

「神父さま、僕騎士になりたい。すごくかっこよかったんだ。僕もあんなかっこいい、みんなを守れる騎士になりたい。」

 その言葉を聞いてシグルは驚いた。リノは特別運動が得意なわけではなかった。どちらかというと本を読んでいることのほうが多くて、自分から外に出たいということも少ない。そんなリノが自ら騎士になりたいと言った。

「騎士になるのは簡単じゃないんだ。痛いことだってたくさんある。学園にだって行かなきゃならない。…リノ、頑張れるか?」

 自分が歩いてきた血生臭い道を子供たちに歩ませたくないという気持ちは前々からあった。過酷だと分かっている騎士の道に進むことを応援するのは本当にこの子のためになるだろうかという葛藤があったのだ。しかし、我が子のようにかわいがっている子の語った夢を否定せず、応援してやりたいという親心が邪魔をする。

「僕頑張る。かっこいい騎士になるよ。」

その瞳には確かな覚悟が宿っているように見えた。

「そうか、じゃあ今日から俺と特訓だ。騎士は剣ができなきゃ話にならないからな。あと、学園に入るんだから勉強も頑張らないとだな。」

 シグルは、騎士に憧れるリノに過去の自分の影を見た。

 どうかこの子の生きる未来が、明るいものでありますように……

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