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楽しいだけでは終われない、お出かけのこと

何故こんなに、理不尽があるのか、どうして私たちは無力なのか、楽しいだけのお出かけだったのに、一歩踏み出せば違ったものが見えてきて。

優しいあの子が本当に変えたいものは、この世界の(ことわり)で。世の無情が、全ての不幸の始まりだった。

許せない、自分が無知であること。知らないこと、知りたいこと、たくさんあるけれど、あの子の悲しみが癒えることはもうないことが、悔しくて。



「ディアナ様、、、」ハッと、リリィちゃんに声をかけられ驚いてしまいました。そうです。今は、彼女と楽しいお出かけでした。だから、こんな混沌を考えているのは失礼になります。

「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていたようですわ。」そう、切り返します。

「きっとディアナ様はお優しいので心配しているのでしょうが、あの方たちも、理解はしています。上手くいかないことがあると。だけど、領地に戻るにも、戻れる術も何もなく、戻ったところで今以上の搾取がある。だから、ここで燻るしかないんです。」まるで、リリィちゃんが他人事のように、冷たく切り離すことが、少し堪えて、私を驚かせます。

「ですので、ディアナ様。私は特待生になることにしたのです。不条理を、この公平でない世の中の人々の助けになるよう、是正できる知識をつけるために。そして王城の役人になって力をつけ、制度の公平性を届けるために。」少し和らいで微笑むリリィちゃんが、どこか寂しげなのはどうしてでしょうか??「リリィさん、貴女は、どうして知らない人たちの為に、そんなに学ぼうとしているのですか??」だって、彼女の両親は彼女を応援して、金銭面や生活面に協力的です。

特待生の就職先でやはり1番人気なのは、エリート街道の花形である王城の役人になり将来的に幹部になることです。だけど、ここで学んだことを活用する方法はまだまだあって、家族のために学んで故郷に帰り、その領主の元で役人になり稼ぐ人もいます。リリィちゃんは両親を大切にしているので戻るのだろうと思っていましたが、なぜ役人になって公平性を届けるなどという様な、知らない様な人たちのためという、願いを持つのでしょうか??私には、わからない、、、私は、自分とその周りの人のことしか、見ていない薄情な人間ですから。。。

「それは。。。」少し言い淀むリリィちゃん。核心をついてしまったのでしょうか。「ごめんなさい。言いたくないことなら聞きませんわ。少し好奇心が過ぎてしまいました。許してくださるかしら??」そのように、謝りましたが、リリィちゃんは、悩ましそうにしながらも、私に教えてくれることにしたようです。

「楽しいお話ではないです。それでもよければ聞いてくださいますか??」「えぇ、貴女が、嫌でないのなら。」


「私が住むヴァルト領は、この王国の最北端にありますが、初等部教育がちゃんと行われていました。土地は裕福ではないんですが、領主様がとてもお優しい方なので、領民のためになることは何でも考えてくださる方でした。ですので、王家からの通達である初等部教育も熱心に我々に与えてくださっていました。………ディアナ様、この初等部教育、どこの領地でも公平に行われているとお考えでしょうか?」

「え??この制度、王国としての予算配分がされていますわよね?それなら、王家からの勅命ですから、どちらの領地でもキチンと行われるのではなくて?」フルフルと、苦虫を噛み潰した表情で、リリィちゃんが首を振ります。

「…ここからは、()()()のディアナ様にお伝えできないことです。」

伝えられないとは、どういうことなのか?少し逡巡しましたが、‘貴族に’言えないことということは、きっと()()()()ことなのでしょう。


「…貴族にも様々な方がいらっしゃいますが、()()()()()()がいると?」

「先程、私の住むヴァルト領は、初等部教育が行き届いているとお伝えしました。けれど今は、そのようになっていないのです。」「なぜ?初等部教育は予算がありますわ。継続するだけならば新たに興すものではないから続けることに何も問題にならないのでは?」

「確かに、まともな領主様の統治する場所はその勅命を遵守して、領民へ全てを還元します。ですが、領民を人として見ていない場所では、その予算が公平に適応しなくとも、まかり通ります。」「えっ。だけど、そんなことをしたとしても王城直属の監査が入るでしょう??一発でバレてしまうわ?」

「ディアナ様、それは全ての王城に属する役人が、正しく公平に実施をしていれば是正されますが、全てが公平とは言えないんです。澱みは、どこにでも隠れているんです……」

「…その澱みで、もし仮に、私腹を肥やすような貴族がいたとして、それは、どのような澱みとなったのでしょう??」


「……私には、仲の良い幼馴染がいました。家が近くて、両親の仕事が似ていたので、よく一緒に遊んでいました。彼女は、デイジーは、賢い女の子でした。そして両親を大切にしていて、優しくてとても勉強熱心な子でした。ですから、将来は特待生になるため試験資格を領主様から貰って、王都に行く費用も貯めて両親を楽にさせたいと言っていました。けれど、私たちが入学した年に領主様が倒れられて、、、その弟様が領主代理となりました。最初は、小さな違和感でした。周りがザワザワするような、そんな小さな違和感しかなかったんです。だけど初等部教育2年の時に、学園講義の質が下がり、また学ぶべき生徒が減っていきました。その代わり、学園内の調度品がとても、豪奢なものとなっていきました。そして、この頃からなんです。突然、学園内の生徒に与えていた無償の教材が、全て有償となってしまったのです。……とうとう、領主代理様が、私たち学生の選別を始めたんです。教材の買えぬ生徒は、入学をしなくとも良いと。在学を認めないと。親の職業が、見合わないものも、ここで学ぶ必要はないと。私は、両親がかろうじて‘市民’として認められる花屋を営んでおりましたので、そのままの在学を許されましたが、デイジーは、両親が農家を営んでおりました。ですので、‘選別’の対象となったんです。。。おかしいですよね。私たちが売るその花を作る方が、農家なのに。私とあの子で、線引きがなされた。私は学べて、私より賢いあの子が、学べなくなった。不条理だと思えませんか??」そう、リリィちゃんが、私を悲しそうな目で見つめてきます。けれど私は、、、

「え?初等部教育は、‘全て’の市民に与えられた、権利ではありませんでしたか??勝手に、領主代理の判断で通うものの選定は行えないはずでは、、、それに、親の職業での選別など、行えるのですか??」驚いて、ルルを目に入れ確認をしてしまいました。

「……お嬢様。お嬢様は、貴族から‘全ての市民’に与えるべき義務とお考えですが、本来初等部教育は、‘全ての市民’に与えられた()()を行使できるよう、()()()()()()があるだけです。ですので、どのような方を入学させるかまでは、王国の法には定められておりません。学べる環境を整えるための設備投資を、王国の予算で賄っているだけでございます。それ以上は、各領主判断になっておりますので、‘どこまで’の子息を入学させるかも、領主判断となります。」

「そんな…。そんなこと、(わたくし)の領地の子どもたちは全員、入学を義務付けられていましたわよね??その中で1番優等生の子に特待生制度を利用する資格を与えていたはずよ。、」「……それは。お嬢様のご実家、シルヴァン家は、改革派に属する王妃様の派閥でございますから。この事業の推進を進めております皆様は、それを至上の使命にしております。」ルルが、言いにくそうに、私に理由を教えてくれました。私が今まで興味を持たずに目を逸らしていた社会の仕組みを、関係性を教えてくれます。。。「……お嬢様。お嬢様は、リリィさんを含めた特待生の方を‘市民’と仰っておりますが、貴族の保守派の皆様にとって、階級上は、王族、貴族、貴族の階級制の下に、‘平民’として、3つの身分に分けて考えております。そして特に‘平民’の中にも貴族の階級のように、その職業によって、‘区別’を設けています。お嬢様は、改革派の環境で学ばれましたので、リリィさん方特待生の方を‘市民’と考えておりますが、こちらの考え方は改革派が発足した際に王妃派閥の方により、蔑称を改めた言葉になります。そして、王城から派遣される役人も、元を辿れば貴族の棒系や、裕福な家庭の方、派閥に属した方が大勢いらっしゃいますので、その方々の監査であれば、問題となることがありません。それは、領主が認めた‘必要経費’として裁量されたものとみなされます。また、特待生制度の資格をどのように市民に与えるかも、領主の裁量となります。。。」ルルが、現実を突きつけます。こんな、不条理な道理が通っていいのでしょうか…私には、そう思えません、、、

「ディアナ様。デイジーは、私を恨んでいました。同じ‘人’であるのに私が学べて、自分が学ぶことができないことに。農家であるだけで、全てを奪われたことに。。。だからあの子は、あの子の一家は、領地から去り、王都に来ました。あの子の賢さで、この地で、全てを変えるために。。。この頃から私の住むヴァルト領も、市民の住む場所で質が変わり出したんです。まるで、スラムの様な場所ができて、それ以外の市民と分られるかの様に。土地を治める方が変わった数年でここまで変わるとは考えられませんよね。だけど、領主代理様は、特待生制度の資格自体は、最も秀でた者に与えると仰ったので、必死に1番を目指して、私が特待生になりました。そしてデイジーを探してこの地に着いた頃には、足取りが途絶えていて、あの子の居場所がわからなくなっていました。もう、どこを探しても、どこにいるかもわからないのです、、、」本当は、親友を追うためにこの地に来るため、一生懸命学んだそうです。そしてまた会いたい一心で、この地に着いたというのに、あの子には会えなかった。それが、リリィちゃんが、特待生になった理由。そのために、必死に勉学に励んで、人の上を目指し、特待生としての試験を受ける費用を貯めて、その試験費をも負担して。そして合格を掴み取った。そんな今も両親に迷惑をかけないようにバイトもして、、、この子は本当に、一生懸命な女の子です。。。リリィちゃんはずっと、こんな目に合わせた領主と同じ貴族である私と一緒にいてくれていました、、、どうしてこの子は、こんなにも私に優しいんでしょう??だって、この不条理な貴族と同じ私を目の敵にすることはあっても、親切にする必要がないではないですか。この子の優しさが感じられるからこそ、私は不思議で仕方ないのです。

「ねぇ、リリィさん。どうして、貴女は、(わたくし)にこんなに親切なのかしら?(わたくし)、貴女のこと、本当に理解などしていませんでしたわ。だって、以前も話したけれど、勝手に貴女を気に入って、突っ込んでいって迷惑をかけた(わたくし)は、貴女の親友を酷い目に合わせた貴族と同じだというのに、拒絶しないなんて、貴女のメリットが本当にないと思いませんか??入学式に間に合ったくらいで、見合う対価では全然ないわ。それに、(わたくし)、貴女を通して他の人を見ていたって、言いましたわよね?こんな不条理に苛まれていた貴女が、どうしてこんなにも(わたくし)を大切に考えてくださるの??」ホントに不思議なんです。だって私は、いまだに彼女を、ちゃんと見ていなかったんです。だというのに、彼女自身は、私をちゃんと見ています。それが不思議なんです。

「ディアナ様。以前も言いましたよ?私、()()性格なんです。私、まだ言ってなかったんですけど、ディアナ様が私を通して他の人を追うように、私は貴女を通して、デイジーを、追っているんです。デイジーは、凛として真面目な子で、だけどちょっとおっちょこちょいで、それでいて、とても優しい女の子だったんです。いつも私を追っていて、私を大切にしてくれた。まるで、姉のようで、妹みたいな、女の子でした。だから、ディアナ様は、何もお気になさることではないのです。私の方が、酷いんですから。」そういうと彼女は目を細め、私に申し訳ない様な、後ろめたい様な表情(かお)を見せてくるのです。


「……あの場所に、あの流れ者の地に、デイジーがいる様な気がしているんです。だけど、私でもあそこへは1人で行くことができない。。。だから、今は私は諦めるしかなくて。役人になって、公平な審査のできる存在になって、幹部になること、それが、今の目標なんです。そしたら、いつかまた笑顔で会える様な、そんな予感があるんです。」そう言うリリィちゃんは寂しそうで、私は彼女を抱きしめていました。

「…??!デ、ディアナ様!?さ、流石に、往来で抱きつかれますのは、いかがなものかと?!!」目を白黒させて驚くリリィちゃんが、可愛くて、私クスクスと笑い出してしまっていました。「ふふ。リリィさんったら、そんなに驚いて。(わたくし)、今日はいいところの商家の娘なのだから、これくらいのお転婆、許されるでしょう??」なんて、言っていて。ルルなんか、さっきまでの真剣な顔が嘘みたいに呆れた様な表情で。。。

「い、いえいえ。私、とっても想定外ですよ??!こ、こんなに、くっつくなんて、思っていませんでしたから?!そ、それに!!こういったことは、大切な方になさいませんと!!」そう、頰を朱く染めながら、彼女は私に呟いてました。



この世はやはり不条理だけど、この子はやっぱり、あの子みたいに優しくて、芯がしっかりしていて、目標に向かって進む姿は、好ましくて、どうしても重ねてしまう。。。だけど、彼女がみているのは、私のその先。きっと、私自身は見ていない。

それでも、私は見ないフリをする。この優しい時間(とき)をいつまでも終わらせたくないから。。。

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