兄の憂鬱と願い
いつから気づいたのか、僕ももう覚えていない。だけど、あの子が聡い子だって、最初に思ったのは、よく覚えている。
僕が子ども染みた我儘で、両親を困らせていた時。その一因になっていたはずのあの子が、僕のところに来て話しかけて。それだけならどうってことない、幼子の戯言としたのに、僕の話を真剣に聞いて、褒めてくれて、それでいて、嬉しそうに、僕のことをみて笑う。優しい子。ジョシュアに、あんな良い子を突き放すなんて、ダメな兄扱いをされて。どうしてだよって思ったけれど、本当にそうで。
あんなに良い子は他にいなくて、僕が大事にしなきゃって、守らなきゃって思ったんだ。だけど、僕よりどれだけ前を進んでいるのかわからないくらい、あの子は、ずっと前にいて。だけど、僕がお兄様だから、僕が、前に行かなくちゃって、たくさん学んだ。たくさん、知った。人の心を読み取ることも、人を貶める方法も学んで、僕は、あの子の先を行けるように、頑張ったんだ。
そうしたら、あの子の笑顔に気づいた。優しい微笑みを、僕にしてくれるあの子は、とても、とても、寂しい瞳をしていることに。寂しいだけじゃない、何かを全てを、今いるこの場所じゃないどこかを見つめて、何かを諦めた表情をするんだ。
それは、ふとした瞬間なんだけど、それでも、それは、本当に、いつもあって。
あの子の寂しさは、悲しさはその孤独を埋めるように、僕たちに優しく微笑むんだけど、それがどれほど締め付ける思いを僕たちにさせているか、あの子はまだ気づいていない。上手く隠せているつもりなんだろう。だけど、大人は、いや、あの子を思う大人はもう、とっくの昔に、皆んな気づいているんだ。そんなあの子を、癒したくて、皆んな、皆んな優しくあの子を扱うんだ。そのことが、余計に僕の心も締め付けているけど、そんなこと、あの子の悲しみ、寂しさに比べたら、きっと大したことはないんだ。
昔の僕なら、こんなこと思わなかったし、絶対に気づかなかった、あの子の苦しみ。前を進めるようになった僕に、いや、それだって自意識過剰なんだろうなとわかってはいるけど、その悲しみに気づいた僕が、今できるのは、あの子だけをただ1人、絶対に離さない存在ができるまで、絶対に、そうだ、守ることなんだって。。。
本当は、ジュリアン様が、そうなってくれたら、なんて思ったけれど、あの子が望むのは彼じゃないってわかったから、どうしても、違うって、わかるから。ジュリアン様にもあの子を絶対に渡さない。あの子が求めるその人に、僕が、絶対に繋げたいと思うんだ。あの子の笑顔を、心からの笑顔を、取り戻せるその人に。そして、その時には僕たちと一緒になって、たくさん笑って欲しいと願ってしまうんだ。
だって、あの子は、僕のただ1人の、大事な可愛い妹だから。




