表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

黄色のスマートフォン ~水谷聖香のサイコメトラーシリーズ~

作者: 水谷 聖香

 水谷聖香みずたにきよかは見ていた。彼女の目に、彼女の脳裏に見える映像。それは彼女だけが見えるストーリーだった。これは閉ざされた空間の中での出来事である。


 水谷聖香は午前8時30分に、名古屋駅で待ち合わせをしていた。聖香はある男性に自分のスマートフォンを預けていたのだった。その返却の為に男を待っていた。


 男は年齢にすれば何歳くらいなのだろう?30歳くらいだろうか?男性は予定通りスマートフォンを持って駅へと向かっていた。だが思いもがけないトラブルで時刻がどんどん過ぎていくのだった。


 男性が指定の場所へ向かっていく。時刻は午前8時30分になった。駅まで徒歩であと少しなのだ。信号がなかなか変わらないでいた。そう男性は感じ取っていた。実際には男性の空間それ自体の動きがスローダウンしていたのだ。全ての動きが、男がいる場所周辺だけ時間が遅れているのだった。つまり男性がいくら時間通りに動こうとしても無駄だった。しかし、男はそのことに全く気が付いていない。ただ、自分の動くペースが遅くなっている感覚に囚われ理解できないでいた。


 午前8時30分、男は交差点の信号で止まっていた。「彼女はまだ俺を待っているだろうか?それとも、もう行ってしまったのだろうか?」男は焦っていた。信号が変わり駅へと向かう。その速度は遅かった。男の目に少し離れた駅の看板が飛び込んで来た。歩いてもう少しだと男は思った。


 男が預かったスマートフォンの持ち主は若い女性だ。奇抜なファッションをしていて周囲から完全に浮いている少女のような女性。髪の色は白く、服装も全身が白で覆われていた。明らかに東京・原宿や渋谷を歩く個性豊かなファッションセンスの持ち主だった。「彼女の職業は?」と訊かれるならはっきりと「タレントやモデル」と答えることが出来るだろう。


 その彼女と男の関係は不明である。なぜ彼女からスマートフォンを預かったのか、それを返却に行く理由。全てが分からなかった。ただこれだけ言えるのは、男は彼女のスマートフォンを持って待ち合わせの場所へ向かっていた。あと少しでたどり着けると思った。だが、水谷聖香は結局、彼と会う事は無かったのである。恐らく、2人の時間は永久に止まったままだろう。閉じた空間の中で発生した男女の物語を水谷聖香は確かに見たのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ