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撮影罪

作者: 雉白書屋

「――本案に賛成の諸君の起立を求めます。……過半数と認めます。よって本案は可決されました」



 撮影罪。長い議論の果て、ついに可決され成立の運びとなったこの新法により、許可なき撮影行為は明確に犯罪となった。

 どうしてこのような法律が作られたのか。

 単純な盗撮の他、仲間内での迷惑行為の撮影及びネット上に公開、リベンジポルノ、電車の撮影の際のマナー違反、競技会場における観客席からの女性アスリートの撮影など砕けた言葉でいうのなら、過ぎた道具を手にした猿共が世を横行闊歩しているせいである。

 何かあればすぐにスマートフォンを取り出し、撮影開始。自己顕示欲を満たしたいがだけのために肖像権など知ったことか(実際、知らないのかもしれない)SNSに晒上げ、その対象物が多少の非があるならまだしも、ただ顔がキモい。禿げている。動きが変などと人の尊厳を無視し、晒し者笑い者晒し首縛り首公開処刑私刑私刑ああ、恐ろしや。

 子供から老人まで誰もがインターネットを利用する現代社会。ネット上に晒されるというのは数万人に見られるという事。

 スマホは必需品。国民のほぼ全員がカメラを銃の様に忍ばせているのと同義。

 ペンは剣よりも強しという言葉がある。カメラもまた強し。このような法案が通るのもやむなし。


 と、それから時が経ち、ある夜……。


「てめぇ、ナメてんじゃねーぞぉ!」


「おめーだろがよ馬鹿がよぉ!」


 繁華街。喧嘩。理由は肩がぶつかったか笑われたか、知り合いかそうでないか、見ている者からすればどうでもいい。

 ワイワイガヤガヤ遠巻きに。おい、始まるぞ……と手でその顔のニヤつき隠して見物に入る。

  

「てめぇ……撮るぞオラァ!」


「あぁ? 撮んのかオイ! こっちも撮るぞコラァ!」


 サッと、背のホルダーからカメラを取り出した黒ジャージの男。

 構えるはMagnumWOD8SMarkⅢデジタル一眼レフである。レンズはSG16-35mmF2.8LⅣASMで圧倒的な解像力、質感溢れる仕上がり。手振れ補正搭載。ソフトなタッチで押せるシャッターは対象物を逃さないとの評判である。まさに一瞬の隙を逃さないハヤブサ。

 今年の春発売された新機種を携えるとはあの男、中々やるなと観衆は手を顎にやり、ほほうと感心する一方で高級品であるがゆえに、あの身なりも相まって反社会的勢力の者かボンボンではと推測する。


 片や、スーツを着た若い会社員風の男が鞄から取り出したのはGeckoL8500デジタル一眼レフ。レンズはAF-C14-24mm f/2.8G EDである。

 シャッターボタンを半押ししている間はピントを合わせ続けるため、動く対象物を撮影する際に適していると評判である。まさに獲物をつけ狙うリカオン。

 こちら初心者向けであることから新社会人祝いで護身用にと親から買ってもらったものかもしれない。

 

 向かい合い、対峙する二人。観衆は二人を囲むように円を作りつつ、巻き込まれないよう両腕で顔を隠し、目だけを腕の間から出し、見守る。


 相手がカメラを取り出せば、自分も取り出すのは基本のこと。向けられればそれはもう開戦の合図。

 殴らば捕まる。金を奪えば捕まる。つまり、相手に損害を与えれば法により罰せられるということ。よって、相手に無断で撮影することが罪となった現代。それに引っ張られ、その行為自体に殴ると同等の力が備わったのである。『殺すぞ』という脅し文句は『撮るぞ』に変わった。そして今、熾烈な撮り合いが始まった。



「オラァ!」


 ――カシャカシャカシャカシャ


「ザケンナ!」


 ――カシャカシャカシャカシャ


 夜の繁華街の喧騒に、激しく囀る鳥のようなシャッター音が入り混じる。

 付かず離れずが基本戦術。また、素早く反復横跳びなど動きをつけ、相手にブレを生じさせるのも基本も基本。

 黒ジャージの男はカポエイラの動き。スーツの男はボクシングのフットワーク。

 

「オラァ、撮ってみろや、ここだよここぉ!」


 ポリバケツや立て看板など、その場の障害物を盾にするのも戦略の一つ。

 相手を挑発するかのように陰から顔を出し、頬を向ける黒ジャージの男。

 そもそも、顔を撮られたくないのなら目出し帽でも常備していればいいのでは? というのは愚問。それなら銃の所持が合法な国では国民全員、毎日防弾チョッキを着ているのか? 否。煩わしい。服と合わない。暑い。そしてこの場合、粋ではない。


「くらえや!」


「クソッ! フラッシュか!」


「はっはぁ! オラオラオラオラオラァ! はぁはぁははん! とっちゃうぞとっちゃうぞぉぉい!」


「クソォ! オラァ!」


 スーツの男が優勢。と、ここでついにカメラを構えながらの蹴り合いが始まった。

 その視界はレンズを通しているため遠近感がつかめず空振りもあり、また相手の攻撃をかわそうと動くため、まるで独楽のようにぶつかっては離れ、ぶつかっては離れ回り、回り、円を描くようにぐるぐると。カンガルーのようにぴょんぴょん跳ね、また蹴り合う。

 バッと同時に飛び退き、息を荒げる二人。と、ここで気づいた。


「あ、待て! スナイパーがいるぞ!」


「なにぃ!? あ、二階の店の窓からだ!」


 このような世の中でも人々は適応するもので、感覚は鋭敏になったのか、カメラを向けられたらすぐにわかるようになった。   

 これもまた防衛本能。現代社会を生き抜くには重要な能力である。


「おい! 何の騒ぎだ!」


「ちっ! お次は警察か!」


 警官はボディカメラを搭載しているため、両腕が使えるゆえに最強である。

 一般人のボディカメラはたとえそれが野鳥や風景撮影でも認められていない。蜘蛛の子散らすように逃げる群衆。そしてあの二人も……。

 

「はぁはぁはぁ、ここまで来れば、ちっ。おめーも来たのかよ」


「う、うるせぇな……はぁー、ふふっ」


「……はははっ」


「はははははっ!」


「……撮るぜ」


「ああ、こっちもな」


 撮り合いのあとは記念撮影。これもよくある話。

 無論、お互いのカメラで一枚ずつ。仲良く横並びで笑顔のツーショットである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 撮影が罪になり、ディストピア的な世界になってしまうのかな、と思いきや、 予想を裏切られました。 最後のオチはほっこりしました(笑)
[良い点] オチ!w
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