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こうしてパーティーから追い出されました…

作者: 河原田 甚兵衛

「こうして俺はパーティーから追い出されました。」


飲み屋と併設されたパーティー相談所:エルヴィスで男がこの言葉と涙をこぼし始めた。

チラリ…と上司であるライアスを見ると、黒縁のメガネを中指で押し上げながら左右に首を振る。

パーティーから追放された男:アーサーの対応はどうやら私がしないといけないようだ。

そしてアーサーの対応をするには数刻前、彼がここを訪れた所から頭を巡らせないと行けない。



本日は快晴!気分は上々!仕事も少ない!

なんて素敵な1日だろうか。

王国の城下町、冒険者ギルドに併設されたパーティー相談所:エルヴィスが私の職場だ。

気難しい上司もいるが、冒険者として方々を回っていた頃よりは圧倒的に良い環境である。

強いて言うなら仕事の内容がパーティーを含めた人の問題なだけに面倒ごとがあるのが難点だ。

しかし!今日のような相談ごとがない日は書類の整理や前に行ったパーティー再編成のアフターフォローのための調査程度。

定時にあがって至福の一杯を頂こうではないか!

そうやって近場の飲み屋を頭の中で吟味していた定時から30分前の事である。


ボロボロの服装に麻布で出来たリュックを担いで男はやってきた。

明らかに面倒や客である。

ちらりと上司のライアスを見ると一つ頷くのみ。

つまりは私に担当しろと言う事だろう。


「ようこそ、エルヴィスへ。本日はどのようなご相談でしょうか?」

笑顔で接して、声も努めて聞きやすくハキハキと喋る。

私の接客能力もあがったものだ。

どうせなら給料もあがればと思うのだがライアスの守銭奴はそうそう給料を上げたりはしない。

男はピシリと動きを止めるので怪訝に思うと。


「失礼しました、お客様。彼女も悪気があってそのような顔をしているわけではないのです。オークの下半身が縮れると言わしめた笑顔を持つ女ですが、極めて優秀です。お座りください。」


ライアスがくっそ失礼な事を言っているが、そう言われてたのは事実である。

文句を言いたい口をぐっと抑えて椅子に座るよう手で促す。

笑顔の上司殿は見てくれだけは良いからか、男は時を取り戻したように椅子へと腰を下ろした。


「え、えーーと。それではお名前とご相談内容をお聞かせ願えるでしょうか?」

私もプロである。

笑顔のまま対応を続けようと男へ向き直る。

男は麻袋の中のプロフィールカードを取り出すと口を開き始めた。



布袋の男:アーサー

俺の名前はアーサー。

今日来たのは実はパーティーの事なのです。

所属していた"バルファボ"はBランクパーティーでこの辺りでは名の通ったパーティーです。

お姉さんも聞いたことあるんじゃないでしょうか?

ああ、知っておられましたか。

えっ!?書類も持ってる?

じゃあ話は早いですね。

実は俺はそのパーティーの戦士職だったんです。

自分で言うのもなんなんですが、仕事は出来た方だと思います。

魔物達からパーティーメンバーを守るために自分の身体を犠牲にしてきました。

それなのに今から1ヶ月前、パーティーリーダーのヨハンが言ったんです。

"お前はクビだ。1ヶ月の猶予をやるから出て行け"って。

どうして?なんでだよ!?

何度もそう言いましたが決まって奴は"パーティーの規律を乱すやつは置いておけない"と言って話を聞いてもくれない…


俺たちバルファボは男女2名ずつのパーティー。

女性冒険者であり、プリーストのレイチェルと仲良かったのが許せなかったんだと思う。

1ヶ月の間、何もする気が起きなく再び顔を出したら奴は俺にパーティー脱退を強制してきた。

こうして、俺はパーティーから追い出されました…



涙を流すアーサーに私は笑顔を引っ込めて努めて冷静に口を開いた。

「内容はわかりました。アーサーさん。では幾つか確認させてください。パーティー脱退は30日前に行われたのは間違い無いですか?」

涙を腕で拭うとアーサーは"はい"と一言。


「では、失礼ながらアーサーさんに何か思い当たることはありませんか?例えばアーサーさんの素行などに問題があったなど」

そうすると、涙は何処へひっこんだのか、アーサーは明らかにムッとして語気を強め椅子から立ち上がった。

「あるわけないじゃないですか!?俺の話を聞いてたんですか?それにあいつら脱退金も寄越さなかったんですよ。こんなの不当な脱退じゃないですか!」

「お、落ち着いてください。」

必死に宥めてなんとか腰をおろすところを見届けて思う。


ちょーーー面倒くせぇーーー!!!

てか、こいつ感情の乱高下激しすぎだろ。

そりゃ脱退も頷けるわ。

そういえばバルファボの資料があるんだっけか。

確認しよう。


「それではバルファボの資料に目を通すのでお待ちください。」

「早くしてください!俺だって暇じゃないんですから」


明らかに先ほどまでと態度が違う。

コイツ、私の事を完全に見下しやがったなぁ。

下っ端だと思いやがって…

資料へ手を伸ばし、紙を1枚1枚めくっていく。

バルファボの詳細が書かれた文字が頭に入っていく。

………

……

「ところでお伺いしてなかったのですが、アーサーさんの希望としてはバルファボに戻る事なのでしょうか?それとも不当脱退に対する制裁処置をバルファボに下すことでしょうか?」


「そりゃあ。戻れたら1番良いんですけど。俺も揉めたくないですからね。制裁までとは行かなくても脱退金の請求をしたいです。」


「そうですか。では簡潔に申し上げますとアーサーさんの要望の実現は…"無理"ですね。」

とびきりの笑顔で告げてやる。

今の私の笑顔は聖母のように美しいに違いない。

なぜなら、先ほどとは違って心の底から込み上げてくる笑いを堪えられないのだから。


「な、何で!そうなるんだよ!?俺は被害者だぞ!」

アーサーは再び立ち上がると椅子を蹴飛ばす。

辛うじて保っていた言葉遣いも粗悪なものへと豹変する。


「まずバルファボの調査書ですが、確認したところパーティーメンバーの脱退に対する知恵を借りたいとの申し出で作られた物でした。内容はセクハラ。アーサーという戦士職の男がプリーストのメンバーの身体を触る、著しく品性のない言動を浴びせる。これは口にも出したくないおぞましい内容なので読みません。まぁアーサーさんはご存じでしょう?また、ヨハンさんは何度かアーサーさんに対応を改めるように指導したと記録があります。なにか注意されてませんでしたか?まぁ、これはヨハンさんの虚偽の申告の可能性もありますが…ああ!最後に言っておかないと。脱退前の告知を30日前に済ませており、かつメンバーに脱退の明確な理由:今回の場合ならセクハラですね!がある場合は正当な脱退なんですよ。脱退金が出なかったのもアーサーさんに問題があったからでしょう!以上!これにて業務終了!お疲れ様でした!」


一気に捲し立てたので喉が乾いた。

アーサーに泡を吹かせてやったのだ。

私は泡を飲ませて貰おう。

奴の体が小さく震えるのを見て、煮凝りを食べたいなぁとぼんやり思っていると。


「てめぇ!ふざけんじゃねぇぞ!」

アーサーが飛び掛かってきた。

「いけない!」

上司のライアスが叫ぶがもう遅い。

アーサーの拳は私の顔に迫ってきて…


軽く躱すと同時に此方の拳を叩き込んだ。

「こんのぉ女の敵がぁぁぁぁぁ!」

乙女らしい叫びを添えて。


乙女の拳をうけ、アーサーは本当に泡を吹いて白目を剥いた。

やれやれ、戦士職だったというのに情けない。


「ラティア嬢に喧嘩売るなんて阿呆がまだいるんだなぁ。」

「オーギュント家の猪娘いのししむすめと呼ばれた女に立ち向かうなんて、命知らずだぜ…」

「見た目だけは綺麗なんだけどなぁ。中身がアレだしなぁ。あの銀髪がもったいないよ。」


外野がなんか言ってるが関係ない。

しかし、こういう腐れポンチを殴るのは非常に清々しい。この気分のまま退勤して飲酒としようじゃないか!

泡を吹いてるアーサーを見てると蟹を食べたくなってきた。よし!今すぐ退勤しよう。


「聞こえてますか?ラティア?ラティア・オーギュント?」

ら、ライアスの声が聞こえる。

振り向いては駄目だ。

私には蟹を貪りながら飲酒するという大命が…

「ーー聞こえてないなら減俸処分ですかね。」

「はい!聞こえてます。ライアス所長!」

「私はいいましたよね。"いけない"と。なんで手を出したんですか?」

「でも、所長。か弱い乙女が暴行を加えられそうになったんですよ!?」

「か弱い?ハッ…」

こ、この眼鏡。あろうことか鼻で笑いやがった。


「まぁ、いいでしょう。それで彼、どうするつもりです?」

セクハラ野郎で女に手を出すような人間だが、一応は客である。なにかしら対応しなければ。

「詰所に突き出す?」

「それもありですね。ただ、そうなると彼からの依頼料もいただけませんし、バルファボの評判も落ちます。もっと良い方法があるじゃないですか?レルガス出身の貴方になら分かるでしょう?」

レルガス?私の故郷の??

腕を組み、暫し考える…

レルガスはレルガスの丘と呼ばれる珍しい花があるのと…あっ!そうか。その手あったか!

「かしこまりました。ライアス所長。彼には…」



3日後。

パーティー再編のアフターフォローのため書類整理をしていると大男が此方に向かってきた。

長く伸ばした髭に片目には深い傷、長身だがスラリと見えないのは鍛えられた筋肉が身体に厚みと幅を持たせているからだろう。

「あら、マシュー。彼のその後はどう?」

大男、マシューは此方の声にニカリと歯を見せて笑う。

「いやぁ、中々使えますね、あの男。元々は結構な冒険者だったんでしょう?お嬢には感謝です。」

マシューは私の故郷レルガスで魔石採掘の職についている。魔石採掘は肉体をかなり酷使する仕事だからか女性の成り手はほとんどいない。

ましてや、高濃度の魔石がとれるレルガスは強力な魔物も出る。報酬はいいけれど並の人間には務まらない。

「まぁ、貴方のところならセクハラする心配も無いでしょうしね。」

「ガハハ!違いねぇ。アーサーの野郎、日給握りしめて色町に行ったらしいですよ。とんでもないじゃじゃ馬娘にぶん殴られて癒しが必要なんだと言ってたそうです。あっ、そうそう。奴の紹介仲介料払いに来たんですよ。コイツです。どーぞ」

少し汚れた小さな布袋を置いてエルヴィスから酒場へ移動するマシュー。

私は布袋を握りしめて所長へ報告に向かった。


ライアスは個人用のデスクに深々と腰掛けながら紅茶を嗜んでいる。

私の分がないかと見渡してもそれらしきものはない…おのれケチ眼鏡…

「ライアス所長、例のバルファボの報告に来ました。読み上げて宜しいでしょうか?」

「えぇ、お願いします。」


バルファボは厄介者であったアーサーの除名処分が上手く行え、新たな戦士職を得てパーティー再編を行う事が出来た。パーティーの再編手数料をいただける運びとなった。

一方、アーサーはレルガスの魔石採掘が思った以上にあったのか伸び伸びと仕事ができているようだ。

生来の女好きは色街で発散できていると言う。

おっっっそろしい受付嬢がトラウマになり、タレ目で巨乳で色っぽい女性をお求めとのことだ。ふざけんな!

アーサーを…つまり、冒険者ギルドとしての厄介者を別職へと斡旋したことで斡旋先からの紹介料の徴収も完了!つまり、バルファボ・アーサー・エルヴィス・レルガス炭鉱全てが丸く収まる結果となった。


「そうですか…お疲れ様です。」

ライアスが紅茶のカップを置くと労いの言葉をかけてくる。ほほぉ!わかってくれるかね!私の苦労が!


「いえいえ!勿体無い言葉ですよー!ちなみに私は言葉よりもお金か、半休がいただきたいんですが…」

「…ダメです。いいですか?本日もパーティーの事で悩んでいるお客様がいらっしゃるんです。次の対応をお願いします」

「かしこまりました!まぁ、貰えるとは思ってませんでしたが…それではラティア・オーギュント、本日も悩めるパーティーを救ってご覧にいれましょう!」


冒険者ギルドには問題が多くある。

それはそもそもの仕組みだったり、それぞれのパーティー内であったり大小ある。

少なくとも…認めたくないが…恥ずかしい事だが

私もあの男に、ライアス所長に救われて恩は感じてる。

だからこそ、今度は私が助けになろう。

本当に困っているパーティーを、パーティーで悩んでいる個人を。

それが今私がやるべき…いや、やりたい事だ!






ここは王国冒険者ギルドに併設されたパーティー再編所:エルヴィス。時にはあぶれた冒険者を違う職に斡旋したりも致します。

パーティーに問題がある方、不当脱退された方、脱退代行を申し出たい方。

いずれか当てはまる方は是非エルヴィスへお越しください。

優秀なスタッフが貴方をお出迎えします。


「こうしてパーティーから追い出されました。」

エルヴィスに今日も嘆きの声が響いた。

前回書かせて頂いた「黒騎士様に花束を」から年月がたった世界のコメディ作品となります。

小説投稿は2作目ですがラティアのキャラをとても楽しく書くことが出来ました。

そしてここまで読んでくださった方に最大限の感謝を述べさせていただきます。

ありがとうございます!

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