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6話 海は広いし大きいし怖い場所

 潜り始めてもうすぐ10分経つ。まだ底は来てないが、光も来ていない。普通に暗闇で、魚だとかも全然見えない。

 こんな近海に出てくるのかは知らないが、それこそマモノが出てきたら、相手を視認することができずに戦闘が始まってしまう。早々に探しものを見つけ出して、光のあるところに戻りたいのだが。まだ底が見えない。


「(ちょっと試してみるか)」


 折角魔術なんて学んだんだ。(初歩中の初歩。水の魔術なら、水を出す呪文を学んだ程度)試してみるのはタダ。やってみよう。


「(光よ)」


 残念、水中な為、性格に発音できなかった。

 が。

 光が出てきた。いやまあ、どこからともなくなにかが光っただけなのかもしれないが。まあ表現として、光が出てきた、はそれなりに正しいのではないのだろうか。


 さて。これで視界が確保されたが。

 これはこれで困った事がある。俺が視界を確保できたように、その他生物からしてみても、探す手間が省けたという事。こういう場所に生息している生物だから、光なんてなくても見える、もしくは場所を把握できるだろうが、それはそれとして一か所だけ明らかに違和感のある空間が出来上がった訳で、つまりは居場所をばらしているようなもの。

 いつマモノがやってきてもおかしくない。






 なにもなく、底までつきました。本当になにもなく、底までついた。深海魚だとかも見る事なく、ここまできた。


「(さてさて。ここに来るまでは何もなかった。後は指輪を探すだけだが、だけがだけで済まして良い事じゃないんだよな)」


 よくたとえ話とかに使われる、砂漠の中から宝石を見つけ出せ、を今から行う訳だ。気が狂いそうだが、まあ俺だって無謀な賭けは行わない。

 とは言いつつ、この賭けはほぼほぼ無謀ではあるが。


「(こんな場所にまで来ても、五月蠅いのは変わらない。なら、可能性はあるはず)」


 耳を澄ませる。今まで聞かないよう努めていた言葉を、可能な限り聞き取る努力をする。


「あっち」「あっち」「あっち」「どっち?」「あそこ」「そこ」「どこ」「リヴァイアサン(泣)」「こっちだよ」「ふぁぁー」「あっと」「あっち」「あっち」「そっち」「どっち」「こっち」「ひさしぶりー」「ぶりぶりー」


 なんだかわからないが、とりあえずあっちと言われる方向へと行こう。



_____________





 あいつが潜って、15分ぐらい経った。荷物を守れって言っても、守るほどのものも持ってないと思うんだが、守れと言われたからには守る。


 周りに居た観客は、半分ぐらいになった。そりゃそうだ。闘技場で15分経つのと、この場所で15分待つのとでは意味が違う。

 闘技場だと、15分間の静寂があったとしても、それは二人の緊迫からの静寂で、こっちもその緊迫感を味わう事ができる。しかも動きをリアルで見ていられるから、暇だとしても、わざわざ帰ったりはしない。どこかで動きがあるはずだから。

 が、これは違う。だってあいつに何かあっても、オレ達には何が起きたのか一切わからない。面白いと思う要素が一切ない。

 だから、この場に残っているのは、アイツがどうなるのかを見届けたい奴等だ。

 そんな奴等しかいないんだ。よっぽどでもない限り、こんな服だとかを盗もうとする奴なんていない。だから、かなり気を緩めていた。

 他の奴等もだ。この15分間、何も起きない。しかも、今現在期待されていたエイって奴でも、最高で7分程度しか潜っていない。そいつの倍の時間が経過している。そりゃ気を緩めるってもんだ。


 だからこそ、このセリフは想定外で、皆の反応を遅らせた。


「あいつ、もう死んだな。おら餓鬼、どけ」

「……、は?」


 理解できない。こいつは何を言っているんだ?


「どけっつってんだよ、わからねえか?」


 ……、どけと言っているのは理解した。

 だがそれはそれとして。オレは別に道のど真ん中に居座っている訳でもないし、なんなら堤防の一番先に居る。この先に用があるというのなら、それはもう海に飛び込むしかないという事だ。けどそれは意味がわからないだろう。だって、海に飛び込む理由なんてのは、指輪探しのためだろ?でもその指輪探しを行う前の料金を払ってない。

 あいや、こいつ、その料金を貰ってた奴だ。ああなるほど、こいつの縄張りだから、自分はタダで探しに行くって訳だ。

 なるほど、それならこの場所は邪魔かもしれない。わざわざここから飛び込む必要性なんてのは欠片もない気がするが、一種のルーティーンみたいなものだろう。いちいちいざこざを引き起こすのも面倒だ。おとなしくこの場所を譲ろう。


「おい待て、何してんだ?」

「ん?何って、どけって言ったからどいたんだよ」

「いいや、いいや違う。お前、頭は大丈夫か?」

「……」


 少し前のオレなら、恐らく反撃し、トラブルを引き起こしていたかもしれない。

 だが今のオレは違う。こういう時こそ冷静になる事を学んだ。だからこそ、冷静に、現状の把握に努める。


 なんだよあいつ、頭は大丈夫かって、人に物事を正確に伝える語彙力もないくせに、他人の心配するんじゃないよてめえの語彙力を心配しとけよあとその語彙力のなさに気が付いていないてめえの頭の心配をしろ他人の心配なんてしてる暇ねえだろくそったれ。


 オレはちゃんと、道を譲った。にも関わらず、どういうわけか、ブちぎれられた。ふむ。意味が分からん。


「おい、その荷物を置いてけよ」

「は?なんだって他人にそんな事を言われないといけないんだ?」


 てか、こいつは一体何様なんだ?いくら赤の他人だからって、こんな言葉遣いはダメじゃないか?いや赤の他人だからこそ、こんな喧嘩腰で来られちゃ困るというか、それこそ喧嘩になってもおかしくない。だってどう考えても煽って来てるんだから。


「あ?なんでだって?そりゃ、これが商売だから」

「は?」

「だから、商売。この無謀な指輪探しをしに来た馬鹿野郎どもの身ぐるみを売ってんだよ」

「あ?」


 別に、他人の生き方に口を出すつもりない。

 が、これは明らかに盗賊の手口だ。クレイジーだ。


「ふざけんな。まだあいつが死んだって確証がねえじゃねえかよ」

「知るか」

「は?」

「死んだ人間が必ずしも浮いてくる訳じゃねえだろ知らねえのか?それにあいつは潜る為に重石を付けただろうが。浮いてくるはずねえだろ」


 確かにそうかもしれない。確かに、死んだとしても、浮いてくる確証はない。

 だが、それはそれとして。


「なんで荷物を持っていく必要があるんだよ」

「チっ、これだから餓鬼は。さっきも言ったろ、死人に荷物なんて必要ねえの。だから売ってるの、わかるか?」


 ……、百歩譲って、死んだ人間の荷物を売り払うのは良しとしよう。いや良くないが、そうしないと話を進めれない。

 売り払うのは良いとしてだ。この荷物はあいつのだが、すぐそこに知り合いもとい旅仲間がいるのに、その荷物をあいつに渡す必要があるのか?いやないだろう。

 普通に考えるのなら、死んだ人間の荷物は、遺族にちゃんと届けるべきだ。


「なんでお前に渡す必要がある。確かにこれはオレのもんじゃないが、それでもあいつにこの荷物を任される程度の関係性だ。あんたに渡す必要なんてねえだろ」

「良いから渡せよ。めんどくせえな」


 相手が武器を取り出した。ナイフ。懐に仕舞えて、尚且つちゃんと武器になる程度の大きさ。


「おいあんた、いくらなんでもやりすぎだろ」

「うっせえな。あんたらはどっちの味方だ、あ?」

「チっ」


 どうやら、弱味だったりなにかしらがあるのか、周りにいる観客は何もしてこない。実際、今の会話からそれが読み取れた。


「おら、さっさと渡せ。痛い目に遭いたくなかったらな」

「あんたなんかに渡すものなんか埃一つないね」


 剣を抜く。臨戦態勢。

 やる前から言うべき事ではないが、既にオレのプライドはズタズタだ。あいつと出会って、その後に馬鹿な商人と出会って。確かに強者とは出会ったが、それが逆にオレのプライドが砕けた。

 プライドとか以前に、その強者二人に対した攻撃もできないまま、連戦連敗を迎えてるわけだ。負け続けて自信を付けれる人間がどこにいるか。


 だが、負け続けたからこそ得たものだってある。少なくとも、ナイフ相手の戦い方は理解している。間合いに入られず、入られても臆せず戦う。こんな適当な事しか言えないが、まあ動き方はそれなりに体で覚えているはずだから、心配しすぎず、油断せずに行こう。


「あんちゃん、頑張れよ!」


 声援が送られる。嬉しいと言えば嬉しいのだが、声援を送るぐらいならもっと根本的なところでの解決に尽力してほしい。


「そうか、一日に二人分の金を得られるとは」

「勝った気でいるんじゃねえ!」


 とりあえず突っ込む。

 考え無し、って訳でもない。ここは堤防の端っこ。幅で言えば3mぐらいはあるが、逆に言えばその程度しかない。攻め続ける事ができれば、相手は自然と防御を優先する必要があって、足場がどんどんなくなっていく、って寸法だ。


「ん?なにしてるの、君達」

「なっ!?」

「生きてたの!?」

「ん?なんでそんな驚くんだよ。言ったろ、25分ぐらい掛かるって。運よく早く目的の物が見つかったら、20分程度で戻ってこれたけど」

「なっ!?見つけたって言うのか!?」

「やー。綺麗な指輪だよな、これ。それよりここから引き揚げてくんない?取っ掛かりが無さ過ぎて、自力で上がれないんだわ」

「あ、ああ、わかった、協力するとも」


 さっきまで散々威張ってたくせに、どうしたんだ?急にしおらしくなって。


「ほら、掴まれ」

「ああ、どうも」

「!!」


 あいつ、手にナイフを隠し持っている!?


「ばっ、罠だ!」

「ん?」

「へへっ!ざまあねえぜ!これでこの指輪は俺のもんだ!」


 くそっ、なんでオレはあいつのことを信用したんだ!さっきまであんなに悪態をついて、盗賊と遜色ないレベルの野郎だったのに!


「なんだ、この国でのアクシュはナイフを使うのか?申し訳ない、生憎様現状ナイフを持ってないんだよ、ちょうどそこの荷物にナイフが入ってるんだが」

「な、なんで効いてない!確かに、確かに斬ったはずだ!」

「???」


 いや、なんでそこまで言われて理解できないの?


「なんでも良いけど、とにかくここから引き揚げてくんない?指輪ゲットの報告と、言ってた歴代の挑戦者の挑戦料貰いたいんだけど」


「ふざけるな!誰があれをやるか!あれは全部俺のもんだ!てめえにやるもんなんてねえ!それにその指輪が本物だって証明できるか!てめえが偽物を持ち込んで、それを本物だという事だって可能だ!嘘だ、てめえは嘘をついている!」


「んー。……、なるほど。OK、わかった。そういう感じだな。じゃあ言わさせてもらうが、賞金あげるって言っておいてくれないのは普通に詐欺だし、これを本物だと証明できないあんたがこの商売をしている事自体ダメなんじゃねえのか?」

「あ、ああ、そうだな。じゃあ俺にその指輪を見せろ。鑑定してやる」

「そーかいそーかい。じゃあ自分で盗ってこい」


 そういって、アイツはあの指輪を投げた。


「なっ!」

ジャブンッ

「うん、あいつはやっぱり本物かどうかなんてわかってないんだな」

「お、おま、なんで捨てるんだよ」

「ん?捨ててなんかないぞ。ほら、実物はこれ」

「え?じゃあ、さっき投げたのは、偽物なの?」

「え、幻影だけど」

「え?」

「え?」

「お待ちしておりました」

「え、どちら様?」

「お迎えにあがりました」

「え?」

「お迎えにあがりました」

「あ、はい」

「そちらの方も一緒に来ますか?」

「あ、はい」

「では、ついてきてください」

「あ、はい」




「あの、まず海から引き揚げてもらえません?」

因みにですが、お金もちゃんと回収してます。彼等は金欠なので。

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