表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

4話 滞在期間は試合でいかが?

「やっと町が見えて来た」

「ここが俺達が目指してる町で良いのか?果てしなく小さいけど」

「んな訳あるか。オレ達が目指してるのは水の国の首都だぞ?こんなみすぼらしい町なはずないだろ!」

「うん、君はもう少し言葉遣いを憶えよう。どこで誰が何を聞いてるかわからないぞ。せめて陰口悪口は目の前に相手がいる時か、逆に絶対にいないと言い切れる時だけにしておけ」


 というか、こいつの口ぶり的に、水の国の首都がどんな場所かわかってなさそうだな。

 いやまあそうか。知ってるのなら、わざわざ記憶のない俺の当てのない旅に同行するよりも、首都にいる腕利きに弟子入りするだろうしな。


「ようやくベッドで寝れる」

「おい、待て待て。お前、そんな汚い状態で町に行くのかよ」

「ん?どこかおかしいところがあるのかよ」

「俺がとやかく言うのもおかしな話ではあるが、人間の印象なんて見た目がすべてだ。だからこそ初めての人と会う時は、せめて清潔な状態であるべきだ」

「んだよ、そんなの気にしなくても良いだろ。どうせここの人なんて二度と会わないだろうし」

「だから、俺が言う事でも無いって前置きしたろ。あと、お前は騎士を目指しているんだろ?そしてその理想の騎士像はどうなってる?綺麗な状態じゃないのか?」

「そうだな」

「だろ?なら、普段から清潔な状態にするように心がける事だ」

「そうだけど、それは別にあの町に入ってからでいいんじゃね?旅の途中で町に立ち寄る理由の半分ぐらいは、体を綺麗にする事だろ」

「……。それもそうか。じゃ、行くぞ」

「おい、さっきまでの話はなんだったんだよ!」






 どうもこの町は、商人たちが立ち寄り休憩するための場所のようだ。

 町の人達から聞いたから確かだし、こっちでもちゃんと見て回ったから、絶対にそうだ。

 まあ何が言いたいのかと言えば、ここは商人たちがよく立ち寄る訳で、首都の情報も多く入ってくる訳だ。

 これからの行先の情報を多少なりとも手に入れる事ができる。これはとても大事な事だ。なにせこれからの行先なんだし。平和な場所ならば結構、治安の悪い場所ならばそれ相応の準備をしてから挑む事ができる。だからこそ、首都の情報を手に入れられるという事は喜ばしい事だ。

 あと俺の記憶を埋める助けになるかもしれないからな。情報を手に入れるという事は大切な事だ。


「うまうま」

「それは良かったな」

「あんたは食べないのかよ」

「生憎と、お前が大量に食らっているおかげで、お金はほとんど残って無いの。村の人達が俺の為に用意してくれたお金が価値もほぼわからないままお前の食費として吹き飛んだんだよ。残りは今日泊まる宿屋の料金として消え失せるんだよ。おわかり?」

「うまうま」


 ……。まあ、別に良いんだけれどもね。本来はこのお金は存在しなかったはずだし、俺の方もお金を使う予定なんて無かった訳だから、こういうところで使っても別に困る事はない。困る事は無いけどね。うん。せっかく頂いたお金を、こいつのどかぐいで使うのは気に食わない。いやまあ別に良いのだが。


「なあ、もぐもぐ、これから先は、うまうま」

「食べるのか質問するかどっちかにしな。汚いぞ」

「うまうま」

「まず質問をしろよ。答えを聞くだけなら食べながらでもできるだろ」

「この先はどうするんだ?」

「質問を質問で返すみたいになるが、まだ先とか見据える時期でもないとは思うけど」

「まあそうだけど。いやそうじゃなくて。水の国の首都には行くだろ?でもそこであんたの目的のものがなかったらどうするのか聞きたいんだよ」

「なるほどな」


 とは言ってもな。その目的のものが俺にはわからないから、そもそも水の国の首都に行っても、何をすれば良いのかすらわかってないし。

 そりゃ、そこへ行って記憶が戻れば、ありがたいけど。俺がこの旅に出た理由が、何か大切な事を忘れている気がする、だから思い出す為に色々な場所をめぐろうとしている。だから正直、記憶が戻ってからの方が大切な訳で、下手したら今よりも重大な理由のもと、旅に出る事もあり得る。

 だからなぁ。どうするのかわからない。


「まあ、少なくとも、水の国で記憶が戻らないのであれば、他の国に行くしかないよな」

「ふーん。どうやって国境超えるの?」

「……、超えちゃダメなのか?」

「駄目もなにも、国境を超えるにはパスポートが必要だ。当たり前のことだろ」


 ……。なるほど。そう言ったものが必要なのか。なら手に入れたいところだが。

 まず俺に常識うんぬんは言わないで欲しい。その常識を持ち合わせていないのだから。


「ちなみに、それを持たずに国境を超えればどうなる?」

「まあすぐにどうこうはないだろうけどな。でもバレた時が面倒。最低でもブタ箱でおままごとをする必要がある」


 最低でそれか。


「……。えっと、今の流れで気が付いたんだけど。俺、自分の記憶がないのはしょうがないとしても、身分を証明できるようなものすらないけど。水の国の首都に行った時に不法入国疑われない?」

「……、でも事実そうじゃん。どこから来たのか知らないけど、空から降ってきたんだし」

「うーむ。できる限り穏便に済ませたいんだけど」


 どうしたものか。

 と言うか。そもそも今現在持っている俺の装備品を確認するべきでは?


「ちょっと外行ってくる」

「なんで」

「良いから。あと金はそっちで払っといて」

「おい、話を聞けよぉ」




_______




 記憶は無いが、やっぱり人間。今まで行ってきた事というのは忘れていない。現にこうして言葉は話せているし、歩く事だってできている。

 そんでもって、服の着方ぐらいはわかる。というかまあ、穴開いてるところに腕だとかを通すだけだし、忘れてる方がおっかないというかなんというか。

 まあとにかくだ。服の着方ぐらいはわかっているが、生憎俺の着ていた服はただの服じゃない。無駄にポケットが多い。内側に外側。あげぐベルトだとかを使っての杭だとかの収納だとかもある。マジで俺の把握していない収納が多い。

 だからこそ、戦いのない今のうちに、俺が持っている物の確認を行う必要がある。持っている物がわかるだけで、出来る戦法が増える。ついでに言えば、記憶を思い出す為の鍵があるかもしれないし。


「とは言ってもだろ、こんなの。一体どういう生活をしてたんだよ、記憶があったころの俺は」


 よくわからないが、とにかく杭が沢山あった。釘みたいに先が尖ってる訳でもない、ただ直径1㎝もないぐらいの長さ10㎝程度の杭。一体これをどのように使ったのかもわからない。

 あとは、まとめているとただのポーチ程度の大きさだけど、広げようとするとほぼ無限に広がっていく謎の布があった。どこまで広がるのかわからなかったが、とりあえず10m広げて諦めた。

 そこにはほとんど何も入ってなかったけど、それでも多少なりともモノがあった。とはいっても、燃えた本だったり腐った肉、ヒビが入った石等々、とりあえず戦闘に活かせるものもなければ、記憶の鍵もなかった。


 あと、まったく関係ないのだが、俺の体だな。正直、他人の体を見る機会なんてのはない訳だから、他人がどうかは知らないが。それでも、俺のこの体はおかしい事ぐらいはなんとなくわかる。


「なあ、聞いたか?」

「なんかあったのか?」

「あったもなにも、例の奴らが来たんだよ」

「げっ。マジ?」

「大マジ。しかもさっそく被害も出たってよ。なんでも、店を一部を壊されただとかなんとか」

「それで安く仕入れてるってか?」

「ああ」

「あの野郎、ふざけやがって」


「あの、なにかあったんですか?」

「ん?あんた、旅の人間か。そうか、知らねえのも無理ないな」

「くれぐれも気を付けろよ。むこうは商人だが、どーも傭兵を雇ってるみたいでね。とりあえずそんな藪蛇はつつかないのが一番だね」

「そうすか」


 どーも、こんな場所ですら、厄介で変な奴もいるもんなんだな。いや、こんな場所だからこそ、か。まあそういう危なっかしいものからは遠ざかるべきだな。






「なあ聞いたかよ。悪徳商人がいるんだってよ!」

「らしいな。で、お前まだ食ってるの?」


 確かにお金は、あの村から出発した時に少々頂いたのだが。そんなに大量に食えるほどお金あったかな?


「だったら今すぐ倒しに行かねえと!」

「いやいや」

「困ってる人間もいるんだ!放っておくわけにはいかないだろ!」

「いやいや」


 この子は一体何を言っているのかな?頬にご飯のかすを付けているのに、一体何を言っているのかな?


「善は急げ。早速行くぞ」

「ちょい待ち」


 とりあえず机越しではあったが、手を掴み行動を制する。おかげでちょっと物音が立ち、周囲から見られた。まあ別に構わないが。


「なんだよ、なんであんたが止めるんだよ」

「そりゃ止めるだろ、普通。危ない事にわざわざ首を突っ込もうとしてるんだからな」

「じゃあなんでオレは助けたんだよ」

「そりゃ危険な目に遭ってたからだな」

「じゃあオレだって」

「ちょっと冷静になれお前」


 こういう時に必要なのは、冷静さだ。冷静さを失い現状の把握を怠れば、痛い目に遭うのは自分自身だ。


「っと、その前にちょっと外に出よう。ここで騒いでたら迷惑だからな」







 外に出て、とりあえず広場的な場所にやってきた。広場と言うよか、公園と言う方が正しいのかもしれないが。その辺りの詳しい定義がわからないし、まあとりあえず広場と呼んでおく。


「お前はとりあえず冷静になれ」

「でも、早くしねえと被害が広がるだろ!」

「だから、冷静になれって言ってるんだよ、俺は、おわかり?」

「……」

「よし、ようやく人の話を聞く気になったな。じゃ説明だ。俺は別にお前の行動を否定している訳じゃない。まあ本当なら止めたいが、どーせそれをしたらまた一からやり直す事になるから、今回はその悪徳商人を止める方向で話を進める」


 でもま、相手の強さがわからない以上なんとも言えないが、こいつにはこういう物騒な事件を解決するにはまだ早い気がする。いや気がするんじゃなくて、確実に早い。


「良いか?現状でさえ被害が出ている以上、お前が下手にそれを突いて、この町の住人に余計に被害が出る可能性もあるんだぞ?良いか?お前が、下手な事をすれば、余計に事態が悪化させる事もあるんだ。だからまず冷静に、現状の把握をする。OK?」

「わ、わかったよ」

「オーケーオーケー。じゃあ現状把握。相手の数は?強さは?」

「そ、そんなのわからないよ。相手の拠点に行った訳でも、その相手を直接見た訳でもないんだから」

「そうだな。相手の顔を知らなければ、強さも、相手の人数すらわからない。じゃあこっちは?」

「あんたとオレの二人。戦力で言えば、オレはそこそこ戦える程度」

「だな。まあ今回は他を巻き込む可能性もあるから、俺の事もちゃんと戦力の一つとして数えておけよ」

「あんたは、多少相手が強くても難なく圧倒できる程度には強い」

「まあなんとも言えないが、お前の中ではそうなんだろう。じゃあ次。お前はどうやってその悪徳商人の居場所を突き止める?あと敵は少なくとも二人はいる。傭兵を雇ってるみたい、てな事を町の人が言ってた以上、想像以上に敵の数が多い可能性だってある。その辺りはどうするつもりだ?」

「……、敵のアジトは、町の人達の話しぶり的に、知っている気がする。何回もこの町に来てる風だったから、多分知ってる。知っててなお、どうにもできていないんだ。んで敵だけど、それは…」


 思ってるより考えてるけど、まーこういう戦略を立てる事を今までやった事ない以上(恐らく)、細かいところを詰めれなくてもいい。

 とはいっても、俺だって戦略を練ったりする事をできる人間でもないしな。いや、やろうとすればできるかもしれないが、結局のところ、こいつと同程度の作戦しか立てれないはずだしな。


「さて。まあそこは臨機応変に行こう。そもそも戦うという前提を持ってるのも間違いだろうし」

「どゆこと?」

「そもそも相手は商人であり、山賊だとかとは違うんだよ。だからまあ、交渉する余地があるはずで、それが無理ならば強硬手段の戦闘、だ。わかる?」

「確かにそうだな。いくら被害が起きてるとはいえ、うん。相手は無差別に攻撃する奴でもなければ、誰かをいたぶって喜ぶような人間でもない、はず。うん。とにもかくにも、相手の居場所を突き止める必要がある」

「だな。じゃあまあまずは情報収集」

「わかった」

「あと、急ぐなよ?」

「わかってる。冷静になる。わかってる」

「ならいい」







「ん?例の商人の居場所?なんだってそんな場所を知りたいんだよ」

「そ、それは」

「もちろん近づきたくないからですよ。俺達は”ただの”旅人ですから、護身術は嗜んでいても、本格的な戦闘は避けたいんですよ。だからその、例の商人たちには近づきたくないのです。でも居場所を知らなければ、近づかないよう心掛ける事すらできない。だから知りたいんですよ」

「あー。なるほどね。確かにそうだな。つっても、あいつらの根城はこっからでも見える、ちょっとした丘だから、よっぽどでもない限り近づく事はないよ、安心しな。それにあいつらは商人だからな。盗賊だとかとは違って、一般市民を巻き込むような事はしないはずさ。それをしてしまえば、ただの盗賊に成り下がるからな」

「そうですか、親切にどうもありがとうございます」

「いや、良いってもんよ。困ったときはお互い様だって言うしな。こういう親切が、回り回って自分の為になるかもしれない。つまりこれは自分のためにやったことだ」







「あの人、めっちゃ良い人だったな」

「俺の中の世の中には良い人しか存在してないんだが?」


 いやまあこれから行こうとしている場所は良い人ではないのだが。


「さて。場所はわかったが、どうする?交渉は任せても良いのかな?」

「さっきはあんなんだったけど、任せてくれ。元はと言えば、オレがやるって言ったんだ」

「じゃあその言葉を信じても良いんだな?」

「任せてくれ」

「じゃ、行くぞ」

「おう」


 本当に丘に拠点みたいなのがあった。廃墟ではないが、綺麗なおうちって訳でもない、まあ拠点としては使えるって感じの拠点。


「おやおや。客人ですか?それはそれは。おもてなしをしなければ。ですが申し訳ない、生憎とこんな環境ゆえ、少々お時間を頂きたい」


 ……。


「なあなあ、どういう事だ?聞いてた話では、もっとおっかない感じだったけど」

「ちょっと黙ってろ」

「なっ、」


 どうも、おかしい気がする。

 が、何がおかしいのかわからない。


 ここは廃墟と呼ぶには綺麗で、新築だと呼ぶには壊れすぎている。そのせいか、別に天井に穴は開いていないが、部屋と部屋とは開放的な感じになっている。

 簡単な話、倉庫のような感じだろうか。一階と二階という区別は一応できるが、一階からでも二階を見る事ができる。見渡す事ができる。そして見渡す限り、さっきのような印象を受けた訳だ。

 一階から二階を見渡せるのだから、それはもう廃墟ではと思うが。そう思わない理由は一つで、やっぱり人が居るからこその綺麗さと言うか、生活感を感じさせるからだろう。廃墟ならば、もっと壁紙とかが剥がれ落ちているべきだ。


「! そうか!」

「どうしたんだよ」

「お前、息止め、どれぐらいできる?」

「ん?急にどうしたんだよ。黙れって言ったり急に叫んだり」

「とりあえず、出来る限り息を止めておけ」

「だからどうして」

「詳しく話す余裕も無いが、内装の割に壁が綺麗すぎる。なにか仕掛けがある」

「!?」


 さっきも言ったが、部屋と部屋とは開放的な感じではあるが、天井に穴が開いている訳でもなければ、壁紙が剥がれてたり、太陽光が差し込んだりしていない。

 密室とは言わない。ここからでは窓が見えないだけかもしれないから、密室であるとは言い切れない。だが、少なくとも開放的な場所ではない。

 そしてここは敵の本拠地。何もない方がおかしいだろう。


「おやおや。もう気づかれましたか。本当なら、眠ってからおもてなしをするつもりでしたが、仕方ありませんね」

「生憎だけど、こっちはもてなされるつもりなんてないんだわ。交渉に来ただけだ」

「ほう?それにしては、随分と察しが良いですね」

「まーそれはあれよ。そっちが傭兵を雇ってるように、こっちも同じような事をしただけって話だよ」

「傭兵とは失礼だな。こっちは兄弟で商売をしてるだけだぞ?」


 どこからともなく、イカツイ人が出て来た。

 あと、あんまり見えてないけど、俺達を囲う感じで、二階に大勢が陣取ってる。


「ほう?まあそこはどうでも良いんだよ。要は脅して安く仕入れるのはやめてくれって言いに来たんだよ。ホントなら横にいるコイツが啖呵を切る予定だったんだが、まあ事情が事情なんでね。俺が代わりに」

「そりゃ無理な話だな」

「ですね。他人に我々の商売をどうこう言われる筋合いはないので」

「そうかそうか。そりゃあ仕方ない」

「おっと、せっかくの客人を、タダで返す訳にはいかねえよなぁ?」


 そう言っていきなり突進してきた。


「破ッ!」

「わお」


 どういう原理だ?手が爆発した?いや手が爆発したんじゃなくて、手から爆発が生じた。

 が、そんな細かい事がわかったところで、結局どういう原理で爆発したのかがわかっていない。あれか?原理とかを一切無視してくる魔法が使われてるのか?


「まあ、分からなくたって、なるようになる」

「大口叩けるのも今のうちだ!」


 どれぐらいの爆発を起こせるのか。それは今から感覚を掴んでいくしかないが、とりあえずさっき起きた爆発よりちょっと多めの距離を取って回避すれば良いわけだ。簡単な話だ。


「うらっ!」

「ふー、危ない危ない」


 うん、見た限り、今の爆発とさっきの爆発、同じぐらいの規模だ。

 けど、次はそうとは限らない。なんたって俺がこの爆発に対応してきたとわかれば、爆発の規模を大きくしてくる可能性がある。つまりはチキンレース開催だ。まあチキンレースと言っても、相手に爆発の規模も上限があって、規模を大きくすればより疲れるって言う条件があればの話だけど。


 けど、わざわざそのチキンレースに付きあってやる必要もない。


「おい小僧」

「ん、ん?」

「ちゃんと見とけよ」


 懐に仕舞っていた杭を3本取り出す。

 そしてそれを筋肉だるまに向けて投げる。


「ハッ!近づかれるのが怖いってか!」


 距離を詰める。

 ナイフを、振り下ろす。



______





「ちゃんと見とけよ」


 見とけって、何を見てれば良いのか。あっちの筋肉さんか、ひょろがりさんを見とけばいいのか。それとも脱出経路を見つけておくべきなのか。


「ハッ!近づかれるのが怖いってか!」


 ……、これでも、オレは敵を視界からは外さなかった。確かにどっちを見るべきかだとか悩んだ。だがそれでも、敵の事はしっかり見てた。

 にも関わらず、敵の人が喋ってからようやく、あいつが何かを投げた事に気が付いた。あいつを見てた訳ではないが、それでも敵を視認し続ける関係上、あいつも自然と視界に入る。にも関わらずだ。何も、気が付かなかった。


「!!」


 敵が一瞬硬直したと思えば、あいつはもう敵の背後に居て。

 敵を、真っ二つにした。比喩とかでもない。体を左右に真っ二つ。


「はい。終了」


 あいつは手を叩き、そんな事を言った。あんな事をやった後だというにも関わらず、いつもの調子でそんな事を言った。

 !?

 どういう事だ?敵は無事。体は勿論引っ付いていて、傷一つついていない。

 そして、あの敵ですら、自分の体が引っ付いている事に疑問を抱いている。


「ど、どういう事だよ、なんでこいつは生きてるんだ」

「おっと、お前はまだ喋るな。まだガスが残ってる」

「!!」



_______





「で、なんで生きてるかだけど。いやだって別に殺してないから生きてるだけだけど」


 正直、なんでそんな事質問してくるかもわかっていない。俺はただ、相手を脅す為に背後に回り、ナイフを頭上に振り下ろしただけだ。それ以上の事はやっていない。


「で、どうだろう。なんか試合は止まってるし、いい加減そっちのもガスを止めて欲しいんだけど」

「は、はい」

「……」


 懐からマッチを取り出す。そして一本、箱から取り出す。


「なっ、よせ!」

「なら早くガスを止めて、上に待機させている行商人達の武装を解除させるんだな。それともこの拠点を壊されたいかな?」

「仕方、ありません。全員、武器を捨てなさい」


 こうして。悪徳商人の事件は解決へと向かった。めでたしめでたし。

よければブックマークと評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ