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2話 旅立ちの日に

「ではもう行きます」

「助けてくれてありがとな!」


 感謝されるのは、どうも慣れていない。いやそもそもの話、記憶が無いのだから、慣れているはずもないのだが、体がむず痒いので、恐らく記憶があった時も、きっと感謝はほとんどされていなかったのだろう。


「それにしても、ナニラは来てないね」

「ん?あの馬鹿野郎は、まあ良いんだよ」

「この度は、武器も譲ってもい、ありがとうございました」

「良いって事よ。それよか、本当にそれでよかったのか?」

「良いんです。どうも、これが一番しっくり来たので」

「ってもな。そりゃ、ダガーですらねえし」

「いえ、これで良いんです」


 ペティナイフのようなサイズ感。いや、この場合は、ダガーを片刃にして、少し刃渡りを短くしたような感じと言った方が正しいかもしれない。まあ結局はペティナイフだ。


 何故だかわからないが、これを持ったときが一番しっくり来た。直剣大剣槍斧に槍、色々な武器を持って素振りしていたが、結局このナイフが一番しっくり来た。何故だかわからないが、自分にはこの武器しかないと思わせる程度には、しっくりと来た。


「では、さよなら、ソニア」

「またね!うーん、ナニラも見送りに来て欲しかったんだけど。助けてもらったんだから」

「では、よろしく伝えておいてね」

「うん、わかった」






 あの村は、どうもお節介が好きらしい。

 貰ったのは地図だが、その他にも色々とまとめて、地図も一緒にその袋に詰めて渡してきた。

 そして村では絶対に袋を開けるなとかいう、どこの昔話なんだと思うような事を強要された。

 だから村を出て確認した。

 袋の中には、大体3日分ぐらいの保存食。あの村の周りには森林も無ければ川や海、湖とかもなく、食べ物の確保は大変だろうに、わざわざ俺なんかの為に、保存食をわけてくれた。

 他には、どれほどの価値があるのかわからないが、お金らしきものも入っていた。というより、お金だろうな。うん。ただの円形の金属にするなら、わざわざ柄なんて必要ないもんな。これはお金です。価値はわからないが。


 さて。余計なお節介のおかげで、お金としばらく分の食料は確保されたのだが。結局はここから最寄りの町がどれほど遠いのかが問題になってくる。まあどれぐらい遠かろうが問題はないのだが。そもそも目的があっての旅じゃない。時間が掛かりすぎるのは不味いと直感が告げているが、急げるほどの目的がない。

 だからとりあえず、目的地は遠くても問題はない。


「それで?こんな遮蔽物のない中尾行とは立派だとは思うけど、何か用かな、ナニラくん?」

「い、いつから気づいてたんだ」

「まあ、健気について来てるから何も言わなかったけど、割と最初から」


 まあ、うん。この辺り、特に遮蔽物ってないから。

 強いて遮蔽物らしきものを挙げるとすれば、腰辺りまで伸びた、なんだ?イネ?が、遮蔽物になっているとも言えなくもない。が、こんなのを掻き分けて移動なんてしてれば、尾行なんて無理だ。なんたって音が出るし。


「まあいつからでもいいだろ?で、何の用かな?ご立派なリュックを背負って、旅でもするのか?」

「……、なんでもお見通しってか?」

「俺が見通せるのは、目に見える範囲までだな」


 まあ、それはもはや見通すとは言わない気がするのだが、小っちゃい事は気にするな。


「んで、三回目。何の御用で?別に暇だからいつまでも待つけど、用事は早く済ませた方が、互いのためだと、俺は思うね」

「……。オレの名前はナニラ!騎士を志す者!あんたの実力を見込んで、頼みがある。オレを旅に連れてってくれ」

「ふーん」

「なんだよ、馬鹿にすんのかよ!村の人達と同じで!」


 馬鹿にするもなにも、本気で騎士になりたいのなら、俺なんかに付きまとうよりも、もっと有意義な事があると思うのだが。それこそ、記憶のない人間について来ても得られるものなんてなにもないはずだが。

 あ。

 記憶がない事、この子は知らないのか。


「一つ言っておくが、俺は今日の出来事より前の出来事は一切憶えていない」


 いや、正確に言うのであれば、あやふやすぎて思い出せない、が正確かもしれないが。まあ少なくとも、自分の名前とか自分が一体どんな人間だったとかの重要な事を思い出せていない以上、記憶喪失で間違いないはずだ。だから細かい事を気にしなくても良いだろう。肝心なのは記憶がないという事だ。


「それでも良いなら、ついてきたらいいさ。ま、楽な旅ではないと思うけど、その辺りの覚悟もしておくべきだな」


 今までどんな生活を送って来たのかは知らないが、少なくとも定住からはかけ離れた生活を送る事になる。その辺りの覚悟が半端な状態で旅について来て、色々と駄々をこねられても困ってしまう。俺に子守りは不可能だ。自分の事すらわかっていない人間が、他人の事をわかってやれなんて無理難題だ。


「オレは15だ。苦しい事なんてへっちゃらだ!」

「……、」


 俺の見立てでは、こいつは12、13歳ぐらいに見えるのだが、まあきっと気のせいなのだろう。世の中大人に見える子供もいれば、子供のように幼く見える大人だっている訳だしな。


「ま、分かってるのならそれでいいさ。じゃ、改めて言っておくけど、俺は記憶喪失だ。名前も年齢も思い出せない。だから名乗りはできない。まああんたとかお前とか、適当に呼んでくれればいい」

「オレはナニラ。好きなように呼んでくれ」

「よし、自己紹介は終わり。出発だ」


「あ、そうそう。目的とか、これと言ってない旅になるだろうし、きっとお前が想像している数倍は辛い旅になるから」




三日後


「はぁ、ちょ、あんた、いい加減、に、してくれ」

「ん?どったの?」

「どったの?じゃないんだよ。こちとら碌に休憩してないんだよ。いい加減、休憩させてくれ」

「なんだなんだ、もう弱音か?苦しい事なんてへっちゃらだ!、とか強がってたのに、もう終わりか?それに休憩ならちゃんととっただろ?」

「ああ、確かに強がったよ。けどこれは違う。人間がやって良いペース配分じゃないんだよ。休憩?飯食う時間は休憩には入んねえんだよ必要経費だよ。あとなんだよ一日の内21時間は走りっぱなしじゃないかこんなの辛いとかのレベルじゃないよ死ぬよ普通に死ぬよしかも飯だってただの保存食しかねえし睡眠時間なんて1秒もねえしもうほんと、いい加減休憩をくれ」


 うーん、ちゃんと1時間ずつ、三回に分けて休憩を入れてたんだけど、うーん、うーん?


「でもお前、休むって言っても、夜の時間に見張りとかできないだろ?別に俺がずっと見張ってても良いけど、お前こんないつマモノが襲ってくるかもわからないような状況で、ちゃんと睡眠とれるの?それならさっさと目的地まで行って、そこでふかふかのベッドで寝る方が良いだろ」

「確かにその理論は通じるよ。でもな!それはあくまでも目的地が丸一日かかる程度で着くような場所の話なんだよ!ほぼ走りっぱなしで三日、未だに目的地すら見えないんだぞ良い加減に休憩が居るんだよ」


 ふむ。確かにそうかもしれないな。俺は全然疲れていないけど、子供はそういうものなのだろう。


「今更だけど、お前、この場所知ってる?」

「ん?知ってるも何も、ここは水の国の首都だよ。知らないはずないだろ」

「じゃああとどのぐらい掛かるかとかもわかるもんなの?」

「正確な時間はわからねえよ今がどのあたりにいるのか見当もつかねえし。けど、村に時々来てた行商人は、馬車ですら1か月かかるから着たくないとか愚痴ってたな」

「なるほど」


 この地図じゃ結構近めに見えたけど、どうも縮尺がとち狂ってる感じか。

 うーん、こっちには子供がいる訳だし、もうちょっとちゃんとした予定を立てて行動するべきだな。

 ……

 そうだよ、隣にいるのは子供だという事を忘れていた。そりゃそうだ、子供なんだから、俺のペースで動いていたら、そりゃあばてるよな、子供なんだから。うん、気を付けよう。


「なんか知らんけど、無性に腹が立った」

「よし、分かった。今日はもうゆっくり休め。うん、見張りは俺に任せておけ。そんでもって、明日からは移動時間は3時間に変更。これで良いか?」

「い、良いけどよ。なんだって急にそんなに移動時間が減るんだ?」

「いや、どうもお前には体力忍耐力が足りないと見た。まずは短い距離から慣らしていく。あと、お前は騎士を目指しているんだろ?」

「そのためにあんたについて来たんだ」

「じゃ、移動時間以外の暇な時間は、色々と教えてやる。とは言いつつ、俺に物事を教えられるほど、剣術だとかをちゃんと認識していると思えないから、ほぼほぼ実戦形式で盗めとしか言えないけど。それでも、1人で素振りをしているよか有意義な時間になるはずだな」

「よっしゃ!オレの実力を見せつけてやる!」

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