1話 落下死・Bad End
まあ主人公が1話で死ぬはずないよね
「今日は、あいつの任命の日、ですか?」
「だよ。まったく、友人の大切な日だというのに、忘れるなんて可哀想じゃないか。2756年、およそ150年ぶりに新たな贋ジンが誕生、それが友人だってのに」
「そうは言ってもですね。俺としては、あいつがどうなろうと、関係ない話ですし」
「まあまあ。確かに友人が知らぬ間に贋ジンに選ばれて、それの報告を一切寄越さなかったからって。そんなに拗ねる事ないじゃないか」
「俺よりも拗ねてる気がしますが、まあ気のせいでしょう」
言い訳とかではなく、俺は本当になんとも思ってない。
確かに、喜ばしい事なのだろう。そもそも、この国に外国の人がやってくる目的の多くは、贋ジンとして認められるためだ。だからこそ、あいつが贋ジンとして選ばれたという事は、とてつもないほどの名誉だろうさ。友人ならば、それこそとても大きい部屋だとかを貸しきって、パーティーを開催する程度には大きな出来事だろう。
だがそれとは別に、俺はあいつの技の実験台としての役割があった。
そもそも贋ジンは、人を超えし存在の事だ。まず大前提として、戦闘能力が必須だ。次いで肉体の強度。まあ色々とあるらしいが、俺はそんなものには興味が無いから、詳しい条件と言うのは知らないのだが。それでもやはり、強さが必要だという事は知っている。
そしてその強さを求める為に、俺が実験台となっていた。
そしてその実験体たる俺がピンピンしている訳だから、正直なんとも言えない。あいつが贋ジンになるのかやったな、とならなければ、あいつが贋ジンになるの?ともならない。ふーん、程度で終わる。それなら、変な噂とかを聞いた方が興味をそそられる程度だ。
「それより、それを伝えるためだけに、護衛と監視を振り切って来たんですか?」
「そんなバカな事はしないさ」
「そうですよね。そんな莫迦な事をしていたら、この国の王子なんて務まりませんもんね」
「受任式、見に行こう」
「俺、怒られるのはもう嫌なんですけどね」
「ほらほら、早くしないと、良い場所取られるよ」
「別に構いませんよ。そもそも見に行くつもりもないですし」
「ほらほら、早くしないと良い場所どころか式が始まっちゃう」
「じゃあもう諦めてください」
「友人の晴れ舞台だよ?諦めるはずないでしょ」
これだからこの王子はヤバいんだ。
俺に王としての在り方なんて知りえるはずもないが、それでも無駄に諦めが悪いのは、果たして良い事なのだろうか。潔く割り切る事も必要ではないのか。
「はぁ、良いですよ。行けばいいんでしょ。というかそうしないとずっとここにいるでしょ」
「わかってるなら話ははや、」
ウ――――――――――――――――――――――――――――――――――
耳障りなサイレンがなった。
音の遠さ的に、この研究所からサイレンが鳴っている訳ではなさそうだった。
「「……」」
俺達は顔を見合わせた。
何が起きたのか、一切わかっていない。だがそれでも、互いに悪い予感があり、それが一致した。
次の瞬間、俺達は駆けていた。
◇
何故、こんな事になったのか。理由は明白だった。だが、それを責めようにも、当事者は既に死んでいる。
それを指揮したモノも、既に瓦礫の下の、数多あるモノの一つとなっている。
国は、落ちた。
この国に住む人達は、助けられず、戦争は、始まって数日と持たず決着がついてしまった。
「何、言っているんだ。 お前がいる、限り。この国は、滅びない」
「くそっ、なんだって、よりによって、こんな瓦礫程度に」
「お前だけは、生きろ。そして______」
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「できたぞ、じじい!これで今日のノルマは終わった!」
「おいごら、こいつぁ量を作りゃ良いってもんじゃねえんだ、はぁ。ったく、逃げ出すのだけは一級品だなぁおい」
「じいちゃんじいちゃん!、あれ?ナニラは買い物にでも行ったの?」
「んな訳あるか。また逃げただけだ」
「あはは、まあいつもの事か」
「ったく、あの馬鹿野郎め。いつか必ず、痛い目に合わせてやる」
「まあまあ、一応ノルマはこなしてるんでしょ?」
「確かにノルマはこなしてる。が、あいつはこの仕事を舐めてる。皿洗いのくせして、皿を水で流してるようなもんだ」
「あ、あはは」
「で、お前の方はどうしたんだ?」
「そうだ!空から、空から男の人が落ちて来た!」
「……、は?」
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遥か昔、空高くに城がありました。
そこは、神を殺す備えがありました。。
神はそのことをよく思わず、その城を攻撃しました。
その城に住まう王様は、真っ先に逃げようとしました。そこに暮らす民たちを残して、1人逃げようとしました。
神はその事を酷く嫌悪し、真っ先に王様を殺しました。
ですが、それは戦争の引き金となりました。
神はその強大な力で、どれだけ人が束で挑んでも、傷一つ与える事は出来ませんでした。
そして遂に、神がその戦を終わらせる一撃を放とうとした時、人間からの反撃にあいました。そう、神をも殺す事ができると言われていた兵器を使ったのです。
戦争は終わりました。
空にあった城は、人っ子一人住まわない廃墟となって尚、空を飛び続けています。
神は最後の反撃を喰らい、誰もその後に姿を見たものはいませんでした。
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「おかしいだろ、なんで人が空から降ってくるってんだ?雨時々人ってか?意味がわからん」
「でも降ってきたじゃん」
「まあ、百歩譲って空から人が降ってきた事は軽く流せすとしてもだ。なんだってこいつぁぐちゃぐちゃになってない?こいつはどう見てもよそ者だ。だからこそ、半端な高さから落ちてきてない。にも関わらず、怪我と言う怪我は、足の骨折に肩が脱臼した程度。こいつぁ、人間じゃねえ」
「???」
「いや、確かに人の形をしてる。だが、人は高所から叩きつけられりゃ、人様の形を留めておくことなんかありえない。水風船が割れるようなもんだ。こんな綺麗な状態でいれる道理がない。さらに、怪我が少ないのも異常だが、そもそも出血してないのもおかしい」
「そんなに深く考えなくてもいいんじゃないの?」
「いや、こんな小さな集落だからこそ、怪しい奴は可能な限り遠ざけるに限るんだ。それが賢い生き方ってもんだ」
「じゃあ、なんで私達は拾ったの?」
「そりゃお前、」
「……、? ……。あの、どなたかは存じませんが、俺の手当てをしてくれたんですね」「なっ!」
「ありがとうございます。でも俺は今すぐに、今、すぐに?」
「どうしたの?」
「俺は、……。今は何年だ!」
「何年って、えーと?」
「今は810年だ」
「810?どういう事だ?それは少なく見積もっても、2000年は昔じゃ。いや、そもそもなんで年なんて聞こうと思った?」
どういう事だ?俺は、ついさっきまで、……、あれ?何していた?
「自問自答しているところ悪いが、怪我が大丈夫だったのなら、出てってくれ。うちは病院じゃなく鍛冶屋だ。武器は作れても怪我人を治す事はできない」
「ちょっとじいちゃん!」
「ああ、すみません。助けてもらったばかりか、意味の分からない質問もしてしまって。お礼、になるかわかりませんが、少ないですけど、受け取ってください。生憎と、手持ちが殆どないので、これぐらいしか渡せませんが」
懐から、金貨を取り出す。ここが何処かわからない以上、この通貨が使えるのかはわからないが、それはそれとして金としても多少なりとも価値はあるはずだ。
「いや、礼なんて別にいらねえよ」
「そういう訳にもいきませんよ」
「誰か、誰か来てくれ!戦える奴は今すぐだ!」
「ったく、何があったってんだ?イノシシでも出たのか?」
「それにしては、いつもよりも鬼気迫ってる感じじゃなかった?」
「すみません、これ借りていきますね」
「なっ、ちょ、待て!sそれは、って、動きが速すぎるだろ。本当に空から落ちて来たのかよ、あれが。……、!」
「そうだけど、なんかすっかり怪我が治ってるね」
「それもそうだが、いくら体が丈夫だとしても、持ってったあれはダメだ」
「え?なんで?」
「あれは、あいつが持っていった武器は、あの馬鹿野郎の初めて作った贋作だ!」
◇
「ヤバい、火が家に移ったぞ!」
「火を消せ!」
「いや、先にあいつを倒さないとまた火が移るぞ」
「くそ、でも俺達じゃあいつに傷を負わせることもできない」
「すみません、相手はあれですか?」
「ああ、そうだが、あんたは」
「俺が誰かは、今は関係ない。今考えるのは、あいつを最小限の被害で倒す事」
「あ、ああ、そうだな」
にしても、どうして不死鳥もどきがここに?こいつらは、本物の不死鳥に近づくために、寿命の長い生き物の精気を吸い取るはず。だから基本的に、人を襲う事はない。
どういう事だ?いや、考えても仕方がない。どうせわからない。第一、自分の事さえ、ほとんど思い出せていないのだから。相手の事なんて、わかるはずもない。
「なっ、待て、考え無しに突っ込むな!そいつは多少の傷ならすぐに回復するんだ!」
不死鳥もどきの弱点は二つ。
一つは不死鳥もどきだという事。つまりは本物の不死鳥じゃあない。だから傷の回復も限度がある。
一つは精気を溜め込むという事。言葉じゃあれだが、要は水をためるのと同じで、精気を入れるための容器、つまりはコップのようなものが必要になってくる。要はそれを壊せば、不死鳥もどきは不死鳥もどき足り得る要素を失う。つまりはただの鳥になる。
「なっ、あれを、一刀両断しやがった」
「しかも、回復しない。勝った、のか?」
「まだです。家が焼かれれば、こいつに勝っても意味ないです」
「そうだ、急げ!井戸から水を汲んでこい!」
何故か、言葉があるれて来た。
「『水よ、大地を癒せ』」
呟けば、今さっきまで雲一つない快晴だった空が、雨雲を作り、雨が降り始めた。
「う、そだろ。天候を変える、魔法だって?」
「そんなの聞いたことねえよ、俺」
「それを、二小節の詠唱でか」
「これで火事も問題ないはずですが」
『ギャアアアアアアアアアアア』
「もう一匹いたか」
不死鳥もどきは、しょせん成り損ない。ただの贋作。
よって、魔力の籠ってる水は弱点になりうる。
が、なんで事を思い出せるのか。それがわからない。
「なっ!」
「けど幸いな事に、あっちは無人地帯。怪我人が出る恐れはない」
「そうか、それは良かった」
「ですが、放っておおいてはいけない相手です。あれらは厄介です」
「そうだ、急ぐぞ」
「いえ、貴方たちは怪我人がいないか、村人が全員いるのか確認をお願いします。それらの確認が終わってから、こちらに来てください」
「お、おう、分かった」
「俺達が言えた事でもねえが、気を付けてくれよ。あんたが誰だか知らねえが、よそ者がうちの事情で死んじまうなんて、申し訳が無いからな」
「お気遣いありがとうございます。貴方方も、気を付けてください」
◇
見栄を切って不死鳥もどきがいるところに走り出したのはいいものの、俺が行ったところで、どうにかなるのだろうか。ついさっき、自分の無力さに打ちひしがれていたばかりではないか。
俺が、俺がいたところで、
やめろ。それ以上はいけない。きっと、立ち上がれなくなる。
今はただ、目の前の敵を倒す事だけを考えろ。俺にできる事は、きっとそれだけだから。
◇
「いた」
そいつは既に、弱っていた。
それもそうだ。魚が陸地では元気がないのと同じように、あいつにとって雨が降っているこの状況は、自分を苦しめる行為に他ならない。
「いくら弱っていると言っても、ここで戦うとなると、ちょっちキツイか?」
いくら相手は弱っていても、空を飛べる相手だ。
そしてここは、無人地帯よろしく、空き地が多くある。
被害は恐らくでないだろう。というより、被害が出るほど、家がない。
逆に、立体的なものが無い分、あいつを攻撃するのは骨が折れそうだ。
「魔法、か。」
剣の届かない範囲に居る敵は、魔法を駆使しろ。誰かから、そんな感じの事を習った。
だが、肝心の、魔法の使い方を、一切思い出せない。
いや確かに。ついさっき、雨を降らした。あれが魔法ならば、俺は魔法が使えるのだろう。だが、それがどうした?魔法が使えるからと言って、使い方を知らなければ意味がない。
しばらく、睨めっこが続く。
お互い、成す術がない。
やろうと思えば、互いに攻撃はできる。が、少なくともそれは、相手の土俵に入り込む事になり、一撃でしっかりと仕留めなければ、反撃を喰らうだろう。そしてその反撃は、きっととてもでかいものになる。そんなものは喰らえない。
だから互いに、睨み合う。少しでも動けば、確実に動けるように、相手の微かな動きすら見逃さない。
だが、この睨み合いは、ずっと続くわけではない。なにせ、雨が降っており、その雨で不死鳥もどきはダメージを負い続ける。早々に決着をつけたいはず。
そして痺れを切らしたタイミングこそ、俺があいつにダメージを与えるチャンス。
『キッ』
「なっ!」
均衡が一気に崩れた。
ここは、無人地帯じゃなかったのか。
……、いや、無人地帯だからこそ、人がいたのか!
迂闊だった。焦りすぎていた。どうして、気づけなかったのか。
いや、反省は後。まずは、あの子を守る必要がある。
「くッ!」
万全の状態なら、弱っている不死鳥もどきの攻撃なんて、大した事は無い。
だが、離れたところにいた子供を守るために、無茶を強いられた。
「だが、おかげで互いに隙だらけだな」
不死鳥もどきは焦り、くちばしでの攻撃を繰り出した。それで心臓を突き刺し、精気を回収する予定だったのだろう。
だが、そのくちばしでの突き攻撃は、子供にではなく、俺に。そして心臓にではなく、左の脇腹に。突き刺さっている。
「悪いが、人に危害を加えようとしたんだ。お前をお山に返してやる訳にはいかない」
サクッと、とはいかなかったが、ひとまず不死鳥もどきは始末できた。
「大丈夫、お嬢さん?」
「う、お、オレは男だ」
「これは失礼、大丈夫だったか?」
「お、オレだって、あれぐらい、」
強がりを言える程度には、大丈夫なようだ。ならば心配なさそうだ。
「早く家に戻るんだ。きっと家の人が心配しているだろ?」
「けっ、あのじじいがオレの事なんか心配するか。オレの事を道具程度にしか思ってないのに」
「……、とにかく戻ろう。無事だったと知らせるのは重要な事だから」
どんな事情があれ、死んで良い事にはならない。だから、無時だったと、村の人達に知らせるのは重要だ。
◇
「あ、ナニラ!無事だったんだ!」
「ちょ、痛い痛い。あと抱き着くな。恥ずいだろ」
「よかった、無時でほんとによかったよー」
誰にだって、帰りを待つ人はいる。当たり前のことではあるが、それはとてもありがたい事でもある。
「あんた、ありがとよ。うちの馬鹿を助けてくれて」
「いえ、当たり前のことをしたまでですよ」
「だとしてもだ。あんたのおかげで、あいつは助かった。感謝する理由には十分だ」
「俺も助けてもらってるんです。お互い様ですよ」
「……、だな」
それにしても、俺はこれからどうするべきか。
目的も無ければ記憶も無い。流浪の旅にでるのも良いが、なにか大切な事を忘れている感じもする。けどその大切な事も、記憶が戻らない限り、思い出すのも無理だろう。となると、結局流浪の旅になるか。
で、旅に出るとすれば、やっぱり地図は欲しい。記憶がない以上、土地勘に任せて旅をする、とかもできない。そもそもの話、ここが何処かわからない以上、土地勘がどうのこうのは無理があるけど。
「全員無事でした」
「この度は、ありがとうございました」
「村の人が無事でよかったです」
とりあえず、村の人達は大丈夫だったようだ。
「どうお礼をすれば良いか」
「いえ、別にそんなのは」
いらない、と言いかけたところでやめる。
本来、人助けで対価を求めるのは間違っているだろうが、今回ばかりはこのご厚意に甘えさせてもらう。
「では、地図をくれませんか?」
「地図?」
「なければ、ここから近い大きな町の行き方を教えてもらえれば」
「いえ、あるのですが、そのようなものでよろしいのですか?」
「はい」
村の人達からしたらその程度かもしれないけど、今の俺にとっては食料より金より何より大切だ。
「では、すぐに用意しますね。あと、出立の時には、御声掛けください。何もできませんが、せめてお見送りぐらいは」
「わかりました」
地図が貰えるのなら、まあなんでも良い。とにかく俺は、旅に出る必要がある。直感だが、そういう風に思う。
「おいあんた。ちょっとうちに寄ってけ。渡したいものがあるんだ」
◇
鍛冶屋のおっちゃんから、店に寄っていくように言われた。地図の準備だなんだで時間が掛かると言っていたし、やる事も無かったから別に構わないのだが。正直、なんで呼ばれたのかわからない。
「あんた、冒険者か傭兵か?」
「……、いや」
「そうか。まあなんでも良いさ。あのマモノを見た。あの剣で、どうやってあんな綺麗に真っ二つにできるんだ?」
「どうやってもなにも、ただ普通に振るっただけですよ」
「普通に?そんな馬鹿な。俺がいうのもなんだが、あれは鍛冶の技術が未熟どころか初めて作った、試作品だ。あんなので、マモノを綺麗に斬れるようなもんじゃない」
「? よくわからないですけど、あの武器は、何の憂いも無く振るえましたよ。どういうつもりで聞いたのかわからないですけど、少なくともあなたにとって、保存しておく程度には良いものだったのでは?」
「そうか、そうだな」
本当にどういう意図があっての質問だったのかわからない。
「あんた、旅に出るんだろ?」
「ですね。俺は自分が何者かわからない。だからこそ、旅をして、自分が何者なのかをはっきりと知りたい」
「そうか。……、礼の品がまだだったな」
「いえ、そんなもの貰うような事なんてなにもしてないのに」
「いいから貰ってけ」
「ですが」
「うちは病院じゃなく鍛冶屋だ。あんたに、俺の武器を持ってもらいたいんだ」
「……、わかりました。この中の武器なら、どれでも良いのですか?」
「ああ、あんたの使いやすいもんを持って行ってくれ」
「では、お言葉に甘えて」
とは言っても、俺は自分が武器を振るっていた記憶もない。にも関わらず不死鳥もどき相手に剣を振るっていた訳だから、きっと俺はそういう武器を使う事をしていたのだろう。
でも、俺がどんな武器を使っていたのかなんて、知っている訳がない。
とりあえず、目に付く武器を手に取って、感触を確かめてみるか。
これからも末永くお願いします。(恐らく失踪する)




