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速い、歩くの速いよ。
足の長さも違うんだし…小走りになりながら必死についていく。はぐれたら大変だ。
綺麗な花が咲いた庭園を抜け整った石畳の道をひたすらついていく。
この日本とは全く違う建物や雰囲気を感じる余裕もない。
さっきの王子様はいかにも高貴で王子様~って感じのイケメンだったけど、騎士さんは精悍な顔立ちのワイルド系イケメン。栗の皮のような濃い茶色の髪に藍色の瞳。実際に闘う事があるのか頬に傷痕がうっすらあったな。
それにしても人の事は言えないが愛想がないなぁ、この人も。一人残された私に声を掛けてくれて、これからの事を話し合ってくれるって言ってるんだから良い人なんだろう。話しかけてこないのは別に構わないのだが、もう少し、もう少しだけ後ろを気にしてほしい。
迷子になる!
元からこんな不機嫌な人なのか美姫が私の事(性格悪い嫌われもの)って言ってたから、そんな人と関わりたくないと思ってるのか?
たぶん後者だろうな。
王宮で一緒に過ごしたいなんて全く思わないけどさ、美姫も私に対する扱いは清々しい程変わらないな!
訳わからない事がおきてるんだから少しは助けてよ……なんて甘い考えだよね。
私を虐めてストレス発散してるような人達にとっては私が野垂れ死ぬ方が楽しいのだろうから。
この人が手を差し伸べてくれなかったら本当に美姫達の思惑通りになっていたかもしれない。
感謝しよう。なるべく感謝を声に出して伝えよう。
私は愛想はないし見た目も怖いんだから、せめて言葉は伝えないとね。
どのくらい歩いたのだろう。石造りの堅牢な建物に入る。その中の一室に案内された。
ここでしばらく待っていてほしいと言われ、椅子を勧められる。
椅子に座ると騎士さんは出ていってしまった。入れ違いに女性の騎士さんがお茶を持ってきてくれたが、やはりすぐに出ていってしまう。
どのくらい待てばいいのだろう。聞いたこともない国名だったな。本当に異世界なのか。精霊だし、騎士だし、王子様だし。異世界お約束の魔法もあったりして!
帰れなかったら仕事探さなくちゃ。どこか住み込みで働ける仕事をみつけなくちゃ生活できない……泣きそう……
しっかりしろ!私!パンパンと頬をたたく。
「ねえねえ」
「うわっ!」思いきり飛び上がりそうな程肩が跳ねる。
噴水の精霊さんがふわふわ浮かんでる。
「私ウンディーネ。あなたの名前教えて」
「…私?私は春原怜。怜が名前」
「レイ、みんなレイに会いたいって言っているの。森だったら寝る場所も食べるものも困らないからいつでも来て!歓迎するわ」
「ありがと。ウンディーネさん。今日もしこのまま放り出されちゃったらお願いするね」
「もちろん。今すぐでも大歓迎。すぐ行こう!」
「ごめんね、ウンディーネさん。今、私の対応をどうするのか騎士さんが話し合ってくれているから、まだ行くとは言えないんだ」
「うん、どこにも行くところが無かったら行こうね。レイの力を借りなくちゃだから、今日がダメでももう少し落ち着いたら一緒に森に行って手伝ってね?」
「イヤイヤ、私は無能とばっちり巻き込まれ追放キャラだし静かに目立たず生活するって目標があるんだ。美姫が精霊の愛し子って話だし美姫なら喜んで助けてくれるよ!」
「ふ~ん、そっか。静かに目立たずね…王族なんかに見つかったら人間の好き勝手にレイの事利用しそうだよね。精霊の加護がほしいのなら精霊を敬えばいいのにね」途中から声が小さくなり聞こえなかったがウンディーネはぷう~って頬を膨らませる。ちょっと怒ってる?そんな姿もかわいい。
「レイは無能じゃないよ!私達はみんなレイの事が大好きだからね」
「ふふっ、ありがと。ねえ、ちなみに加護とか愛し子ってどんな力があるの?美姫はどんな事ができるようになるの?」
「…この世界に来てからレイの中に魔力があるのだけど、何か感じる?」
「え~っと、魔力?………全くわかりません。ごめんなさい」
「レイ、手を繋いで。そう、今から魔力を流すから何か感じたら教えて」
(う~ん、このあったかい感じがそうなのかなぁ?)
「そう、それだよレイ!」
うわっ、声に出してないのに考える事がわかっちゃうのか!ニコニコ頷いている。
「あっ、人が来たから行くね」
パッっとウンディーネは姿を消してしまった。
コンコン
「はい」
「待たせて悪かったな。騎士団の女子寮で生活してもらう事になった。当分の間、衣食住はこちらの国で保障するから何の心配もせずすごしてくれ」
読んでいただきありがとうございます。