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1 いい試合
「よくやった!いい試合だった!」
試合後、ベンチ前で遠川監督は、
今までに見せた事のないような爽やかな笑顔でそう言った。
試合に勝った時でも常に厳しい表情で、
試合の反省点を第一に考えるこの人が、
第一声でそんな事を言うのは逆に怖いのやけど、
そんな俺の不安は取り越し苦労とでも言うように、
遠川監督は笑顔のまま続けた。
「あの奈良の強豪をあと一歩の所まで追い詰めたのだからな!
それというのも、今回の山ごもりの特訓の成果が、
この試合でいかんなく発揮されたおかげだ!」
そして遠川監督の隣に立つ顧問の下積先生は、
いつもかけている眼鏡を外し、目元の涙を腕で拭いながら言葉を絞り出した。
「数か月前は小学生チームにも負ける程の実力だった君達が、
ここまで成長してくれるなんて、その頑張りに僕は今、
猛烈に感動しているよ・・・・・・」
「大袈裟やなぁ、まるでもう甲子園出場を決めたみたいになってますよ!」
鹿島さんがそう茶化すと、俺達張高の面々もドッと笑った。
するとそんな中、遠川監督は不自然なまでに満面の笑みを浮かべ、
手には金属バットを持って言葉を続ける。




