17 伝念のひと振り
そして碇は俺のサインに頷き、渾身の第一球を、投げた!
外のストレート!
それを伝念は鋭いスイングで叩いたが、球の勢いに押され、
三塁側のバックネットへと打球は飛んでファールとなった。
恐らくストレートに的を絞って手を出したのやろうけど、
この辺りは碇のストレートが勝っているという所か。
これなら下手にかわすより、グイグイストレートで押していく方がええな。
そう判断した俺は、次もストレートを要求し、
碇は第二球目もストレートを投げ込んだ!
キィン!
さっきよりも澄んだ打球音が響き、
伝念の打球は真後ろのバックネットへ直撃した。
う~む、まだ碇の球威が押している印象やけど、タイミングは合ってきている。
完全にストレート狙い。
それなら少々のボールゾーンでも手を出して来るんやないか?
そう判断した俺は、伝念の顔の高さ位にミットを構え、ストレートを要求する。
この高さでも、碇のストレートを狙っているのなら手を出すはず。
さあ、三球勝負や!
そして碇は第三球目を投げた!
ズゴォン!
ひと際えげつない衝撃音と共に、碇のストレートが俺のミットに突き刺さる。
コースも高さも俺の要求通り。
そして球威は今日一番。
スピードガンで測れば、百五十キロくらい出てるんとちゃうか?
そやけど、しかし、伝念はその球に手を打さへんかった。
「ボール!」
球審のおっちゃんがそうコールし、
カウントはワンボールツーストライクとなった。
手が出ぇへんかったんか?
そやけどバットは一瞬反応した。
という事は、コースを見極めて振るのをやめたんか?
そうやとすれば球がよく見えてるっちゅう事やな。
三球ストレートを続けたから、目が慣れてきたのもあるやろう。
なので俺は次にカーブのサインを出し、
ストライクゾーンよりも外寄りにミットを構えた。
パシン!
「ボォル!」
伝念はこれも見送り、カウントはツーボールツーストライクに。
この球には一切反応無しやったな。
やっぱり狙いはストレートか?
今のがストライクゾーンに来てたら見逃し三振を取れたかも知れんけど、
その時はバットを出して来たかも知らん。
さて、次でいよいよ仕留めたい所やけど、勝負球はどうするか?
高めのストレート。
は、空振りを取れるかもしれんけど、
当てられると外野まで飛ばされて犠牲フライになるリスクもある。
ここは真ん中低目にフォークを落として、
内野ゴロを打たせるか三振に仕留めたい。
今の高めの一球が目に焼きついたはずやから、
低目の球にはそう簡単に対応でけへんやろう。
さあ、もういっちょ勝負球!
そして碇は俺のサインに頷き、第五球目を投げた!
真ん中低目のフォークボール!
が、少し落ちる幅が小さいか?
と、思った次の瞬間。
カキィン。
伝念はその球をすくい上げ、打球はセンターに向かって高々と上がった。
浅いセンターフライ。
これなら俊足の三塁ランナーの珍念でも、
タッチアップでホームに帰るのは難しいか?
と思っていると、打球はなかなか落ちて来ないまま、
センターの扇多先輩が少しずつポジションを下げて行く。
落ちて来ない。
まだ落ちて来ない。
扇多先輩はどんどん下がって行く。
背後にフェンスが近づいて来る。
まだ落ちてこんのか?
どこまで伸びるんや?
まさかそのままスタンドインなんて事はないよな?
おいおいマジか?
とか思いながらハラハラしていると、打球はようやく落ちて来て、
扇多先輩がフェンスギリギリまで下がった所でキャッチ。
そして三塁ランナーの珍念は余裕でホームに生還し、
劉庵寺に勝ち越しの一点が入った。
これでスコアは三対四。
いや、しかしここは、ホームランにされへんかった事を喜ぶべきなんか?
セカンドベース後方への浅いセンターフライやと思った打球が、
まさかフェンスギリギリまで飛ばされるとは。
ホンマに、伝念っちゅうバッターは恐ろしい相手やで。
まぁ、それでも取られたのは一点だけ。
それにさっき一塁ランナーの毛観念も、タッチアップで二塁を狙ったけども、
セカンドの小暮がいい場所に中継に入り、扇多先輩からの送球を、
ベースカバーに入ったキャプテンに返したおかげで、
毛観念を一塁ベースに戻す事に成功した。
小暮には、見えない部分でいつも助けられるで。




