11 相思相愛のウインク
するとそれをくみ取った様子の碇は、
頷く代わりにウインクをする。
これは碇の、
『僕と昌也君は相思相愛で通じ合っているから、
どんなサインでも分かりあえるよ♡』
という意志表示なのやけど、そこまで碇と通じ合いたくない俺は、
ウインクしたあいつの目ん玉をえぐり取ったろうかと、
何度思ったか数えきれない。
それはともかく、さっきと同じワンボールツーストライクというカウントから、
第五球目を碇が投げた!
俺の要求通り、ボール半個分ボールゾーン寄りのストレート!
この辺の繊細なコントロールは、こいつの物凄い剛速球以上に価値のある能力や。
そしてそれが俺のミットにズゴォン!
と物凄い音を立てて突き刺さった!
「ボォール!」
判定はボール。
勢いでストライクを取ってくれてもええような微妙なコースやったけど、
この辺りは今日の主審のおっちゃんはキッチリ判定するみたいや。
そして珍念はこれをしっかり見極めて見逃した。
流石に劉庵寺のトップバッターを務めるだけあって、
相当の選球眼の良さを持っている。
前の三打席で凡退しているとはいえ、
そう簡単には打ち取らせてはくれへんようや。
それなら次に要求するのは低目のカーブ。
この二球で碇の剛速球が目と体に染みついているやろうから、
カーブで完全にタイミングを外せるやろう。
碇もそのサインにウインクをし(普通に頷け!)、
第六球目のカーブを、投げた!
俺の予想通り、珍念はストレートのタイミングでバットを始動させた!
が、カーブと分かり、左足を踏み込んでからバットを咄嗟に止めた!
そして上半身を完全に崩されながもタメ(・・)を作り、
バットの先をボールの上っ面に当てた!
コツン。
何ちゅうバットコントロールや!
完全にタイミングを外して体勢を崩したのに、
それでもバットをボールに当ておった!
けど、その打球はボテボテのサードゴロ!
が、ボテボテ過ぎてサードの山下先輩が追い付かない!
その間に俊足の珍念はあっという間に一塁ベースを駆け抜け、
サードへの内安打となった!
完全に打ち取ったものの、結果的にサードへの内安打になってしもうた。
これはこの回を無得点で切り抜けるのは、相当骨が折れそうやで。




