2 満塁策はとらない
が、
さっきのホームランがやはりショックやったのか、
それからの岩佐先輩はコントロールを乱し、
次の五番ファーストの万念と、
六番祖矢念に連続フォアボールを許し、
続く七番阿歩海に送りバントを決められ、
ワンナウト二・三塁となった所で、
八番ライト本間海を左の打席に迎えた。
これで劉庵寺のスタメンの名前は一通り紹介した訳やけど、
こうなってくると控えには、
『草海菜』とか
『南目遁海』とか
『会々(ええ)下弦丹仙界』とかいう名前の選手が控えていそうやな。
ホンマにどうでもええけど。
まあそれはともかくとして、後半の流れを大きく左右するこの場面。
ワンナウトなのでスクイズも考えられる。
一塁ベースは空いてるから、満塁策を取った方が守り易い局面でもある。
バッターの本間海はさっきの打席では平凡なショートゴロ。
次の難出家念は長打力はないけど、バントはうまいらしい。
マウンド上の岩佐先輩は、チラチラとベンチの遠川監督の様子を見やっている。
それはサインの確認というよりも、無意識のSOSのサインのように見える。
この試合で初めて迎える大ピンチ。
前半が絶好調やったのがいきなりピンチになって、
ここを何とか最少失点で切り抜けんとアカンというプレッシャーで、
相当動揺しているんやろう。
さて、ここで遠川監督はどう守らせるか?
「満塁策ですか?」
俺が遠川監督に尋ねると、遠川監督はキッパリと言った。
「いや、ここは勝負だ」
遠川監督が続けて言うには、ここで仮にスクイズを決められても、
次の難出家念を打ち取れば同点でこの回を切り抜けられる。
そやけど満塁策にして、そこで難出家念にスクイズを決められると、
ツーアウトニ・三塁で、三順目の珍念に打席が回って来る。
同点覚悟でこの回を凌ぐ事を考えるなら、
満塁策よりもここでスクイズを決めさせた方が、
ピンチを広げるリスクが少ないという判断やった。
なので俺は伝令に走り、その事をマウンド上の岩佐先輩にそのまま伝えた。
そしてそれに対する岩佐先輩の反応はこうやった。
「おう、あう、おぉふ・・・・・・」




