1 反撃の一発
初回、四番に座った千田先輩による先制ツーランホームランにより、
二点を先制した俺達張金高校。
その後も先発の岩佐先輩は、
微妙に相手のバットの芯を外すクセ球を操って劉庵寺のバッターを翻弄し、
何と三回までの打者一巡を、
一人のランナーも許さないパーフェクトピッチングで抑えきった。
一方の劉庵寺の先発の難出家念も、毎回ランナーは出すものの、
要所を凌ぎ、その後の追加点は許していない。
そして中盤に入った四回も岩佐先輩は、
二順目に入った劉庵寺の上位打線を三者凡退に抑え、その後の張高の攻撃では、
キャプテンと扇多先輩が連続ヒットでチャンスを作ったものの、
後続が打ち取られて無得点。
スコアは依然二対〇で俺達張金高校のリード。
そんな中迎えた五回表、
劉庵寺の攻撃。左打席に入ったのは、
関西屈指の強打者である四番バッターの伝念。
その実力は、あの大京山でも四番を打てる程だと言われていて、
実際にこの前の春の選抜でも、三試合でホームラン四本、
九打点という脅威的な成績を残している。
最初の打席では外角低めの球をうまく引っかけさせてファーストゴロに打ち取った。
ここでも低目に投球を集め、内野ゴロに打ち取って欲しい所や。
というかこのままの勢いでいけるところまでパーフェクトで抑えて欲しいぞ。
と、かすかな期待を胸に抱いた、その瞬間やった。
ガキィン!
鉄パイプで、巨大な鉄球を打ち砕いたようなひずんだ衝撃音が響いた。
そして外角低めに投げ込まれた岩佐先輩のストレートは、物の見事に打ち返され、
その打球がセンターへ向かってグングン伸びて行く。
そしてその打球はセンターを守る扇多先輩の遥か頭上を通過し、
そのままフェンスの向こうにある森の中へと消えて行った。
打球の方向は初回に放った千田先輩とほぼ同じ。
けど、打球の飛距離はそれよりもはるかに遠くまで飛んでいた。
あの飛距離なら、甲子園のバックスクリーンの上にある、
電光掲示板まで届くんやないやろうか。
「す、凄い・・・・・・」
「流石は関西屈指のスラッガーやな・・・・・・」
悠然とダイヤモンドを一周する伝念を眺めながら、
伊予美と鹿島さんが思わず声を漏らす。
確かに今の一球は、岩佐先輩にとって全く失投ではなかった。
むしろ外角低めの一番ホームランになりにくいコースにしっかり投げ込んだにも関わらず、
それを完璧にホームランにされた。
そのショックは小さくはないやろう。
けど、どんだけ遠くまで飛ばされようが、
ソロホームランはただの一点だけ。
スコアはウチが勝ってるんや。
このまま後続を打ち取って、次の攻撃につなげて欲しい所や。




