17 本当の勝者は伊予美ちゃん
とまあ、そんなこんなで、結局小暮は服を買わず、
碇はあのワンピースを買うと言い張ったが、俺がそれを断固として阻止し、
それぞれ元の格好でお店を出た。
うん、これでよかったんや。
そうシミジミ思いながら、
前を歩く小暮と碇と宗太の三人をぼんやり眺めていると、
隣を歩く伊予美が、いたずらっぽい笑みを浮かべながら声をかけてきた。
「ねぇ、昌也君はさっきの双菜ちゃんと松山君やったら、どっちの方がタイプ?」
「でぇえっ⁉そ、そんなん俺は、どっちもタイプと違うって!」
「ホンマにぃ?双菜ちゃん、すっごい可愛くなかった?
普段ボーイッシュから、あんなに女の子っぽくなったら、
ギャップでキュンとけぇへん?ウチはすっごいキュンときたよ?」
「そ、そりゃまぁ、可愛いとは思ったよ?
普段、学校で女子の制服を着ているあいつに、
野球部の先輩達もメロメロになったくらいやからね?
だから器量の上では、小暮はちゃんと女の子らしい部分も持ってるとは思うよ。
ただ、中身がなぁ・・・・・・」
「そう?中身も可愛い女の子やと思うけどなぁ。
じゃあ、松山君はどうやった?
ウチ、松山君は綺麗な顔立ちやから、
女の子の服を着ても十分似合うと思うたけど、
まさかあそこまで完璧な女の子に変身するとは思わへんかった。
昌也君もドキッとしたやろ?」
「ないないない!ドキッとなんかする訳ないやんか!
あいつは正真正銘の男やで⁉
何回も言うけど、俺はそういう趣味はないから!」
「そうなん?あんなに可愛かった双菜ちゃんや松山君でもアカンやなんて、
昌也君はえらい理想が高いんやなぁ」
「そ、そんな事ないって!そんな事はないんや、ただ・・・・・・」
「ただ?」
言葉を途切れさせた俺の顔を覗き込み、伊予美は先の言葉をうながしてくる。
そやけどここで
『俺の理想の女の子は、伊予美ちゃんなんや!』
と言う事もできんので、それをごまかすように俺は声を上げた。
「今は甲子園に行く事が目標やから、野球の練習に打ち込みたいんや。
だから恋愛とかそういう事には、正直あんまり興味がないねん」
嘘ですけどね。
むしろそういう事の為に甲子園を目指してるんですけどね。
しかし伊予美は俺の言葉を素直に信じたらしく、シミジミ頷きながら言った。
「そっかぁ。うん、昌也君はやっぱり、
野球に打ち込んでる時が一番カッコいいもんね!もちろん宗太君も!」
宗太は余計やわ!
あいつは伊予美ちゃんの心の中から消し去って!
・・・・・・はぁ、どっちにしても、伊予美に振り向いてもらうには、
宗太の奴を野球でボコボコに打ち負かさんとアカンみたいや。
うぉおおお、そう思うたら、今すぐにでも野球の練習をしたくなってきた。
俺達が甲子園を目指せる期間は限られている。
もはや一日たりとて無駄にはできんのや。
よし、今から碇と小暮をグランドに連れて行って練習するぞ!
 




