15 碇やないかい!
「それじゃあそろそろ松山君もお着替え終わったかな?
松山君、カーテン開けてもいい?」
すると中から碇の奴が弾むような声で
「うん、いいよ♪」と返したので、伊予美は
「それじゃあ開けるね」と言い、
右側の試着室のカーテンをゆっくりと開けた。
するとそこから、伊予美がコーディネートした服装に着替えた碇が現れた。
そしてそれを目の当たりにした宗太と俺は、
「お、おぅぁ?」
「あ、あぉぇ?」
と、驚きとも、感嘆とも、嫌悪とも言えない、
本当に、何とも言えない声を上げた。
目の前に、純白の、キャミソールのワンピースを身にまとった、
ショートカットの女の子が立っていた。
その女の子は目を閉じてうつむき、静かにそこに佇んでいる。
その姿ははかなげで、清らかで、可憐で、たおやかやった。
指一本でも触れようものなら、雪のように溶けて消え去ってしまいそうな、
その、
彼女の、
名前は・・・・・・。
碇やないかい!
うぉおおおいっ⁉
どういう事やねん⁉
え⁉マジか⁉
これ、碇⁉
どぅえええええええっ⁉
俺は、目の前に現れた、
この、清楚な女の子としか、表現のしようがない、
姿に、なり果てた、碇に、
目を、ひんむいて、茫然と、立ち尽くした。
え、何コレ?
碇の奴、何で手足があんなに細くてスラッとしてんの?
(ムダ毛も一本もないし!)
あの腕でどうやってあの化け物みたいなストレートが投げられるんや?
しかもむき出しの肩もなよやかで、全然ゴツゴツしてなくて、
ホンマに女の子みたいやないか?
確かに顔つきは元々女っぽくはあったけど、
この格好をする事で、完全な女の子になってしもうとる。
その完成度は小暮をはるかにしのぎ、キングオブ女の子
(女の子なのに女王でなく王様であるとはこれいかに)
である伊予美に勝っても劣っていなかった。
いや、むしろ、伊予美よりも女の子らしい?
まあ、とにかく、それくらい、
目の前に現れた碇は、完成された女の子に変身していた。
ちなみにそれを、目の前でまざまざと見せつけられた小暮は、
口から魂が漏れ出そうになっていた。
おそらく、男である碇が、自分よりも女の子らしく変身してしまった事に、
これまでに感じた事のないような敗北感を感じ、
やっぱり自分は女装した男に負ける程に、女の子らしくないんだと、
自己嫌悪に陥っているのやろう。
そやけど安心せい小暮よ。
お前はお前でちゃんと可愛い女の子になれとるで。
ただ、碇があまりに完璧な女の子に変身してしまっただけなのや。
ただ、それだけなのや。
店の中に、何とも言いようのない、沈黙の時が流れた。
そんな中、最初に口を開いたのは宗太やった。
宗太は、俺の腕を肘で小突きながら、声を潜めて言った。
「おい、あいつは、松山は、小暮と一緒で、実は、女、だったのか?」
「いや、それは・・・・・・」




