11 見てるだけでは分からない
「おい、荒藤とか言ったな。
お前、さっきから何ジロジロと俺を見てんだよ?
もしかして正野から、俺が女だって聞いてバカにしてやがんのか?
女の俺が男に交じって野球をやってるなんて生意気だって言いたいのかよ?
あぁん?それなら拳で決着を付けてやろうか?今から河原までツラ貸せオラ」
その、女らしさのカケラもないモノ言いに、宗太は思わずこう問い返す。
「いや、別に女だからってバカにする訳じゃねぇけど、
お前、本当に、女、なのか?」
そして小暮の傍らを歩く伊予美と見比べていると、
小暮は今にも宗太に殴りかかりそうな勢いで声を荒げた。
「女だよ!見りゃ分かるだろうが!」
いや、分からんやろ。
とは、言わずにおいた。
すると先頭を歩いていた伊予美が足を止め、弾んだ声で口を開いた。
「さあ、着いたよ♪」
伊予美の言葉に俺達も立ち止まって顔を上げると、
そこに一軒の服屋があった。
ショウウインドウにはフリルがふんだんにあしらわれたブラウスや、
チェック模様のオシャレなワンピース、
花柄のロングスカート等、
かわいい服がズラッと並んでいる。
そう言えば伊予美は昨日、
碇の奴に女の子の服をコーディネートしてあげるとか言うてたよな?
あれって本気やったんか?
いやいや冗談やろ?
と思ったが、どうやら伊予美は本気の本気らしく、
碇を手招きしながら言った。
「さぁ松山君、今からウチが、
昌也君のハートを射止めるような可愛い女の子になれるよう、
松山君をコーディネートしてあげるからね」
その言葉に宗太は、小暮が女だと知った時よりも目を白黒させたが、
そんな宗太には目もくれず、碇は俺にウインクをひとつしてこう言った。
「待っててね昌也君♡
僕、昌也君に愛してもらえるような、
可愛い女の子になって見せるからね♡」
もし、碇にピッチャーとしての人並外れた才能が無く、
なお且つこの国に殺人罪がなければ、
俺は迷わずこの場で碇を殺していたかもしれない。
そやけどもう、色々と、ツッコむのも疲れたし、
どうでもよくなってきた。
もう、好きにしてください。




