10 碇が絡むと本当に話がややこしくなる説
「そうだよ、あの二人は恋人同士なんだ。
何故なら小暮双菜ちゃんは、実は女の子だからね!」
「なっ⁉小暮は女⁉で、伊予美ちゃんと恋人同士?え?」
碇の言葉に目を白黒させる宗太。
小暮が実は女という事実だけでも驚きやのに、
その上で伊予美と恋人同士と言われ、
ダブルでパニックになっているのやろう。
繰り返し言うけど、碇は、ホモや。
そしてこいつは恋愛感情は同性同士でないと成立しないと思っていて、
男は男同士、そして女は女同士でないと恋に落ちないと本気で考えている。
だから伊予美と小暮が仲がいいのはお互いに恋愛感情を抱いているからであり、
いずれは俺もホモに目覚めて碇と結ばれると、
こいつは思っているのやろうけど、どっちもそんな訳はないので、
俺は碇のドタマにゲンコツを一発お見舞いして宗太に弁解した。
「落ち着け宗太。碇が言うた事は半分ホンマで半分間違いや。
つまり恋人同士と言うのは間違いで、小暮が女と言うのはホンマ。
女同士やから、伊予美ちゃんとあれだけ仲がええんや」
「そ、そう、なのか?小暮は、女・・・・・・。
た、確かに言われてみれば、体つきがやたら細いもんな。
それに、あれだけ目の前で伊予美ちゃんとベタベタしているのに、
お前が全く動じない所を見ると、やっぱり、小暮は女って事なのか」
「そういう事や。だからそうカリカリすんな」
俺の言葉にようやく納得した様子の宗太。
そしてさっきとは違う目つきで小暮の背中を眺めながら、シミジミと呟いた。
「あいつ、すげぇな」
「ああ、そうやな」
宗太の言葉に、俺もシミジミと頷く。
ちなみに宗太は、極度のナルシストな上に性格も死ぬほど悪いので、
他人をほめたり、尊敬の念を抱いたりする事はまずない。
そやけど小暮はこの野球の世界で、女でありながら男と同じ土俵で勝負し、
かつ抜きん出た存在感を発揮している。
それは並大抵の努力では成し得ない事や。
それを一瞬で理解したからこそ、宗太は思わずそう呟いたのやろう。
と、そんな事を言い合っていると、
宗太の視線に気づいたらしい小暮が歩くスピードをゆるめ、
宗太をギロリと睨みつけて言った。




