9 穏やかならぬ宗太
という訳で俺達五人は、張金駅から電車に乗り、
数駅行った所にある洒落小津駅で降りた。
ここはオシャレな服屋や雑貨屋、カフェやレストランが並ぶこじゃれた街で、
難波や新世界みたいにガヤガヤしておらず、
大人な雰囲気のデートスポットとして、
関西ウォーキンガーという雑誌にもたびたび紹介されていた。
ああ、ここに余計な三人(言うまでもなく、碇、宗太、小暮の三人)
さえ居なければ、今頃は伊予美と二人で、
ウキウキなデートを楽しめているのに・・・・・・。
とシミジミ思いながら、
少し前を楽しそうにおしゃべりしながら歩く伊予美と小暮の姿を眺めていると、
宗太の奴が何やら穏やかでない表情で声を潜め、俺に話しかけて来た。
「おい」
「何や?」
俺が気のない声で返すと、宗太は小暮の背中に視線を突き刺しながらこう続ける。
「小暮の奴、やけに伊予美ちゃんになれなれしくないか?
あんなに親しげにしゃべって、おまけに距離も近いし」
確かに、伊予美と小暮は全く性格が違うが、とても仲がいい。
クラスも同じやし、伊予美が野球部のマネージャーになってからは、
ますます仲良くなっているように思える。
練習の時以外は大体いつも一緒に居るし、冗談を言い合ったり、
じゃれ合ったりしている。
女の子らしい女の子の日本代表のような伊予美は、
ボーイッシュでカッコいい小暮に魅かれ、
その小暮は、逆に伊予美の女の子らしさに憧れているのやろう。
まあ、小暮はどれだけ男っぽくて、女子にもやたらモテるとは言っても、
生物学的には『女』なので、
どれだけ伊予美とイチャイチャベタベタ仲良くしようが、
俺は何とも思わない。
が、小暮の事を男やろうと思い込んでいる宗太は、
目の前で伊予美と小暮がまるで恋人同士のように仲良く接している様を見て、
それはそれは内心穏やかではないのやろう。
今にも小暮に背後から殴りかかりそうな勢いや。
なので俺はそんな宗太をなだめるように言った。
「確かにあの二人は仲がええけど、別に恋人同士っていう訳やないんや。
だからそうカリカリすんなや」
しかし宗太は更にカリカリしながらこう返す。
「そうは言うけど、あれはどう見ても恋人同士の距離感だろうが?
喋る時やけに顔が近いし、ちょいちょいお互いの体にタッチとかしてるし。
まさか伊予美ちゃんは、小暮と付き合ってるのか?」
違う、あれは女の子同士のスキンシップや。
もうそろそろ本当の事を言わんと、
宗太の奴はホンマに小暮に突っかかって行きそうなので、
俺は小暮が実は女である事を宗太に告げようとした。
と、そこに、背後を歩いていた碇が、俺と宗太の間に体を割りこませて来た。
そして試合の時よりも鋭い目つきで宗太を睨みながらこう言った。




