8 宗太と小暮の再会
そう思いながらげんなりうなだれていると、
俺の傍らに立った小暮が、無機質な声でこう言った。
「相変わらずお前はモテモテだな、男に」
「嬉しくない。それは全く嬉しくない事やで」
と、俺が無機質な声で返していると、
その小暮に気付いた宗太が、目を丸くして声を上げた。
「あれ?お前はもしかして小暮か?確か、尖志川中学の」
そう、俺と宗太は中学時代、
全国大会で小暮の所属していた京都の尖志川中学と準々決勝で対決し、
そして敗れた。
あの試合では小暮に痛い目にあわされているので、
宗太もよく覚えているのやろう。
それに対して小暮は、至って素っ気ない口調でこう返す。
「ああ、そうだよ。
そういうあんたは皇賀第二のエースピッチャーだった人だな?
確か、正野とバッテリーを組んでいたんだよな」
小暮の言葉に碇が横から
「今バッテリーを組んでいるのは僕だけどね!」
と口を挟んで来たが、宗太をそれを無視してこう続ける。
「そうだ。っていうか何でお前がこの場に居るんだよ?
お前は京都の名門野球部に入ったんじゃねぇのかよ?」
すると伊予美が、小暮の肩に両手を置いて答える。
「今はね、我が張金高校野球部に入ってくれて、
一緒に甲子園を目指す仲間なんやで?」
「何ぃっ⁉何で中学で日本一になったチームでレギュラーを張っていたお前が、
こんな府大会の一回戦も突破できないような弱小チームに入ったんだよ⁉
お前なら玉龍館とか、京都麗明大付属とか、
いくらでも行く所があっただろう?」
宗太が目をひんむいて驚きの声を上げると、
小暮は気まずそうに宗太から目をそらしながら黙り込んだ。
まさか女の子である自分が野球をやる事で男らしくなり過ぎてしまい、
片想いの男にフラれた事がショックで野球を辞め、
もっと女の子らしくなる事を決意したものの、
大して女の子らしくもなれそうにないので結局また野球部に復帰したとは、
とても言えんのやろう。
(小暮が張高野球部に入ってくれた本当の理由は、
実は俺もよく分からんのやけど)
それに宗太は小暮が男やと思っているはずなので、
そこから説明しようとすると、また色々とメンドクサイ。
なので俺が間に入ってサラッとこう言った。
「まあ、こいつはこいつで色々あったんや。
おかげでウチのチームに中学日本一のセカンドが入ってくれたんやから、
細かい事は気にするな」
それを聞いた宗太は、小暮と碇を交互に見やり、シミジミと呟く。
「全国優勝のセカンドに、準優勝のピッチャーか。
確かに、これ以上ない新戦力だな。
少なくとも、一回戦でいきなり負けるなんて事にはならねぇか。
ま、一回戦からウチと当たりゃあ話は別だが」
「ハンッ!もし一回戦から当たれば。夏春連覇の大京山に、
府大会一回戦負けという屈辱を味わわせたるわい!」
俺がそう言って宗太を睨みつけると、宗太も負けじと睨み返してくる。
そうしてお互い視線の火花を散らしていると、
その火花をやんわり吹き消すように、伊予美がほんわかした物腰で口をはさんだ。
「それじゃあ皆揃った事やし、そろそろ行こっか♪」
その声にすっかり毒気を抜かれた俺と宗太は、その言葉にあっさり頷いた。
さて、クセの強い奴らが揃ったこのお出かけ、一体どうなる事やら?




