6 何故こいつが来ているのか
そして翌朝、俺は近所の公園に来ていた。
ここでまず伊予美と待ち合わせをし、その後碇や小暮と合流する予定なのや。
で、伊予美は時間通りに公園に現れた。
今日は淡い黄緑色のブラウスに、白のハーフパンツという服装。
一言で言うと、可愛い。
二言で言うと、メチャメチャ可愛い。
ああ、このまま二人でデートできたらどれだけ幸せか・・・・・・。
まあ、それでも碇や小暮と合流するまでは二人きりなのやから、
せめてこの少ない時間を大事にしよう!
と、俺は思うとった。
が、この場には俺と伊予美の他に、もう一人の人物が来ていた。
そう、宗太が。
「何でお前がここに居んねん⁉」
俺は怒りの声を上げたが、宗太は事もなげにこう返す。
「近所のコンビニに向かっていたら、
たまたま伊予美ちゃんを見かけたから来たんだよ」
ウソつけやこいつ!
お前の家の近所のコンビニはここらにはないやろ!
昨日の俺の話を聞いて、ずうずうしくもやって来おったんやな!
なので俺はビシッと宗太を指差して声を荒げる。
「お前は今日練習があるやろうが⁉
こんな所で油売ってるヒマはないやろ⁉さっさと練習に行けや!」
それに対する宗太のコメントはこうやった。
「偶然にも、今日はウチの学校も練習が休みなんだよ」
ぜっっっっったいにウソや。
盆と正月合わせて合計一週間も休みがない事で有名な大京山野球部が、
こんな何の行事ごともない土曜日に練習を休みにする訳がないやろうが。
そこまでして伊予美と一緒にお出かけがしたいんか!
そんな事を思いながらハラワタを煮えくり返らせていると、
宗太の邪悪な嘘を疑う事を知らない清らかな心の持ち主である伊予美は、
さも嬉しそうな様子でこう仰る。
「ねぇ、宗太君、よかったら今日、ウチらと一緒にお出かけせぇへん?
他に張高野球部の一年生が二人来るんやけど、宗太君が嫌じゃなければ・・・・・・」
それに対して宗太は、俺の方をチラリと見やってこう返す。
「そうだなぁ、今日は一日特に予定もないし、
伊予美ちゃんのお誘いに乗るのも悪くないかな」
するとそれを聞いた伊予美は無邪気に喜びの声を上げた。
「わぁい!またこの三人で遊べるなんて夢みたい!
今日は一日楽しもうね!」
その言葉に俺と宗太は笑顔で頷いたが、
心の中では全く同じ事を考えているやろう。
こいつさえ居なければ・・・・・・。
なので俺は伊予美から少し離れた場所に宗太を連れて行き、
宗太の奴に釘を刺すべくこう言った。
「おい、分かってると思うけど、
途中で二人でバックレて抜け駆けしようなんて思うなよ?
そんな事したらすぐに大二郎さんに報告するからな?」
それに対して宗太は、ふてぶてしい態度でこう返す。
「それはこっちのセリフだ。
昨日も言ったが、俺達を置いてけぼりにして、
伊予美ちゃんと二人で抜け出そうなんて考えない事だな。
まぁ、お前にそんな事をする度胸はないだろうけどな」
「何やと⁉それはお前の方やろうが!」
「何だと⁉もうイッペン言ってみろ!」
「ナンベンでも言うたるわい!」
「ぬぉおおおっ!」
「ふぬぁああっ!」
そう言って睨みあう俺と宗太。
何か、我ながらいつもいつも行動に進歩がない気もするけど、
コイツの顔を見るととにかく腹が立ってくるのやから仕方がない。
伊予美という存在がある以上、コイツと仲良くなる事は一生ないやろう。
すると、そんな俺達の後姿を見た伊予美が、次に言った言葉はこれやった。
「相変わらず二人は仲がええなぁ」
伊予美は何を以て俺と宗太の仲がええと解釈するのやろう?
俺と碇の関係といい、伊予美は人間関係の見方が、
他とはちょっとズレているのと違うやろうか?
まぁ、そこも含めて好きなのやけど・・・・・・。




