4 伊予美のトリッキーな提案
そして伊予美は遠慮がちに、しかしハッキリした口調で碇に言った。
「それなら松山君が女の子らしい格好をすれば、
昌也君も喜んでくれるんと違うかな?」
「何でそうなるのん⁉」
俺はノドが潰れるかと思うくらいに叫んだが、
それを上回る声のでかさで碇は叫んだ。
「なるほど!そういう事だったんだね昌也君!
昌也君は女の子らしい格好をした男の子が好きだったんだね!」
「違うわバカタレ!益々話をややこしゅうするでない!」
俺は必死にそう訴えるが、伊予美は俺に
『大丈夫♪ウチに任しといて』というオーラでウインクをする。
いや、全然大丈夫やあれへんがな。
伊予美は、俺と碇と宗太が三角関係になっていて、
俺が碇と宗太のどちらを選ぶか決めかねていると勘違いしている。
俺の本命の相手である伊予美にそんな勘違いをされるなんて、
前途多難にもほどがあるわ・・・・・・。
と、心の中でガックリうなだれていると、
そんな俺の気持ちなど全く知らない伊予美は、声をはずませながらこう続けた。
「それなら明日、ウチと松山君と昌也君で、お買い物に行こっか。
ウチが松山君のコーディネートをしてあげる♪」
またとんでもない事を言い出したでこの子は。
いや、でもちょっと待てよ?
状況はどうあれ、
これは明日の休みに伊予美とお出かけできるチャンスとちゃうんか?
三人で出かけるように装って、
途中で碇の奴を何処ぞに置いてけぼりにしてはぐれたようにすれば、
伊予美と二人っきりになれる!
これはいい考えや!
と、我ながら腹黒い事を考えていると、
伊予美は小暮の方にも振り向いて声をかけた。
「ね、双菜ちゃん、よかったら双菜ちゃんも明日、
ウチらと一緒にお出かけせぇへん?
双菜ちゃんに似あう可愛い服買いに行こ?」
何やて?小暮の奴も誘うんか?
それやと俺と伊予美が二人っきりになるのが難しくなってしまうやないか。
とか意地の悪い事を考えていると、小暮は右手をヒラヒラさせながらこう返す。
「えぇ?俺はいいよ。可愛い服なんて、どうせ似あう訳ねぇし」
「そんな事ないって。双菜ちゃんは美人でスタイルもえんやから、
きっと色んな可愛い服が似合うと思うよ?」
小暮が女の子らしい可愛い服装。
うーむ、全く想像できん。
と思いながら小暮の事を眺めていると、
そんな俺の心の中を見透かしたように、小暮は俺の事をギロリと睨んで言った。
「おい、さっきから何ジロジロ見てんだよ?
どうせ俺なんかに可愛い服が似合う訳ねぇって馬鹿にしてんだろ?」
「え?いや、そんな事はないで?
ただ、ちょっと想像しにくいなぁって思っただけで」
俺が下手な愛想笑いを浮かべながらそう言うと、
小暮はガバッと立ち上がって声を荒げる。
「やっぱり馬鹿にしてるじゃねぇか!分かったよ!
俺にだって可愛い服が似合うってところを、お前に見せてやるよ!」
とまぁこんな流れで、俺、伊予美、碇、小暮の一年生四人組は、
急に休みになった明日の土曜日に、一緒に出かける事になった。
俺としては伊予美と二人きりで出かけたかったのやけど、
そう何でも俺の都合のええようにはいかんか。
さて、明日はどうなる事やら。




