3 碇と初夜
何故なら、布団の傍らに立っていたのは伊予美ではなく、
俺が張金高校でバッテリーを組んでいた、ピッチャーの松山碇やったからや。
こいつは男で、しかも、ホモで、更に、俺に、惚れている。
その碇を前に、俺は目ん玉が本当に飛び出しそうになりながら叫んだ。
「何でお前がここに居るんじゃいぃいいいいっ⁉」
しかも碇は浴衣姿で、お風呂上がりの為か、シャンプーのいい香りがする。
これは伊予美の香りやなかったんかい!
男の発する匂いで、何をドキドキしとったんや俺は⁉
それに対して碇は湯上りの為か、それとも別の理由でかは知らんけど、
頬を赤らめながら言った。
「昌也君♡お待たせ♡」
「待っとらんわバカタレ!」
俺は〇・二秒と間を置かずにそう返したが、
碇は全くひるむ様子もなくこう続ける。
「昌也君、照れてるんだね?」
「ちゃうわい!っていうか何でお前がここに居んねん⁉
俺は伊予美ちゃんと新婚旅行に来たんやぞ⁉」
「え?違うよ。昌也君は僕と結婚して、こうして新婚旅行に来たんじゃないか」
「何でやねん⁉俺はお前と結婚なんかしとらんわ!」
「だけど昌也君は甲子園での決勝戦の前、優勝する事ができたら、
僕の願いをどんな事でもひとつ叶えてくれるって言ったじゃないか!
だから僕はあの決勝戦で時速二百五十キロのストレートを駆使して、
全てのバッターを見逃し三振に仕留めて、
張高を甲子園優勝に導いたんじゃないか!」
「時速二百五十キロってお前バケモンか⁉
しかも俺もよくそんな剛速球をキャッチできたな!」
「そして優勝を決めてマウンドで僕は昌也君にプロポーズをして、
昌也君は快くOKしてくれたじゃないか!」
「えぇ?そうやったかなぁ?
あの時はテンションが上がり過ぎて、よく覚えてないんやけど・・・・・・」
「今更覚えてないなんて通らないよ!
さあ!今から結婚初夜をドップリ楽しもう!今夜は寝かせないよ!」
「いやいやいや!ちょっと待て!落ち着け碇!」
目を血走らせて迫りくる碇に、俺は必死に訴える。
と、その時やった。
「ちょっと待ったコォオオオオオオルッ!」