8 大京山のキャッチャー事情
「それが、そううまくも行きそうにねぇんだよ」
「何でやねん?お前の性格が悪すぎて、
監督にもチームメイトにも嫌われてるからか?」
「違ぇよ!ウチは完全実力主義だから、
一年だろうが監督に嫌われていようが、実力のある選手ならレギュラーになれる。
だけど、こう言っちゃ何なんだが、今の大京山は、
その、キャッチャーが、弱いんだよ」
「キャッチャーが?そう言えば、
この前大京山のキャプテンが来た時も、そんな事を言うてたなぁ」
「そうだ。今の正捕手は捕内さんという人なんだが、
この人は、あまり言いたくないんだが、キャッチングが下手で、
肩が弱くて、リードが悪い。
そして何より、テレビゲームのソフトを貸すと、全然返してくれないんだ」
「確かにゲームソフトの件もこの前キャプテンが言うてたけども!
それは野球と関係ないやろ⁉」
「先月捕内さんに、『ロー○ランナー』と『ポー○ピア連続殺人事件』を貸したんだが、
『そのうち返すって』を繰り返すばかりで、全然返してくれねぇんだよ」
「何でファミコンのソフトを貸しとんねん⁉機種が古いねん!」
「おかげでチーム内は、
捕内さんにゲームソフトを返してもらえない部員があふれ、
険悪な雰囲気になっている」
「そんな奴にゲームソフトを貸すなや!
っていうかメチャメチャどうでもええわ!
それより野球の話をせぇや!
そもそもキャッチャーとしてもそんな大した事ない人が、
よくレギュラーやってられるなぁ?
他にまともなキャッチャーは居らんのかえ?」
「他にキャッチャーは二人居るんだが、
キャッチャーとしての実力はどっちも似たり寄ったりだ。
おまけに一人はいつもキャッチャーマスクと間違えてひょっとこのお面をかぶるし、
もう一人はキャッチャーのプロテクターと間違えて、
金太郎の前掛けを体に着けて試合に出ようとするんだよ」
「そんな奴ら今すぐ退部させろや!絶対真面目に野球やるつもりないから!」
「そんな訳で、今の大京山はキャッチャーが弱点なんだ。
だから、例え腹黒くて、顔も悪くて、頭も悪いが、
キャッチャーとしての実力は、
ウチのキャッチャー達よりはほんの少しばかりマシなお前に、
大京山に入ってもらえねぇかと思ったんだよ。
どうだ?今からでも考え直す気はないか?」
「ないわ!何でスカウトする相手に対して悪口ばっかり並べ立てとんねん⁉
そんな事言われて『それなら行くわ!』って気分良く言うと思うんか⁉」
「ブラッ○サンダーおごってやるから」
「いらんわ!一個三十円程度のチョコレート菓子で釣ろうとすんな!
そんなモン自分で買うわ!
というかそもそも大京山には行かんって前から言うとるやろがい!」
「フン、お前がそう言うから、
今のチームに俺のボールをちゃんと捕れるキャッチャーは居ないんだよ。
おかげで俺は実力の半分も出せねぇまま、一人で黙々と練習するしかねぇんだ。
どんなに凄い魔球を投げようが、
それをちゃんと捕れるキャッチャーが居なきゃ、
ピッチャーは成り立たねぇからな」
「そ、そうか。強豪チームとはいえ、お前はお前で大変なんやなぁ」




