9 遠川監督から見た下積先生の印象
「下積先生の様子がおかしい?」
その日の放課後、練習を終えて後片付けをしながら、
今朝の下積先生の様子を遠川監督に話すと、
遠川監督は眉を潜めてそう言った。
ちなみにその下積先生は放課後の練習にも顔を出していない。
遠川監督は体育教師としても張高で働いているので、
もしかしたら今朝の緊急の職員会議の話を、
下積先生から聞いているかと思ったのやけど、
この反応を見ると、遠川監督もまだ何も知らんのやろうか?
とりあえず俺は頷きながらこう続ける。
「はい、今朝開かれた緊急の職員会議で色々とあったみたいなんですけど、
遠川監督は下積先生から何か聞いてないですか?」
すると遠川監督は予想通り首を横に振りながらこう返す。
「いや、聞いてないな。今日は下積先生と顔を合わせる機会もなかったからな」
遠川監督はそう言うと、腕組みをしてしばらく考え込み、
何か思いあたるフシがあるように口を開いた。
「しかし、今日に限らず、
下積先生は以前から不自然な行動が見受けられたのは確かだな。
私と話をする時、常に目が泳いでいるし、いつもそわそわして、
シャチ(・・・)こばった(・・・・)雰囲気なんだ。
これはもしや、私の家がああ(・・)いう(・・)家柄だから、
下積先生は私の事を怖がっているんだろうか?」
「あぁ・・・・・・」
それは恐らく下積先生が遠川監督に、
ゾッコン片想い中だからですよとよっぽど言ってあげたかったが、
それをノドチンコの所でギリギリ飲みこみ、俺は代わりにこう言った。
「そんな事はないと思いますけど、練習中の遠川監督は、
ちょっと近寄りがたいオーラが出ているので、
気の優しい下積先生なんかは、どうしても気後れしちゃうんじゃないですか?」
「そ、そうなのか。もしそうなら、私も気をつけなければならないな。
下積先生は教師としての先輩だから、
教師の心構え等、色々と教えて欲しいのだが・・・・・・」
教師としての先輩、か。
遠川監督にとって、下積先生はそういう存在なんやな。
まあ、そりゃそうか。
でも決して嫌われている訳ではないし、
これからいくらでもチャンスはあるやろう、多分。
いい機会なので、俺は遠川監督に聞いてみた。




