7 小暮がされたいプロポーズとは
「おい、どういうつもりやねん?」
朝練を終えてユニフォーム姿のまま張金高校に向かう途中、
先を歩く先輩達から少し遅れて歩きながら、俺は小声で小暮に声をかけた。
どういうつもりやとは他でもない、
さっき俺が伊予美にプロポーズをするチャンスを見事に潰してくれた事に関して、
どういうつもりでそう言うたのかを小暮に問いただしておきたかったのや。
それに対して小暮は、しらばっくれているのか、
それとも本当に心当たりがないのかよく分からないような様子で、
ぶっきらぼうにこう返す。
「あ?何がだよ?」
こいつは生物学的には女で、
本人ももっと女の子らしくなりたいと願っているみたいやけど、
この口の聞き方からも分かるように、男勝りも甚だしく、
女の子らしくなる様子はダニのフン程もない。
それどころか最近ますます俺への接し方が乱暴と言うか、ゾンザイと言うか、
とにかく男っぽさに磨きがかかってきたように思えて仕方がないのや。
そやけど今はそれは置いといて、本題の事を問いただす事にした。
「さっきの話や。俺達が甲子園に出場できたら、
伊予美ちゃんが手作りケーキを作ってくれるっていう話。
あれは最初、
伊予美ちゃんが俺の(・)お願い(・・・)を何かひとつ聞いてくれるっていう話やったのに、
お前がいきなり割り込んで来て、
『手作りケーキを作って欲しい』なんて言うから、
何か野球部全員に対して、
伊予美ちゃんがご褒美をくれるみたいな話になってしもうたやないか。
ケーキなんか近所の不○家のお店でなんぼでも買えるんや。
そんなモンよりはるかに大切なお願いをしようと思うてたのにやな、
それを邪魔してどうつもりやねんオイコラっちゅう話や」
それに対し、小暮は変わらずぶっきらぼうな口調でこう返す。
「俺の家の近所に、不○家のお店はねぇよ」
「いや、そういう事やなくてやな?
俺が伊予美ちゃんにプロポーズをする一世一代の大チャンスやったのに、
何で邪魔してくれたんやって言うとるんや」
「何が一世一代の大チャンスだよ?
お前はあの時、
『もし甲子園に出場できたら、俺のお嫁さんになってくれ!』
とでも言おうとしてたって言うのか?
それどころか完全にオットセイみたいになってたじゃねぇか。
だから俺が助け舟をだしてやったんだろ?
感謝される覚えはあっても、文句を言われる筋合いはねぇよ」
「ぐ、ぬ、あ、あそこから勇気を振り絞って、
言おうとしてたんやないかい」
「無理だな。万が一あの場で言ったとしても、
そんなオットセイみたいな調子でプロポーズされて、
『じゃあよろしくお願いします』ってなると思うか?
『私はオットセイみたいな人の、飼育員になるつもりはありません』
って言われてフラれるのがオチだぞ?」
「ぐぬぬ・・・・・・じゃあお前はどんな感じでプロポーズをされたら、
『じゃあよろしくお願いします』ってなるんや?」
「へ?」
「『へ?』やあれへんがな。何をデメキンみたいな顔をしとんねん。
お前も一応女の子やろうが。もしプロポーズをされるとしたら、
どんな風に言われたらグッとくるかを聞いてるんや」
俺は割と真面目に聞いたのやけど、
小暮は歩きながら思考が停止してしもうたらしく、
デメキンみたいな顔のままデメキンみたいに黙り込んでしもうた。
そして急に怒り爆発という顔になり、
「う、うるせぇな!そんなの分かんねぇよ!
俺の事はいいだろ!
お前はとにかく甲子園出場を果たす事が先優先だろうが!
現実を考えろ現実を!」
と叫びながら、持っていた野球道具のカバンで思いっきり俺の背中をシバいてきた。
ドッフゥッ!
「いってぇっ⁉」




