6 二人の事は温かく見守る方向で
「あ、あたしは、小白井さんほどこの部の事を深く思っている訳やないで?
た、ただ、ヤマちゃん(鹿島さんはキャプテンの事をそう呼ぶ)が、
どぉ~してもって土下座して頼むから、
しゃあなしにマネージャーを引き受けただけ!」
今日も栗色の髪をポニーテールにしている鹿島さんがそう言うと、
それを聞いたキャプテンがムッとした様子でこう返す。
「誰が土下座なんかするか!俺が頼んだらお前はあっさり引き受けたんやないか!」
全くその通りなんやけど(第四巻参照)、
それに対して鹿島さんも、ムッとした様子で言い返す。
「そ、そんな事ないわ!ヤマちゃんがどうしても言うからやろ!」
「お前もホンマはここでマネージャーをしたかったんやろ⁉」
「そ、そんな事は、あるような、ないような・・・・・・
と、とにかく!マネージャーになったんやからええやろ⁉
何か文句ある⁉」
「まぁまぁ、二人とも落ち着いて」
いつものようにヒートアップするキャプテンと鹿島さんの間に、
いつものように向井先輩が仲裁に入る。
ちなみに鹿島さんはキャプテンに対してツンケンしてるけど、
実はデレデレのメロメロで、
キャプテンの為にこの部のマネージャーになってくれたと言って完全に間違いない。
それは他の部員も監督も分かっているんやけど、
肝心のキャプテンはその事に全く気づいてなくて、
しかも鹿島さんも自分がキャプテンに片想いしている事は、
誰にもバレてないと思っている。
だから俺達はこの二人の事にはあえて何も言わず、
温かく見守っているのやった。
キャプテンは決して女の子に興味がないという訳ではないけど、
とにかく野球一直線という熱いお人なので、
鹿島さんの思いには全くこれっぽっちも気づかへんのやろう。
頑張ってくださいね、鹿島さん。
とまあこんな感じで、
うまい事張高野球部のメンバーを一通り紹介する事はできたけれども、
小暮のせいで、小暮のせいで、
(大事な所なので二回言うときます)
伊予美ちゃんにプロポーズするチャンスを逃してしもうたやないかい!
せっかくここしかないというビッグチャンスやったのに!
という恨みを込めながら小暮の事を睨みつけると、
そんな俺の気持ちを察したのかどうかは知らないが、
小暮のやつは口笛を拭きながら練習の片づけを始めたのやった。




