3 金属バットを両腕で折り曲げる程度の腕力
この人はさっきから、顔は笑顔で俺達の事を誉めてくれてはいるけど、
その裏ではこの試合に負けて、ハラワタが煮えくり返っているんとちゃうんか?
俺達張高の面々も、最初はリラックスした表情で遠川監督の話を聞いとったけど、
遠川監督の持つ金属バットが折り曲げられていくごとに、
その表情は恐怖にひきつり、話の方はほとんど耳に入ってこんようになっていた。
そんな中遠川監督は、
そんな俺達の耳の穴にキリでも突き刺すようなドスの利いた声で言った。
「お前達はこの一カ月、文字通り命懸けの特訓をくぐり抜け、
目を見張るほどの成長を見せた。
そして春の選抜ベスト8の劉庵寺とも、互角の試合をする事ができた。
が、
接戦だろうと大差だろうと、負けは負け。
私達がこれから挑むのは、負けたら終わりの大阪大会だ。
負ければそこで、張高野球部のエンドロールが流れ出す。
スポ根漫画なら、それも爽やかでいいだろう。
だが、私はそれで終わらせたくはない。
このチームで、大阪の頂点に立ってみたい。
世間様は、誰も私達が大阪大会で勝ち上がる等とは思っていないだろう。
だからこそやりがいがあるんだ。
起こしてやろうじゃないか、大阪大会史上最高の大波乱を!」
「そうや!
劉庵寺といい試合ができたからって満足してる場合やないぞお前ら!
俺達の目標は甲子園出場!
そしてついでに張高の廃校の危機も救うんや!皆!やったろうぜ!」
遠川監督の言葉に続き、キャプテンがそう言って声を張り上げると、
俺達張高野球部の面々も拳を突き上げて、
「おっしゃぁっ!」と腹の底から声を張り上げる。
そうや、本当の勝負はこれからや。
このチームで来年も野球を続ける為に、
そして大京山に居る宗太の鼻っ柱をへし折る為、
そして何より、甲子園出場を果たし、伊予美に告白する為に、
俺は甲子園目指してひたすら勝ち続けるで!
そんな中遠川監督は、静かに澄んだ口調になって再び口を開き、
「それからもうひとつ、私がひたすら勝つ事にこだわる理由を、皆に伝えておく」
と言い、一旦間を置いてこう続けた。
「単純に、野球の試合で負ける事が、生きている中で何より我慢ならないんだよ」
確かにそれは、
その折れ曲がった金属バットを見れば十分に伝わります・・・・・・。
本当に、色んな意味で、
俺達張高野球部の負けられない戦いの火ぶたが、
切って落とされようとしていた。
ハリガネベイスボウラーズファイブ! 完




