3 赤ジャージの天使
と言いながら、俺に真っ白なタオルを差し出してくれる、
赤ジャージを着たお下げ髪の女子生徒が一人。
俺の幼なじみで片想いの相手の、小白井伊予美や。
あれは今から六年前の小学四年生の時、
伊予美が言った
『甲子園に出る人って、かっこええなぁ~』
という言葉がキッカケで、俺は野球を始め、甲子園を目指すようになった。
物心ついた頃から想いを寄せている伊予美に、
カッコいいと思ってもらいたい。
そして、伊予美を俺が所属するチームのマネージャーに迎え、
甲子園に出場を果たす事が出来た時に、俺は伊予美に晴れて告白をする。
伊予美は甲子園に出るような男が好きなのやから、
甲子園出場を決めてから告白をすれば、絶対にフラれる事はない!
俺はそう信じ、こうして日々頑張っているんや。
そしてこの前、ついに伊予美をマネージャーに迎える事が出来た。
あとは甲子園目指して一心不乱に練習あるのみや!
よぉし!やるでぇ!
俺が伊予美から受け取ったタオルで顔を拭きながら、
一人で燃え上がっていると、そんな俺に伊予美が、
グランドに舞い降りた妖精のような笑みを浮かべながら言った。
「朝からすっごい気合入ってたね。
毎朝こんなに激しい練習をしてるなんて、ウチ知らんかった」
「遠川監督がウチの監督になってから、
練習内容もグッと内容が濃くなったんや。
おかげで俺らは朝も夕方もヘトヘトになるけど、
その分格段にレベルアップができてる。
それに、鹿島さんと伊予美ちゃんがマネージャーになってくれたから、
俺は、いや、俺達は百人力やで!」
俺は鼻息を荒くしながらそう言ったが、
伊予美は肩をすくめながらこう返す。
「そう、なんかなぁ。
確かに鹿島先輩は元々新聞部で、他の学校のデータとか、
情報分析とかが出来て凄くチームの役に立てるけど、
ウチなんか野球のスコアブックの付け方も分からへんし、
できる事と言えば、ユニフォームやタオルの洗濯とか、
練習の後片付けのお手伝いくらいだけ。
そんなウチが百人力やなんて大袈裟やよ」
「何を言うてるんや!それだけやってくれれば充分百人力やがな!
伊予美ちゃんのサポートのおかげで、
俺は、いや、俺達は甲子園目指して頑張れるんやで!」
「そう?そう言ってもらえると、ウチもやりがいがあるなぁ」
そう言って照れくさそうに笑う伊予美。
うん、その笑顔を間近で見られるだけで、俺にとっては百人力やで。
と、思わず口から出そうになる所を何とか飲みこんでいると、
伊予美は「じゃあ」と言ってこう続けた。




