第6話 通りすがりの老人
「諦めるのはまだ早いぞ少年」
そう言って、俺の前に1人の老人が現れた。
「あなたは誰ですか?」
「ただの通りすがりのジジイじゃよ」
体力の限界を感じながら俺はそう質問した。
俺の問いに、老人はそう答えた。
「少年。今の状況を教えてもらえるかね?それと、アイツと君が戦ってる理由とのぉ。」
「俺が、タルク村から移動してるところにアイツがやって来て、そこからずっと戦ってるんだ。アイツとても強いんだ。昔、故郷の村を焼かれたこともあって戦ったけど、遊ばれてるだけなんだ……」
「それは、災難じゃったな……」
老人と俺はそう会話を交えた。
その後、老人はクロウに目を向けた。
「会話の間待ってくれたこと感謝するぞ。若造。」
「何、気にすることはないぞ爺さん。正直なんであんたがこんなところまで出張ってくるのかはわからんがな」
「お主、ワシのことを知っておるのか?」
「あぁ、知ってるぜ。惑星の1人だろ?」
「それを知られてるとは思わなかったのぉ」
俺はクロウと老人の会話についていかなかった。
「さて、会話するだけではつまらんだろ爺さん?剣を構
えろよ」
「若者は血気盛んなことだのぉ。良いぞ、殺り合おう
か」
老人とクロウはそうやって話した後、面と向かって対峙した。
「先手は譲ってやろう。若いの」
「その言葉後悔すんなよ爺さん」
その言葉を機にクロウと老人の攻防戦が始まった。
「行くぜっ!剣技『斬撃』」
「ほう。魔人の癖に、魔法に頼らず剣技を使ってくるか、剣技『切断』」
クロウの攻撃にを、老人は横に真っ二つに切った。
真っ二つに切られたクロウの攻撃は、俺に当たらず、俺の真横を通り過ぎて、付近の岩に向かって飛んでいき、その岩を切断した。
「中々やるのぉ。若いの」
「そりゃこっちのセリフだ爺さん。人間ごときがこの俺の剣技を弾いてくるなんてな。それも、そこの少年を守りながら俺とやりあえるなんてなぁ」
老人とクロウは互いに称賛し合った。
「さて、次はワシから攻撃しようかのぉ」
「受けてたとう爺さん」
先程称賛していた者同士とは思えないほど、2人の間には、殺意が飛び交っていた。
「剣技『断空』」
「チッ。爺さんまためんどくせぇ技を。剣技『一閃』」
老人が剣を振るうと、その近辺の空間が抉り取られた。
老人はクロウに向かって、その剣を振るった。しかし、
クロウは一度剣を鞘に直して、もう一度引き抜く動作をした。そうすると、抉り取られた空間に向かって、まっすぐ剣が飛んだ。二つの剣はぶつかり合い、甲高い音が鳴った。
「若いの、どうして魔人であるお主が、人間に教えてもらわんと使えん剣技。その中でも習得が難しい剣技を使えてるのか興味深いのぉ」
「ふっ。昔俺にも人間の仲間が居たからな。流派については教えねぇがな」
「そうか。なら次の攻撃はどうやって対処する?
剣技『天殺』」
「爺さんさっきから面倒な技ばっか使ってきやがる。
剣技『流星』」
老人が使った天殺は、その力で付近の空間全てに満遍なく攻撃を飛ばす技だ。剣技は、使用する人間の実力に応じて、技の効果が変動するらしい。
老人が使用した天殺は、元々狭い範囲に少し痛みがある攻撃が飛ぶ程度だった。しかし、老人が使用すると、この天殺は広範囲に一撃振れるだけで、激痛が与えられる剣技へと変貌していた。
あたりの木々はそれによって真っ二つに切れていた。
それに対して流星は、相手の攻撃に対して自分の速度を上げるという、回避に専念している技である。
しかし、クロウが使用すると、その技は相手への反撃にも使用できる凶悪な技へと変わるようだ。
今も、クロウが交わしながら老人に向かって切りかかっていた。
「どの口が言っておる若者。ワシの攻撃を全て躱したうえに、こちらに反撃までしてくるとはのぉ」
「ふっ。そう言いながら俺の攻撃を止めてる爺さんに言われたくねぇな」
老人とクロウの戦いは徐々に激しくなっていった。
「次は俺から攻撃するぜ?『炎舞』」
「ようやく魔法を使ってきたのぉ。こっちは基本的な魔法しか使えんからのぉ。剣技でやらせてもらう。
剣技『舞』」
クロウは、炎を老人に向けて飛ばした。そして、それをうまく操って老人の移動先や、老人の死角から攻撃しようとした。
しかし、老人は一度躱した後、剣技を使用して、炎舞に対抗した。
クロウの攻撃は老人に当たることなく、クロウは疲労していくだけだった。
クロウは、老人にの意識を逸らすために離れて隠れている俺に炎舞を向けて攻撃をした。
……俺、あの老人の足手まといになってる。
「おい若造。今戦ってるのはお主とワシじゃぞ?関係無いものを巻き込むなよ?」
「ハッ。知ったこっちゃねぇな爺さんよぉ」
俺に向けられた炎舞を老人は軽く弾いて、その歳に見合わぬ気迫をクロウに向けた。
それに対して、クロウも老人に対して今までとは違う殺気を飛ばした。
その殺気のぶつかり合いに、周りの草木は揺れ、岩は裂けた。
「では、そろそろ本気で行くぞ?お主も本気を出さないと一瞬で狩られると、思っておくんじゃな」
「そんなもんわかってるぜ爺さん」
クロウがそう言った瞬間、クロウの目の前にいた老人が、一瞬にしてクロウの背後に移動した。
「チッ」
クロウは、その攻撃をギリギリで反応して避けた。
老人は、クロウに向けて更に攻撃をし続けた。
「剣技『基礎連撃』」
老人はそう言って構えをとった。
「初撃『突き』」
「次撃『薙ぎ払い』」
「追撃『振り上げ』」
「終撃『振り下ろし』」
老人は、クロウの付近を動き回って攻撃した。
クロウはその攻撃を躱して回ったが、老人の速度に負け、終撃を首に当てられた。
「粋がんなよ爺さん!!」
中級火属性魔法『火炎連弾』」
「若造。その程度か?」
クロウは体制を立て直して、老人に向けて炎の弾を数十発打った。炎の弾を数十発も打つことは、人間には到底無理な芸当だ。
しかし、老人はその攻撃を全て自身が持ってる剣で弾き飛ばした。
「まだまだ魔王の四天王といっても若いのぉ。まだ本気は出しておらんようじゃが……?」
「ふっ。爺さんも本気を出してねぇだろうが。
つか、俺あんたに俺が四天王だってことも言ってねぇだろが……」
「お主がわしのことを知ってるのと同じで、わしもお主のことを知っておったということじゃ」
クロウは、四天王だったのか……
老人とクロウは再び声を交わしたが、またすぐに、殺気をぶつけ合った。
「やっぱ、まだ魔法には慣れねぇな。
中級火属性魔法『炎剣』
中級氷属性魔法『氷剣』」
そう唱えると、クロウの両手にはそれぞれ燃えてる剣と、冷気を発している剣が現れた。
「二刀流か。それに加えて魔法を使用してくると考えておこうかのぉ。ワシも少しだけ本気で行かせてもらうとするかのぉ」
老人は改めてクロウと対峙して、剣を構えた
「行くぜ爺さんッ!」
クロウのその言葉が聞こえた瞬間、剣と剣がぶつかり合った。
とても長い時間老人とクロウは剣を打ち合った。
剣技を含むその攻防は、観客が居るならば歓声が湧き上がり、剣舞だと言われても過言では無いほど、素晴らしいものだった。
クロウが持ってる真紅色の剣が、老人の首を目掛けて飛ぶと、首と真紅色の剣の間に、老人の剣が入り込んで塞いだ。
また、老人が高速でクロウの後ろに移動して剣を振り下ろすと、クロウは紺碧色の剣でそれを捌いた。
クロウは、己が持ってる剣でどれだけ叩いても、己の魔法をどれだけ打ち込んでも、ダメージを負わない老人に、少しの苛立ちと高揚感を覚えた。
「若造。そこまで本気を出したく無いのか?」
「あ?これでも全力でやってんだけど?」
「それは嘘じゃろ?お主のレベルなら、既にスキルが解放されているはずじゃが?それを使用してないのが気になる。
その上さっきから使ってる魔法が中級までじゃぞ?」
「よく見てんじゃねぇか爺さん。俺は手の内を見せたく無い主義なんだわ」
「そうかそうか。じゃあ、一回死を体験すると手の内を見せてくれるんじゃろな?」
老人はそう言うと、剣を鞘に収納した。
「行くぞ若者。固有剣技『流星群』」
老人のその言葉とともに、クロウに向かって様々な方向から、刺突が飛んだ。
もともとは、相手の攻撃を連続で交わす『流星』の強化で、回避の速度と回避する距離が多少異なる技だが、それを攻撃の技にできる老人は、本当の化け物なんだろうなと俺は思った。
クロウは、老人の攻撃を弾いたり、躱したりして、攻撃を避け続けていた。
しかし、途中から攻撃が飛んでくる方向が変わり、翼に一直線に攻撃をするようになった。
クロウは翼を使い飛んで躱し続けたが、弾数が多いその攻撃に翼を潰された。
「チッ」
クロウは舌打ちして、己の翼を休めながら、地面に降り立った。
「ではそろそろ死んでもらおうか。若造」
「させねぇよ。そんなにスキルが御所望なら見せてやるぜ。スキル『魔物操作』」
「ヴァァァァぁ」
老人がクロウを殺そうと近づくと、周りから、魔物の咆哮が聞こえてきた。
「爺さん。悪りぃが俺はここで引かせて貰うぜ。あとは勝手にやってな」
「チッ。若造が。さっき受けた攻撃はわざとだったというわけか。ほっほっほこれはいっぱい食わされたのぉ」
クロウは、翼を一瞬にして回復させて、天高く飛んだ。
「また会おうぜ。少年、爺さん。」
そう言ってクロウは、魔物に俺と老人を突撃するように命令した後、去って行った。
「チッ。逃したのは良いが、あの若造嫌な贈り物を残していきよったのぉ」
老人は急いでボロボロのヴァースのところに向かい、魔物たちを迎え撃った。
その中には、Sランクの魔物もいたが、老人は剣技を使用して、魔物全てを倒し切った。
「大丈夫かね。少年」
「有難う御座います。ご老人」
俺と老人はそう会話をした後、他愛もない会話をして、汚れた体や服を洗うために水場を目指して歩いた。
……このご老人、凄く強いんだな。俺が手も足も出なかった、あの魔人をボコボコにするなんて……
ヴァースはそう考えて、一つのことを決心した。
「ご老人。よろしければ、俺の師匠になってくれませんか?」
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