閑話 動き出す影たち(side:???)
ヴァースがネイスト村を出たあたりまで、時は遡る。
ある森に建っている建物の中に、1人の大男が居た。
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「今から、定時報告を始める」
森に建っている建物の人間がそう言った瞬間。
あたりに、実態のない9つの影が現れた。
「準備は出来てるな?」
「大丈夫」
「ワシも大丈夫じゃ」
「俺も問題ねぇぜ」
「僕もいいよ」
「吾輩も問題はない」
「いけます」
「俺も」
「私も」
「こっちも問題無いですよ!」
1人の大男の言葉に、それぞれ答えが返ってきた。
「では、始める」
その言葉をもとに会議が始まった
「まず、各国潜入組近況報告をしてくれ」
「特に問題はありませんよ」
「まぁお前の国は、そうだろうな」
大男と他の影に比べれば少し小さい影はそう話し合って居た。
「次」
「こっちも特に問題はねぇぜ?ただもしかしたら、近々戦争が起きるかもな。そん時は連絡しますわ」
「了解した」
大男とそれと同じぐらい大きい男の影はそう会話を交わした。
「次」
「吾輩のとこも、戦争が起きるやも知れん」
「わかった」
大男と、眼鏡をかけた青年の影はそう会話を交わした。
「次」
「俺のところは、内部戦争が始まる可能性があります。
手が空いた方がいるなら派遣してもらいたいです」
「あぁ。わかった」
大男と周りに剣を置いている男の影はそう会話を交わした。
「最後」
「俺のところは特に問題ありません!何かあればその都度報告させていただきます」
「了解した。各国潜入組、情報提供感謝するぞ。
今後とも各国内をそうさしてくれ」
大男と、元気そうな男の影はそうやって会話を交えた。
「さて、次だな。不干渉国付近徘徊組。俺含めて情報提供するぞ」
大男は、そう言って話を切り出した
「最近魔王軍の動きが活発になってきてる気がする。俺はこの辺から全く動けてないからわからんのだが、その辺他の奴らはどうなんだ?」
大男の問いかけに、今まで喋って居なかった4人が返答した。
「ワシのところはかなり魔物の動きが活発な気がしますぞ。高ランクの魔物や、名前有りの魔物も既に複数確認しておりますぞ。ホッホ」
老人の影はそう言って報告した。
「僕のところじゃ、魔王軍の9大魔と思われし、魔物と遭遇したが、コチラも相手側も本気を出して無かったためなんとも言えません。魔物の活動自体活発になってるのは間違いないと思います」
平凡そうな男の影はそう報告した。
「魔王四天王の1人らしき人物を発見。それ以外は、基本的に不干渉国内部に呼ばれたため、そっちに力を割いて居ました。1人気になる人物を見つけたのでそれに関しては後ほど説明します」
「了解した」
影が薄い男はそう報告をした。
「最後ですね。私のところは、特に何も無かったですね。不干渉国から多少離れてたこともあるかも知れまさん」
すごく丁寧な男は、そうやって返した。
「各々情報提供感謝するぞ。気を抜かずに徘徊して、しっかりと報告をしてほしい」
大男のその言葉に集まって居た全員が頷いた
「さて、そろそろいいですか?気になった少年の話なんですが……」
「あぁ。そうだったな。頼む」
「ハイ。俺は途中で学園の校長に呼ばれて、臨時で学園のテストの講師をしたんだ。それは皆知ってるだろ?」
その言葉に居た者達は全員頷いた。
「そこで、私が適当に作成した、対火の的を破壊した少年が1人居ましてね、それだけなら良かったですが、その少年は、心に凄い怒りと殺意がこもって居ましてね」
「ほう。興味深いな」
影の薄い男の発言に大男は、興味を示した。
「それでですね、その少年の殺意はどうやら魔人に向けられてたみたいですが、殺意を心に隠して居ても、やはりまだまだひよっこですね。俺はすぐに察知出来ました。ただ、何故それほどまでの殺意を抱いてるのかを分からないので、少し接触するか迷ってたんですよね」
「ほう。無茶をされると、また一つの命が犠牲になるのだな、やはりそれは許容出来んな。それで、何か心当たりはあったりするのか?」
大男は、純粋にその疑問を飛ばした。
「4.5年ほど前に、不干渉国付近の、小さな村が一夜にして焼き滅ぼされた事件を覚えて居ますか?
あの事件、1人の少年だけが生き残っていた記憶がありまして、今までしっかり生きて居たなら、丁度あのぐらいの年かと思われます」
「何、それはかなり不味いかも知れないな。確かあの村を焼いたのは、魔王軍の四天王の1人では無かったか?」
大男の問いに老人の影が答える。
「その通りでございますぞ」
「そして、俺が発見した四天王の1人は、烏の仮面をつけた、黒装束の男です」
「チッ。どうやら間違いは無いようだな。あらかた、逃しちまった、獲物を殺すためなどの理由か?」
「だいたいその通りかと。魔人の考えなんてわからないので、どうとも言えませんが」
影が薄い男の発言に、大男と同じぐらい大きい男が、舌打ちをこぼして疑問を投げかけ、丁寧な男がそれに返答した。
それをきっかけに、会議は騒がしくなり、これも違うあれも違うと意見が飛び交って居た。
「もうすこし静かにしろ」
大男のその言葉で、他の人物達は、頭を冷やして話し合った。
そして、大男はこう述べた。
「仕方が無い。折角努力すれば人間側の矛になり得る少年なんだ。俺らの中から1人つかせておくぞ」
大男の言葉に、周りの男たちは頷いた。
「取り敢えず、各国潜入組には無理だよな。不干渉国徘徊組で1番近いのは誰だ?」
「ワシですかな。不干渉国から徒歩役2時間ほどのところに居ます。ワシで良いなら、やらせてもらいますぞ?」
「あぁ頼んだ」
老人と大男の会話はそうやって終わった。
「他に誰か、この場を借りて言いたいことがあるやつは居ないか?」
大男の言葉を受けても誰からも手は上がらなかった。
「それでは会議を終了する。それぞれ持ち場について、改めて気合を入れ直せ。また、何か報告したいことがあるやつは、すぐに言え」
「了解」
大男の言葉に、残った9人が返答したところで、会議は終了した。
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ワシは、いつもの会議を、不干渉国の近くにある小屋の中で済ませた。
さて、その少年がどこに行ったかまったく分からんのぉ。どうしたものか。
ワシの感に従って行動するのも些か不安じゃしな。
とりあえずその少年が向かってそうな付近の村をしらみ潰し見て行くかのぉ。
ワシは日暮れまで、老体に鞭を打って走り続けた。
この近くなら次の村タルクがラストかのぉ。
これ以上遠くに出てる場合は、他の人に任せるとするかのぉ。ワシ走りたく無いし。ホッホッホ。
ではもうそろそろ寝るかのぉ。
翌朝
ワシは、キャンプ用に使用していた火を消して、再び歩き出した。
その時じゃった。ワシが、森を抜けたところに黒い炎を見つけたのは。
ワシはとても速く走った。何故か、その黒い炎の近くに少年がいるような気がしたからのぉ。
ワシは木々の間をするりと抜けて走った。
近づいてくる魔物を瞬殺して走った。
ワシが、森を抜けた時、黒い炎は消えていて、空に居る烏の仮面をつけた男の掌に集まっていた。
そして、それが放たれた。
「諦めるのはまだ早いぞ少年」
ワシはそう言って黒い炎を弾き飛ばして、少年を助けたのじゃよ。