1:子供の頃に死んだ父さんと、再会したわけですが
〝みんな、また絶対に会おう〟
〝ジン一行は、永久に不滅!〟
〝ハルノを、絶対にあんたが幸せにするのよ!〟
長い夢を見ていたような感覚だった。
優しくて暖かい、春の海のような場所を俺は漂っている。
みんなの声が遠くに聞こえて、なんだか懐かしいような泣きそうな気持ちになるけど、満たされて幸せで。
ずっとこうしていたいと思った。
だがそう思ったのも束の間。
漂っていた意識は急降下。
高いところから、終わりのない闇の中に落下するような感覚が全身に走っていく。
どこまでいっても何も見えないし聞こえない。
黒い世界だけが広がる底へ、落ち続ける。
「あ、あぁぁああ!!」
まずこの世界で目が覚めた時に聞いたのは、自分の叫び声だった。
生温い汗が、全身をぐっしょりと濡らしている。
はあはあと震える息を整えながら、自分の手を見つめた。
「ち、小せえ!」
そこらへんに落ちてる葉っぱみてえだ!
上体を起こして辺りを見渡すと、今住んでいる部屋ではなかった。
だけど俺はここを知っている。
昔住んでいた家なのだから当然だ。
「も、戻って、これたのか!?」
部屋の窓を見ると、幼い自分の顔が映る。
外では雪が降っていた。
どうやら今は冬のようだ。
死に戻り魔法の指定日も冬だったから、これも一致する。
「ついに……ついに帰ってきた!」
二十年前……俺が5歳だった時代に帰ってきたんだ!
失敗したら無駄死にだったが、なんとか回避できたらしい!
やった。やったぜみんな!
小さくなった手を握り締めながら、俺は歓喜に打ち震えた。
「どうした、ジン?」
「!?」
一人でガッツポーズして喜んでいたら、不意にかけられた声に思わず身構える。
こ、この声は……
「怖い夢でも見たのか?」
部屋のドアから顔を覗かせたのは寝巻き姿のおっさんなのだった。
「親父……!」
6歳の時に死んだ父さんが現れて俺は思わずそう叫んでいた。
会うことになるだろうと、死に戻る前に確かに考えてはいたが。
心の準備が追いつかない。
「お、親父!?」
父さんはそれこそ幽霊でも見たかのように、目をまん丸にして俺を見た。
いつも顔を合わせている親子のはずなのに。
互いに信じられないものでも見たように顔を合わせている。
異様な光景だった。
歳とってからは父親について人前で話す時はいつも親父って言ってたからな。
思わず呼んじまったぜ……。
「あ、ああ、ごめんなさいパパ。ちょっと変な夢見てたみたい」
「パパ!? パパなんて普段呼ばないだろう。寝ぼけてるのか!? 変だな……お前、本当にジンか?」
「うぐっ」
父さんは怪しみながら俺の頭からつま先までじろじろ見ている。
そうだ。この人は一見、温和なおっさんに見えて、国内でも随一の腕を持つ騎士だ。
自分の息子だろうと疑ったものに関して警戒を解くことはなかなかない。
目覚めて早々厄介なことになった!
「じ、ジンだよ!」
5歳の頃の自分が父親にどう甘えていたかなんて全然思い出せないが、意地悪いやだーと笑いながら、父さんにとりあえず抱きついてみた。
やけくそである。
ぐおおおお、自分でやっておきながら寒気してきた。
「……そうかあ、そうだよな! ジンはジンだもんなあ! ごめんな、よしよし」
あれだけ疑っていたくせに、ぱーっと笑顔になって、俺の頭をわしゃわしゃと撫で始めた。
あ、このおっさん……超のつく親バカである。
子供の頃はあんまりわかってなかったけど中身が25歳の今、自分の父親が親バカだったのだと確信した。
「ジンは天使だもんなあ、親父なんて汚い言葉は使わないよな!」
「あは、あはは。そうだよお」
父親のあまりの息子の溺愛ぶりを目の当たりにし、目覚めて早々、この先やっていけるのか不安になってきた。
「よし、今日はもう怖い夢を見ないように、久しぶりに父さんと寝るか!」
「うぇええ!? おや……父さんと?」
「すごい声出たなどうした? 明日は久々の遅番だ! 早く家を出ていくこともないし!」
おいでおいでと、父さんは俺の腕を引いた。
枕をひょいと拾うと部屋を出て行った。
それから父さんの横で寝るはめになって……
なんで初日から俺、おっさんの顔を見ながら寝てるんだろうと心から疑問に思った。
新手の地獄か?
……まあ、この人と居られるのはあと一年。
こんな日があってもいいか。
できれば最初で最後にしたいけどな!
死に戻っても父さんが死ぬ未来を変えることはできない。
だって父さんが死んだ理由は、死に戻ってきた俺にだってどうすることもできないものだから。
痛いほどわかっている。
「少しでも長生きしろよ」
大きないびきをかき始めた父さんに俺はそう呟いた。
拝啓、最強パーティの皆様。まあまずはなんとか、この世界で俺はやってけそうです。