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16:初めてのギルド依頼




「三ヶ月後の入団試験にジンが参加することになるなんて……つい二週間前までは考えてもなかったのに」


 しかも団長にでかいこと言っちゃったよ、減給になったらどうしようー!? と、父さんはさっきから頭を抱えて叫びながら、家の床に寝っ転がっている。


「先延ばしにしやがって……でもまあ良い。公式試合にして、自ら公開処刑の舞台を整えてくれるとはな。馬鹿な奴め!」

「うわあ、どっちが悪者かわからないセリフ」


 あいつはハルノを傷つけた人間の一人だ。

 もうこの俺が二度と人前で剣を振るえないようにしてやる。


「いや、でもだめだ! 公開処刑は!」

「あ? なんでだよ?」

「考えてもみろ、子供にずたぼろにされる騎士団長。市民からのお前への信頼は高まるが、騎士団への信頼はがた落ちになる! そうなると色々不都合が出てくるぞ。だから勝つなら苦戦して勝ちなさい!」


 勝つのは良いんかい! 注文が多いな。

 まあでも、ごろごろ転がってたくせに……

 言ってることはまともだなこのおっさん。


「だったら止めないで、あいつをそのままぶん殴らせてくれれば良かったのに」

「あの場面で団長を倒したら、もっと面倒なことになったかもしれん」


 自分が負けた事実を無かったことにしようと、暗殺者をけしかけてきたりなと、父さんは怖い顔をしてみせた。

 アホみたいな話だがあの堅物団長ならやりかねん。

 面倒事はごめんだ。


 まあいい。

 ひとまずハルノを街から追い出すというあいつの馬鹿げた考えは、今は止められたんだ。





〝俺があんたに勝ったら、ハルノに二度と近寄るな〟

〝ではこちらの条件も飲んでもらおう。私が勝ったら、ハルノには今度こそこの街から出て行ってもらう〟





 こんな条件付きだがな。

 引き合いにされたハルノは、口をぱくぱくさせてたが。


「すごい……あの有名な騎士団長にジンが勝って、しかもずたぼろにする前提で話が進んでる」


 ジャクリーヌが、俺と父さんに食後のコーヒーを煎れて持ってきてくれた。

 こいつコーヒーを煎れるのめちゃくちゃうまいんだよなあ。

 てっきり不器用で、カフェのバイトもできなかったりしてと思ってたらそんなことはなかった。


 幼いジェイドの面倒を一人で見ていたこともあり、家事レベルはすこぶる高い。

 カフェのマスターであるヒビキのおっさんにも、しっかり正式採用してもらえて、入れる時はできるだけ来いと期待してもらえたようだ。

 良かったな。


「まだこの肉体じゃ100%とは言えないが、俺、勇者っすよ?」

「そう言えば、そうだよね」

「そう言えばじゃねえわ! 王女とも見合いしたんだぞ! ……じゃなくてだな、ジャクリーヌ!!」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

「俺のレベルは良いんだよもう。俺、最上限値の男だから」

「最上限値の男……」

「お前だ、お前」


 私? と、きょとんとした顔でジャクリーヌは自分のことを指差した。

 自覚が足りんな、勇者パーティの一員という自覚が!


「仲間のレベルアップも、勇者の仕事だ。明日のバイト後は予定空けておけ」

「わ、わかりました?」

「あと、やっておいてほしいことがある」


 そうして俺はジャクリーヌにおつかい内容を書いたメモを渡したのだった。






 次の日の午後。

 俺はジャクリーヌと城下町の中央広場で待ち合わせをした。

 王城の手前にある中央広場は、草木や花に囲われ、芝生も敷き詰められた、町の人たちの憩いの場だ。

 植物の写真を撮ってる女性、健康の為に走ってるおっちゃん、サンドウィッチやアイスクリームの屋台に並ぶ親子……色んな奴が居るな。


「ジンー! ごめんなさい、待たせちゃった」


 噴水前にあるベンチに腰掛けていると、手を振りながらジャクリーヌがやって来た。


「おう。おつかいはできたか?」

「うん、できたよ。ジンのおつかいって、ギルドの依頼をとってくることだったんだね」

「街の外にたまには出ねえとな。ギルドの依頼をこなせば、レベルアップもできて金も入る」


 一石二鳥ってわけだ。


「依頼のランクはB、内容は『ユウラギ森の人喰い花の駆除をお願いします。通行が困難になり、みんなが困ってます』……簡単そうだね」

「……はあ。これだから常識のない奴は」

「ええっ!」


 ガーンといきなり貶されたからか、ジャクリーヌはショックそうに口をわなわなさせている。


「見たことねえから言えるんだ……まあ、実際に見た方が早い。行くぞ」


 まだまだきっとこいつの想像してる花は、可愛らしいものなんだろう。

 そんな依頼を俺が受けると思うか?





「こ、これが人喰い花……」


 街のすぐ外にあるユウラギ森は他の町に向かう時によく使う森だ。

 比較的、道が整備されてて通りやすいんだ。

 今みたいな雪の降り積もる時期もいつもは道が整備されているんだが、人喰い花の出現のせいか手入れされてない。


 さてはて噂の人喰い花。

 その姿を見て、ジャクリーヌは息を呑んだ。


「人が、花になってる……」


 花に絡みつかれ息絶えた人間たちの花畑がそこには広がっていた。

 ざっと十人ぐらいだろうか……。


 人喰い花はまず人間の足に絡みついて捉えると、そのまま全身にも蔦を巻いていき……

 人間を包帯の巻かれたミイラのようにしてしまう。


 そこから生きたまま養分を吸い続け、中にいる人間は本物のミイラになっちまう。

 ミイラにされて死んだ人間は、立たせられっぱなしでその場に残り続けるのだ。


「なんて酷い光景……かわいそうに」


 さらにその蔦に開花している不気味な白い花々が、俺たちも捕食しようと見ているように思えてくる。


「だが攻略は簡単だぜ。本体を殺すだけだからよ」

「本体がいるの?」

「ああ。本体から森中に伸びている根。そこからぼこぼこ生えてるのがこの人喰い花だ」


 みんな本体から出ている根で一つに繋がっているから、本体さえ停止できれば全て枯れる。

 元の世界で人喰い花の駆除をした時もそうだった。


「ジャクリーヌ。この依頼、俺はあくまでお目付け係だ。お前が本体を見つけ、そして殺せ」








城下町騎士団は、城下町内のいざこざや、近隣で起きている人対人トラブルに優先対応しているので、森のモンスター駆除にまでなかなか手が回らないのです。


どうせ対応が遅くなるだろうと見越した依頼主が、ギルドに依頼をかけたというわけです。


なので優秀なギルドや、ギルド団員は、時たま国や町から表彰される場合もあったり……

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