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後編・何もかもを間違えた。

2020.8.13

何名かの読者様からご指摘がありましたので前編で使用していた「仮令たとえ」を読み易さを考慮して平仮名明記の「たとえ」にしました。混乱を招いてしまった方々、すみませんでした。

王太子視点です。

後編は前編程では無いですが長め。あとがきが長いです。

「お前は一体何を考えている!」


父上である国王陛下に怒鳴られた俺は肩を竦ませる。

今日も王太子妃教育で登城するなんて忘れていた。だからつい執事に「ディータナが体調を崩したらしい」と嘘をついて婚約者に会いに行くフリをしてその妹のドルテアとの逢瀬を楽しもうとしていた。キスをしてベッドに押し倒した所にドアが開く音がして……ディータナがそこに居た。何がなんだか分からなくて我に返った時には既にかなりの時間が経過していたようでディータナの部屋を訪ねても居ないから慌ててサロンへ向かう。だがサロンにも居なくてもう一度ディータナの部屋を訪ねたら専属侍女がドア越しに色々と言ってきた。


侍女如きが私に逆らうのか! とカッとなるが鍵がかかっていて部屋は開かない。ドルテアも色々言ったが結局ドアは開く事なく公爵家の使用人達に宥められた。そこで漸く自分の専属護衛であるゲイアーが居ない事に気付く。何故居ないのか首を傾げていると別の護衛騎士が現れて問答無用で城に帰された。帰って来るなり父上のお呼びと聞いて謁見の間に向かえば怒鳴られた。


「何を、とは」


「白を切るつもりか! ゲイアーから報告を受けた! ディータナ嬢の具合が悪いなどと平然と嘘をつきその妹であるドルテアと浮気をしていた、とな!」


ビリビリと父上の怒気を感じて俯く。ゲイアーめ黙っていろ、と言ったのに裏切ったな。などと呑気な事を考えていたら父上が続けた。


「ディータナ嬢が罰として私に報告するようゲイアーに命じたそうだが。お前は王太子の自覚がまるで無い! 公爵家との話し合いの場を早急に作る。それまで部屋で謹慎していろ!」


公爵家との話し合い……。でもディーとの婚約は続くだろうから一体何を話し合うというのだろう。そう思っていた。翌日の話し合いの場に父上と母上と宰相及びディーとディーの両親とドルテアが現れるまでは。ディーの両親の顔は一度も見た事が無いくらい激しい怒りの表情を湛えていた。これはまさかディーとの婚約が無くなってしまうのか、と焦る。それは嫌だ。ディーは俺の愛する女性だ。俺の初恋にして俺の最愛。ドルテアの事を恋人扱いしていたのはまぁ俺も健全な男だからその肉体(からだ)を差し出されたらグラリと来ただけだ。有り体に言えば肉体関係なだけ。そこにいくまでデートくらいは何度かしたしプレゼントもしたけど。今も昔も愛しているのはディーだけだから婚約解消なんて阻止してやる。


「ディータナ嬢。今回の一件について何か望みがあるか」


「既に陛下とお父様との話し合いにて私の望みはご理解頂けています事かと。それ以上の望みは何も。陛下はご承諾頂けましょうか」


ディーは既に父上に何か願った、と? 俺との婚約が無くなるようにとか? まさか。ディーは俺の事を愛しているはずだ。それは俺を見れば嬉しそうに微笑み愛しむように目を向けて俺が褒めれば真っ赤になる。そんなディーが俺を愛していないなんて思わない。

いつもは口にしないが今回くらいは謝って愛してると言ってやるくらいはしないと。ディーは俺を愛してるし優しいから浮気くらい許してくれるはずだ。


ーー本当に?


俺の耳にそんな声が聞こえて来た気がして周囲をチラリと見るが誰も何も言っていないようだ。空耳か?


ーー本当に謝れば許してくれるのか?


……まただ。一体誰だ。


ーー俺はお前だ。


なんだと? 意味が分からず眉間に皺を寄せた所で父上の声が響いた。


「許可する。……ビクスタ。お前とディータナ嬢との婚約はこのまま続く」


俺はホッとする。だが続く父上の言葉に耳を疑った。


「但し婚姻式が終わり次第、ビクスタは離宮で過ごす事」


「な、何故ですかっ」


離宮って幽閉でもするとでも?


「お前とドルテア嬢との結婚生活の場は離宮にするからだ。ああきちんと公式発表はする。ドルテア嬢はお前達の婚姻式と同時に愛妾としてお前と添わせる。さすがに側室に迎え入れるわけにはいかないからな。ディータナ嬢はお前とドルテアが相思相愛の恋人同士だと知って心を痛めておる。自分が2人の仲を引き裂くのは忍びない、とな。だからディータナ嬢はお前の唯一の妃だが公務・外交・執務は行うものの跡継ぎはドルテア嬢との間の子を認めるという事だ。初夜及び閨事は一切放棄する、と。ドルテア嬢もそれで良いな」


「はい、陛下」


ドルテアは俯きながらも嬉しそうに頷くが何故? 何故ディーは初夜及び閨事を放棄などと……。愛する女性が俺の子を産んでくれない? どうしてだ?


「ディ、ディー……」


自分の声が弱々しく聞こえるがディーが俺を見た。


「殿下? 何か」


ディーはとても不思議そうな表情を浮かべている。


「君はそれで良いのか? 私の妃なのに子を産めないんだぞ?」


掠れた声で尋ねればディーはどこか嬉しそうに頷いた。


「もちろんですとも。殿下とドルテアが相思相愛の恋人同士ならばドルテアに子を産んでもらい跡継ぎを託します。私は国の繁栄と民の幸せだけに集中出来ますわ」


そんな。なんで嬉しそうなんだ。ディーは俺を愛してくれていたはずじゃないか!


ーーだから言っただろう? 本当に許してくれるのか? と。


また声が聞こえて来て俺はその声に集中してしまいそれ以上何も言えなかった。その間に何かの契約書にサインさせられる。


「……そういえば殿下とドルテアに尋ねますが」


ふ……という感じでディーが思い付いたように口にする。俺は何も聞き逃す事の無いようにディーを見た。ドルテアもディーを見ている。


「お2人のデート代やらプレゼント代は何処から捻出したのです?」


「そんな事か。それは王家の王太子予算にある婚約者への」


俺が言いかけるとディーが遮った。


「まさか殿下! 私とのデートだと嘘をついてドルテアとのデート代やらプレゼント代を捻出していたのですかっ?」


凄い剣幕に頷けば父上と母上とディーの両親とディーが揃って溜め息をついた。


「陛下。申し訳ないことを致しました。予算の財源もそこから支出金を出すのも私の役目でありながらこのような失態です。財務大臣の位を返上し直ちに補填させて頂きます」


「お前に大臣職を辞められるのは正直辛いが仕方あるまい。宰相も聞いていたな」


「はっ。とはいえ公の清廉潔白さは財務という大事な場所でこそ必要な人材。公には財務官として引き続き働いてもらいましょう」


……一体どういう?


「ドルテア!」


「お、お母様……怖い」


「怖いではないわ! あなたの所為でお父様が危うく仕事を無くす事になったのですよ! 反省なさいっ!」


「そんな何故私の所為なのです⁉︎」


「あのね、ドルテア……。国家予算も王家予算も国民の税から成り立っているの。王妃殿下は更にご自分の資産がお有りだけど。基本的には王家予算ってその位に着いている方に見合う為のものなの。つまり陛下のご衣装一つとっても国王陛下の威信に必要だから王家予算が使えるの。公的なものは全てそういう事なのよ。

対して私的なもの……例えば王妃殿下の個人的なお茶会なんかは王妃殿下が自らの手でお稼ぎになられた或いはご実家からの援助を受けたお金で賄われるの。そして王太子の婚約者予算は、後に王太子妃・王妃になる相手だからお金が出せるのよ。あなたは婚約者では無いから本来出してもらえないの。解る?」


ディーの言葉を呑み込めないドルテア。しかし俺は気付いた。もしやこれは……。


「お姉様。何を言っているのか」


「つまりね。婚約者のために遣うお金だから王家予算からお金が出た。だけど実際には違うから陛下に嘘をついてお金をもらったのと同じこと。正確に言えば財務大臣のお父様に嘘をついたのと同じことね。

そして本来なら婚約者に遣われるお金を婚約者以外に遣った時点で横領……罪になるのよ。お父様は結果的にその罪に加担してしまったの。知らなくても罪になるのよ。お父様が仕事を失うどころか牢に入れられてもおかしくない罪なの。解るかしら?」


ディーに丁寧に諭されてドルテアはようやく顔色を変えた。それはきっと俺もだ。


「そ、そんな……私は別に」


「ドルテアが婚約者予算を遣って欲しいと言ったわけでは無くてもね。殿下が遣うお金が何処から出ているのか考えなくてはいけなかった。そういった事を考えもしない、知ろうともしないからドルテアが妃になれないの。私の代わりに妃になりたかったでしょうけどそれも解らない者に未来の王妃なんて無理なのよ」


ディーに諭されドルテアは悔しそうに俯いた。そうだ。こうして俺の為に常に動いてくれるディータナだから俺はずっと好きだった。いつも俺の考えている事を先回りしてくれていた。

ーー瑞穂はそういう女だった。

瑞穂? 誰だっけ。知っている名前……。頭痛が俺を襲う。その痛みに耐えられなくなる前に話し合いが終わった。部屋に戻りそのままベッドに倒れ込む。使用人が何か言っているようだが聞こえずにそのまま意識を失った。






「瑞穂。好きだ。だから結婚しよう」


「悟! はい、喜んで」


ああそうだ。俺は日本で大学で知り合った瑞穂と恋人になり結婚した。大翔と芽美という子どもにも恵まれて幸せだった。でも大翔が小学校の友達と少年野球に入ってから平日どころか土日も瑞穂は忙しくなって。俺は疲れていたから大翔の試合観戦に行かなかったが瑞穂から良く行こうと誘われていた。けど億劫で行かない事を選んだのは俺なのに、瑞穂も大翔も芽美も俺が居なくても楽しそうなのがムカついて。

そんな時仕事先の後輩から時々食事に誘われて……つい魔が差した。いつの間にか付き合っていて何度かホテルにも行った。付き合い出して1年の日に2人で過ごしたいって言われて俺は何故か自宅に呼びたくなった。どうせ瑞穂は芽美を連れて大翔の試合観戦だから直ぐには帰って来ない。だから2人でゆっくり俺の家で過ごそう、と口説いて。


ソファーでいちゃついて気分が乗って彼女を押し倒した所で異音がした。直後子どもの泣き声がして……。芽美を抱っこした瑞穂が立っていた。


「えっ? めぐみ? なんで? 今日は遅くなるって」


芽美が泣いている事に慌てて瑞穂の表情がまるで無い顔を見てゾッとして現実だと思い知る。


「芽美が吐いた物を片付けておいて」


「は? なんで俺が」


急に言われてついそんな事を言った。いつも家事は瑞穂がしていたからだ。娘とはいえ汚物処理なんて男が出来るか! と思った。あまりにも淡々としていたから状況を一瞬忘れていて。瑞穂が冷たい目で言った。


「ああ、夫だけじゃなく父親も止めるなら構わないわ。私の親戚には弁護士がいる事を忘れている時点でどうしようもないわね。離婚と慰謝料と養育費たっぷりふんだくってあげるからとっととこの家から出て行ってくれる? ああそちらのあなた、名前と連絡先を紙に書いて置いていって。この男と話し合うつもりもないからあなたの連絡先が無いと困るのよね。連絡先も名前も教えたくないとか言うなら探偵に頼むからいいわよ? その探偵に支払うお金もあなたからの慰謝料に上乗せ出来るし。さ、この男を連れて出て行って頂戴」


夫だけじゃなく父親もやめる? 何を言ってる? 俺は浮気しても家庭を壊すつもりなんて全く無い! なのに出て行けなんて……。瑞穂は俺が浮気しても何とも思わないのか?


「あ、あの奥様!」


彼女が呼びかけるが瑞穂の目は冷たいまま。


「瑞穂! 待て! 話せばわかる!」


俺がそう言えば瑞穂はいつも話を聞いてくれた。謝れば許してくれる優しい瑞穂。


「分からないわ。そして聞こえなかった? 出て行けって言ったのよ。うちの両親とあなたの両親にはきっちり説明しておくからホテルでもその女の家でもどこにでも行けば? 私は芽美を病院へ連れて行かないといけないの。吐いたのを見れば具合が悪いって分かるでしょ? あんた達のくだらない話を聞く暇なんてどこにもない」


芽美が吐いた。泣いている。そうだ。具合が悪いんだ。だけど瑞穂くだらないなんて……そんな酷い事を言うなよ。俺の事を何とも思ってくれないのか? だけど瑞穂はもう俺を見てくれなくて。彼女が名前と連絡先を書いたのを見て彼女を追うように家を出た。芽美が吐いた所は汚くて避ける。外へ出てからも少し彼女と一緒に歩いてそれから彼女が言った。


「娘さん、体調が悪いのに出て来ていいの? 一緒に病院に行くとか」


「瑞穂が出て行けって言ったんだからいいんだよ。病院から帰ったくらいで家に帰れば瑞穂も落ち着いてるって」


「離婚……してくれるって言ったよね?」


「ん? ああそうだな。帰ったら話し合うからまた連絡するよ」


彼女が不安そうな顔をしているからこのままホテルに行こうか、と誘ったけれどさすがに今日はそんな気分になれない、と帰ったから俺はこの後どうするかなぁ……と呑気に考えた。彼女には離婚して一緒になってって言われて。「分かった。離婚するよ」なんて言ったけれど俺は瑞穂と別れる気はない。瑞穂と子ども達を愛してるし家庭を壊すつもりは無いし彼女とはそのうち別れるつもりだった。

瑞穂にバレたならちょうどいい機会だから忘れよう。瑞穂は俺がパチンコで結構金を遣っても謝れば許してくれたし、勝手にホームシアター用のセットを買っても笑って許してくれたし、ケンカして打っても謝れば許してくれた。だから今回の浮気も謝れば許してくれるだろう。


確かに瑞穂の従兄弟が弁護士なのは知ってるけどあんなの冗談だろう。とにかく瑞穂が病院から帰るまでは何処かで時間を潰そう。

……そう思っていたのに。夜になって自宅へ帰った時には大翔ももう帰っていたけど瑞穂の両親が居た。瑞穂にも子ども達にも会わせてもらえないまま瑞穂は実家に連れて行かれてしまった。しかも瑞穂の実家には来るな、と言われて来るなら警察を呼ぶ、なんて言われて。

なんでだよ。瑞穂。俺の事を愛してくれているんじゃないのかよ!

誰もいなくなった家で叫んでた。それから瑞穂に全然会えないまま瑞穂の従兄弟がやって来て離婚手続きをする、と告げられた。


「瑞穂に会わせてくれ! 子ども達にも!」


「瑞穂ちゃんは会いたくないそうです。お子さん達はお子さん達が望めば会えますが瑞穂ちゃんは会わない、と」


「そんな! なんでだよ、瑞穂っ。たかが浮気くらいで……」


「たかが? そんなわけないでしょう! 瑞穂ちゃんは傷ついていましたよ! 泣き腫らした目で俺に離婚したいと言っていました。話を聞けばこの家に浮気相手を呼んでいたそうじゃないですか! 不貞行為だって許されないのに自宅という家族の安心の象徴で不貞行為をするなど下劣としか言いようがない! 反省する気もないみたいですし、あなたのご両親も瑞穂ちゃんに頭を下げて誠意を持って謝った後にあなたとの縁を切ると言っていました」


親父とお袋が俺と縁を切る? まさか。慌てて電話をかけてお袋に「俺と縁を切るって……」と言えば「本当の事だよ。二度と帰って来ないでおくれ」と電話を切られた。学校の先生をやっていた両親は曲がった事が嫌いだった事を思い出した。


「瑞穂ちゃんに今後一切近づかないように誓約書にサインしてもらいましょう。それと離婚届にも」


瑞穂の従兄弟に促されて俺は離婚届にもサインした。それを直ぐに役所に出したようで俺達は他人になった。他人になってしまった。そんな……浮気くらいで離婚なんて……。俺は愕然としていた。

瑞穂が俺から離れて行くなんて許せなくて俺は瑞穂の実家に押し掛けて瑞穂の両親と瑞穂と子ども達を殺して自らも命を絶った。その後何故か目覚めたら俺は国の第一王子だった。生まれ変わったのだと何となく気付いた。





そうして俺はディータナに会った。一目惚れだった。7歳で淑女の片鱗を見せていたディー。だけどディーが俺に惚れていて俺に会う時だけは可愛い子だった。将来ディーと結婚すると思えばその時が楽しみだった。ディーの妹のドルテアは可愛いけどディーじゃないからそんなに交流していなかった。だけどディーに似た顔で目を潤ませてデートしたいなんて言われてつい頷いた。そこから時々デートして。そうするうちにキスを強請られて。肉体関係に堕ちるのは直ぐだった。


そうして偶には公爵家に来てくれ、と言うドルテアに誘われて俺は嘘をついて公爵家に行った。その嘘から俺はディータナと結婚出来るけどドルテアと家庭を作るように言われた。謝る事もさせてくれない。いや謝っても許されない事をした……。ああ俺はなんて愚かなんだ。同じ事を仕出かして前世は瑞穂を今世はディーを失った。

いやだが。まだ今世は間に合うはずだ。俺とディーは結婚する。ディーはきっと瑞穂の生まれ変わりだ。だって瑞穂の時と同じように一目惚れしたのだから。


きっと2人は結ばれる運命。

だから大翔と芽美の生まれ変わりも運命。

それにはディーと子どもを作らなくては。そうだ。俺は王太子なのだからディーは俺の妻なのだから誰も邪魔出来ない。

ゆっくりとディーを口説けばディーなら許してくれる。きっと可愛い子ども達が産まれるはずだ。また4人で家族になろう。









そんな事を思っていた時もあった。だがその願いは直ぐに消えてしまう。

ディータナは本当に初夜を放棄してしまった。いや俺とディーの婚姻式が終わった直後には俺は離宮に連れて行かれ……ドルテアがまるで初夜の初々しい新妻のように照れた表情でそこに居た。ドルテアと初夜を済ませないと見届け人が居なくならず俺は仕方なくドルテアと初夜を済ませた。そこから無し崩しに昼は城内で王太子としての執務をこなす。時には公務で国内を見回る。執務室にも公務にもディーは隣に居るのに……仕事が終われば俺は護衛達に離宮へ無理やり連れて行かれてしまう。

全然ディーとの話し合う機会を設けられない。ディーと話し合って仲を深めて俺の子を産んでもらいたい。だが現実は全くそんな状況にはならない。


やがて時が経ち俺は王太子から国王の位についた。ディーは王太子妃から王妃に。ドルテアを強制的に抱くからドルテアとの間に男児が2人。女児が1人居る。

その間に側室を迎えろと言われて貴族達の圧力に屈して側室を2人も迎え入れる羽目になった。どちらも政略結婚なのを理解していて俺との間にさっさと子を作って自由になりたい、と願って来た。だから仕方なく2人に子を産んでもらった。側室2人は男でも女でもどっちでもいいから子を産めば良い、と言い切った。そして恋人を作るのだ、と。側室と愛妾は恋人を作る事は暗黙の了解だ。その間に子どもを作らないならば。


側室と愛妾は恋人が作れるが王太子妃ひいては王妃には秘密の恋人など持たせられない。それでもディータナは俺との子を産みたい気持ちが無いのか?

結局ヤキモキしたままこの関係が続く。10年近く経ち……ディーはいつの間にか王妃ではなく、国王陛下に並ぶ共同統治者という座についていた。この立場は王妃では出来ない事も出来る。国王に何かあった場合、王妃では命令に限界があるが共同統治者は国王とほぼ同じだから限界が無い。


共同統治者の存在は過去に数回あった事だったので臣下から反対の意見など無かった。それに俺との関係はきっと知られている。ドルテアの事も含めて。だから同情心もあったのだろう。俺も積極的に反対しなかったからディーは共同統治者になった。


それから数年後。

俺はディーの優秀さに辟易して国王の仕事を放棄するようになりディーに任せるようになった。その頃にはディーの弟が宰相職に就いたから何の心配も無かった。だがその考えが悪かったのだろうか。ある日離宮にディーと宰相であるディーの弟と近衛騎士達がやって来て書類にサインしろ、と言われた。良く読めば国王退位の書類で……俺とドルテアと子ども達で仲良く暮らせば良いという内容だった。


「ディー! なんでだ。上手くいっていたじゃないか!」


「それは最初のうちだけでしょう。陛下はその後仕事を私に押し付けるばかり。だったら国王など不要です。私と弟で国を守りますからご安心を。跡継ぎも弟の子を据える手筈を整えました。一応我が家にも王家の血は流れていますから問題無いでしょう」


俺はもう不要なのか、と項垂れて書類にサインをした。こうして俺は元国王となって城から追い出された。俺は若気の至りで何もかもを間違えて……結果失った。

以上で完結です。

お読み頂きまして、ありがとうございました。


裏設定・1

悟と瑞穂では瑞穂の方が稼ぎが有ったのでお金の面では離婚しやすかった。(他の諸々は弁護士の従兄弟が手伝った)


裏設定・2

ドルテアちゃんは前世の悟の元彼女(不倫相手・記憶無し)


ディータナの侍女・カラの前世は芽美ちゃん(記憶は無いけどディータナには幸せになって欲しいという強い思いがある・不貞行為に強烈なトラウマがあるので王太子とドルテアの関係は気持ち悪い)


名前も出てないディータナとドルテアの弟の前世は大翔くん(記憶無し)


裏設定・3

ディータナは瑞穂の記憶は思い出したけど前世で死んだ理由は思い出してない。


裏設定・4

名前の呼び方の件。王家は尊き存在という考え方なので王族の方から「名前を呼ぶ事を許す」と言われないと名前を呼べない。臣下から「名前を呼ばせて下さい」とお願いも出来ないという貴族なら当然の常識。でもドルテアとビクスタの場合。ドルテアが「殿下の名前呼びたい」と言ってビクスタも「良いぞ。好きに呼べ」というやり取り。2人とも貴族の常識を忘れていたからこそ成り立った。


裏設定・5

その後の元国王一家。仮にも王族なので下手に追放して内乱や他国との火種にするわけにはいかないので城内とは別の離宮で一生飼い殺し。ディータナにとって子ども達は可愛いから自分用の予算のいくらかを子ども達に与える。故にビクスタとドルテアより子ども達の方が金をかけられる。それをビクスタとドルテアが気に入らなくて文句を言おうとしたが騎士達に拘束され「大人しくしているか牢に入るか好きな方を選べ」とディータナ弟に冷たく言われて以降は大人しくする生活。


*同じ名前を別作品で見かけたと思った方はご自身の胸の中にしまっておいてください。(名前はその場の勢いで付けているのが大半なので似たような名前だったり同じ名前だったりする可能性有り)

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