一人暮らしがしたい
俺は今、『目の前に見知らぬ女の人が全裸で突っ立っている』という状況を呑み込めず、彼女同様に突っ立っている。おそらく彼女が、親父の言っていた秋葉美来という女の子なのだろう。
美来は銀髪のショートヘアー。
右目は白色、左目は黒色のオッドアイで少しおっとりとした目つきだ。
鼻のラインが綺麗で、美しいとかわいいを足して2で割ったような顔をしている。
「あなた泥棒?」
唐突に美来のほうから話しかけてきた。蒼平はまだ頭の中が混乱しているため泥棒の意味が理解できなかった。
なんの反応もしない蒼平を不思議に思い、美来は首を傾げた。
すると「ぱんっ。」という音が響いた。
美来が俺の目の前で両手を叩いたらしい。猫だましというやつだ。
そのおかげで俺の頭は覚醒し、徐々にこの状況を理解していった。
「ああ、ありがとう。秋葉さんでいいのかな。ところで服は着ないの?」
「あなた泥棒?」
美来は蒼平の質問を無視して再びさっきの質問を繰り返した。
蒼平は今回はちゃんと泥棒の意味を理解した。
「いや、俺はこの部屋の住人なんだが。」
「泥棒はみんなそう言うのよ。」
「そんなわけないやろ。」
「あなたが蒼平なの?」
唐突に蒼平の名前が呼ばれ少し驚く。
「どうして俺の名前を。」
「名前は達三さんから聞いたわ。」
鬱金達三、さっき電話をかけてきた蒼平の父親で現在仕事の都合で母親と妹と一緒にアルゼンチンにいる。
「なるほど。君は秋葉さんであってるよね。」
「違うわ。私は秋葉美来よ。秋葉三という名前ではないわ。」
どうやら美来は「秋葉さん」の『さん』を『三』と自分の下の名前と勘違いしたらしい。
「冗談がすごいな。じゃあ、お前は秋葉であってるよな。」
蒼平は、絡むのが面倒臭くなり口調が冷たくなる。
「美来と呼んで。」
「は?きも、ふざけんな。ていうか俺のこと名前で言うな。」
蒼平は、なれなれしい態度をとっている美来に対し、さらに厳しい口調になっていく。
「どうして?」
「そうだぞ、蒼平。俺のつけた名前を誇りに思え。」
40,50代あたりの野太い声で、さっきの電話で通話していた声が今は電話越しではなく直接聞こえてくる。
「え、親父。なんでここに?」
鬱金達三。たしか47歳。口の周りには無精髭を生やしていて、来る途中に何か食べていたのか赤いケチャップのようなソースもつけてある。二の腕から足までこの年ならぬ筋肉がついていて、服が盛り上がっている。これまでに何回この腕で締め上げられたことか。
「久しぶりね、達三さん。」
美来はこれまでに、達三と会ったことがあるかのような口調で話しかけた。
「おお、久しぶりだな!美 来. . . .ち ゃ ん。」
達三は、目線を美来の頭から胸、腹部、足にやり、また頭に戻して顔を真っ赤にした。
「みみみみくちゃん。どうして、はhhはだだdか(裸)なの!?」
「蒼平が着させてくれなかったから。」
「てめぇ、何言ってんの。」
「こら、蒼平。女の子には優しくしなさい。女の子は蒼平が思うよりも繊細な生き物なんだ。そういう冷たい態度をとっているとだなーーー。」
達三は、蒼平の目を見て叱っていーーるのでははなく、顔を赤くしてちらちらと美来の全裸になっている体に目をやっている。
「親父はなに30も下の相手に欲情してんの。ロリコンかよ。」
「何を言っている、蒼平。俺は、お母さんに永遠に愛すると誓った。」
「そう言いながら、まだ見てんじゃん。」
「ぐぬ・・・。これが普通の反応だ!お前がおかしいんだよ!なんで全裸の美少女が目の前にいて平常心でいられるんだよ!」
親父は開き直って急にきれてきた。
これ以上いじめるのはかわいそうだな。
「というわけでだ秋葉、そろそろ服を着てくれ。俺もさすがに裸の女が目の前にいるのは気分が悪い。」
蒼平は達三をいじったからか、美来に対して苛立っていたいたのが少し落ち着いた。
「美来と呼んで。」
「うるさい。」
相変わらず美来は、『美来』呼びを強制してくる。
「呼んだら着るわ。」
『なら別に着なくていい。』と言いたいが、相変わらず親父は秋葉の裸を見て鼻の下を伸ばしている。これ以上は、親父のこんなダメなところ見たくないな。
「はぁ、ミク。はい呼んだから服を着てくれ。」
蒼平はため息をつきながら、てきとーに名前を呼んだ。
「違うわ蒼平、ミクではなくて美来よ。」
「ちっ、めんど。美来。呼んだから服を着ろ。」
「どれがいい?」
美来は次、自分の着る服を蒼平に選ばせて来た。
「は?それくらい自分で選べ。」
「それならいいわ。」
美来は蒼平に服を選んでもらえなかったので、何かを待つように裸のままソファに座った。
「ああああああ、分かったよ。選べばいいんだろ、選べば。」
蒼平は足元の散らばった服の中から、一つ選び美来に投げ渡した。
「パンツは?」
「それくらいは自分でーーー。」
美来はツーンとした顔でまた何かを待つように、蒼平から渡された服を両手で握りながらソファに座った。
「・・・・・。」
蒼平は、無言で近くにあったパンツを親指と人差し指でつまみ、美来に渡した。
「ズボンとブラジャーは?」
(それも選ぶのか)
「おい蒼平、さすがにこの美来ちゃんの格好は...。」
美来の裸を見て鼻の下を伸ばしていた達三は、蒼平の渡した服を着た美来の格好をみて少し引き気味に美来の服装を指摘してきた。
美来の服装は、上が真っ黒のジャージのようなもので、下がフリルのついた丈の短いピンクのスカートだった。
確かにこの格好はだれが見ても、『三次元アンチ』の蒼平が見てもみすぼらしい格好だった。
「蒼平は服を選ぶセンスが、ありえないくらい無いのね。」
「別にてきとうに選んだやつだから...。あと他に見る人いないから別にいいだろ。」
蒼平はとりあえずソファと机に散乱していた服をどかし、そこに美来と達三を座らせて、てきとうに盛った茶菓子と麦茶を人数分持ってきた。
「じゃあとりあえず、俺が今疑問に思っていることを一つずつ消化していこう。まず一つ目、なんでこんなに服が散らばっていたんだ?」
蒼平は美来の目を見て、疑問に思っていたことをぶつけた。
「なんでなの?」
美来はなぜこのような惨状になったのか疑問に思ったのか首を傾げた。
「いやいやいや。お前が服を散らかしたんだろ。」
「私は普通に、ここに来るのに少し疲れて服が汗で濡れてしまったから着替えようと思って、着替えを選んでいただけよ。」
「それだけで服がこんなに散乱するか!?」
「散乱したのだから仕方がないわ。」
「だったらなんでお前は裸で寝てた?着替えたんじゃなかったのかよ。」
「服を脱いで新しい服を選んでいたら眠たくなったから。」
「もう突っ込む気力も湧かない。じゃあ次に二つ目の質問だ。親父は何でここにいる?」
蒼平はのんきに麦茶を飲んでいた達三に質問した。
「ああ、蒼平と美来ちゃんが一緒に暮らすことになったからな。いろいろとやらんなんことがあるんだ。」
「じゃあそれも踏まえて最後の質問だ。俺とこいつが一緒に暮らすってどういうことだよ!俺は一人暮らしがしたい!」