普通の高校生活を送りたい
春のあたたかな風が、半分開かれた窓から全開されている教室の扉へと生徒の眠気を引き起こすかのように、やさしく吹き抜けていく。
俺の名前は鬱金蒼平。武昌高校に通う高校2年生。髪の毛は黒、目の色も黒。身長はだいだい170㎝と平均で、見るからにどこにでもいる普通の高校生。
現在高校と離れたところにあるアパートで一人暮らし。
家族は親父の都合でアルゼンチンにいる。
今は火曜日の6限の古典文学。
先生は、けっこう年のいったおじいちゃん先生。そのおじいちゃん先生が「春はあけぼの~」とか「月の頃はさらなり~」とか、めっちゃくそいいペースで朗読しているから眠くなる。さらに窓から吹き付けてくる風により眠気を増幅させる。
実際、クラスメートの半分はすでに机に突っ伏して眠っている。ほとんど、学級崩壊がおこっているがおじいちゃん先生は何も言わず容赦なく授業を進めている。
まぁ、おじいちゃん先生のテストは比較的簡単だから授業を聞かなくても、一夜漬けで赤点は回避できる。
だったら俺も寝てしまえばいいって?
ーー正直そうしたいのはやまやまだが、このおじいちゃん先生は授業の態度を重視して成績をつけているらしい。一応入っている部活の先輩が言っていた。
蒼平は基本、テスト期間に入っても勉強せずにずっとゲームしたり、アニメを見ている。そのせいで毎回50点前後の点数しか取れていない。赤点は40点なのでぎりぎり追試にはなっていないが、結構危ないところに位置している。そのため、授業中に態度をよくして点数かせぎをしている。
いや授業をまじめに受けているふりをして本当は先生の話は全く聞かずに、あのゲームのボス強かったなぁとか昨日見たアニメ面白かったなぁとか、そんなことを思いながらぼーっとしている。
蒼平は、このような考え事をしながらぼーっとする時間が好きだった。
《この素晴らしい一時に祝福を》
授業が終わる残り20分ほど、授業をまじめに受けているふりをしてずっとぼーっとしていた。
『キーンコーンカーンコーン』
授業の終わりの合図のチャイムが鳴った。
今日は早く帰って、昨日見たアニメの続きを見るつもりだ。
蒼平は急いで帰る準備をしてリュックを背負い席を立とうとしたが
「おーい、蒼!」
すらっとした小さい頃から聞いてきた透き通る声で、俺のあだ名が呼ばれた。あだ名といっても俺のことを『蒼』と呼ぶのはたった一人しかいない。
「なんだ?計真。」
すらっとした声の持ち主は、蒼平の小学校からずっと一緒にいる親友の太刀並計真だった。
計真は赤みがかった茶髪で甘いマスクを持つ優男だ。勉強は定期テストでは毎回、番数1桁に入る頭脳の持ち主で、運動はサッカー部でエースかつ主将をやっているが、サッカーだけに関わらずほかのスポーツは何でもできて男女ともに好かれている完璧超人。
小さい頃は家が近かったこともあったが、なぜか性格が真逆だが馬が合い仲良くやっている。今も同じ高校に入り1年生、2年生ともに同じクラスになった。
「頼む、蒼。サッカー部に入ってくれ!」
蒼平は、去年の球技大会でいやいやサッカーをやらされた。その時に、てきとうに蹴ったボールがきれいな弧を描き、ループシュートのようになり運よくゴールに決まった。いや、今では『運悪く入ってしまった』という表現のほうが正しい。
なぜなら、計真は『あれは絶対狙って決めたシュートだ!まぐれなはずがない。』と、言い張る。それからというもの、3日に1回は部活の勧誘をしてくる。
「あのな、計真。毎回言っているようにあのシュートはまぐれだ。そんなに期待されても困る。それに俺の家の距離が遠いことくらい知っているよな?」
蒼平は電車やバス、自転車を使い約80分間かけて毎日登下校している。バイクの免許は持っているが、学校にばれたら免許が没収される。そのため、部活なんかやっていたら家に着く時間がとても遅くなってしまい、ゲームやアニメの時間も無くなってしまう。
「そこをなんとか。ほら、部活で学べることもあるしさ。」
「ああ、そういえば言ってなかったな。俺今年から茶道部に入部したから。」
「え、なんで。」
計真はポカンと口を開けきょとんとしている。
「まぁ詳しくは、名前だけ貸している状態だが。今年の部活動勧誘の時、茶道部部長の夜桜沙綺先輩が今年も新1年生が入らないと廃部になるって泣きそうになっていたからな。しかたなく名前だけかした。何回か部室に呼び出されたけど。」
「なるほどね、それなら仕方ないな。やっぱり蒼平は、女性には厳しいけど涙には弱いね。」
「当たり前だ。女にはめっちゃ冷たくするけど、女が泣く姿は絶対に見たくない。じゃあな計真また明日。」
蒼平はさっきまとめておいたリュックを背負い帰った。
「うん。また明日。」
計真が笑顔で見送ってくれた。
帰宅途中(バスの中)、周りの目を気にすることなくいちゃいちゃしているカップルと同じバスに乗ってしまった。周りの目といっても蒼平と運転手しかいないが。運転手も迷惑そうな顔をして後ろをちらちらとみている。
普通だったら、非リアがこのようないちゃいちゃしているカップルを見てしまったら殺意が芽生えるかもしれないだろう。だが俺が思ったことは「三次元の何がいいのだろう。」と。
そう、俺は二次元にしか興味がない。過去に女性に騙され、女の人のことを信じることができなくなってしまった。それから蒼平はゲームやアニメの沼にはまってしまった。
そんなこんなで、いちゃいちゃしているカップルを傍目にバスに揺られること約20分、バス停についた。
あとはここから自転車で25分、田んぼにはさまれた全く舗装されていない、ガタガタな道をペダルを回してアパートに帰っていった。
蒼平の部屋は、501号室で5階にある。1LDKで2つの空き部屋があるので一人暮らしするには少し大きい。そして、そのアパートにはなぜかエレベーターが設置されていない。階段で上り下りする必要があるのだが、これまた段数が多い。
なんでも老人が多いらしいから一段一段を高くできないらしい。
蒼平が長い階段を上り終えると、そこから一番遠い蒼平の部屋のドアが完全に開いていたのが視界に入った。
すぐに駆け寄り部屋の中を覗くとそこには、大量の服が足の踏み場がないほどに床に散らばっていた。
ドアの横には、しっかりと501と書かれた札が掛けられているので、蒼平の部屋で間違いない。
瞬間に蒼平は、空き巣の仕業だと思った。
しかし蒼平は朝、しっかりと鍵をかけたし窓からは5階なので侵入できるはずもなくどうやって入ったのかもわからない。
110番に通報しようとしたが、警察沙汰になるといろいろと面倒なので通報しなかった。
とりあえず何が盗られたのか把握する必要がある。大量にある服の山を踏みながら俺はまず、自室に向かった。自分の部屋の戸を開けると、朝と同じようにきれいだった。
そこで俺は、違和感に気づく。俺の服は基本、自室にしまっているためこの部屋に服が散乱していないのがおかしかった。
廊下にはちゃんとスカートやブラジャーが足の踏み場がないほどに...
「ってなんでスカートとかブラジャーがあんの!?」
つい声を荒げてしまった。
よく見ると、散乱している服はすべて女の人用のものでリビングに続いている。よく見なくてもふつうは気づくはずだが、蒼平は動揺していたため気づかなかった。
リビングに向かうとそこにも大量の服がちらっばている。ソファにも容赦なく下着がのっている。
この大量の服が入っていたであろうキャリーケースもあった。
すると電話がかかってた。
親父からだ。
『もしもし親父?あのさ家の中に大量の女の人用の服がちらっばているんだけど!』
『おお、蒼平。そのことなんだが俺の昔からの友達の娘さんがお前のいる武昌高校に転入することになったんだ。他に住むところないからお前の部屋で住まわせることにした。』
そのとき、ソファの上に山積みされている服がモソモソと動き出し、眠っていたのか目をこすりながら、中から生まれたての赤ちゃんの姿でスイカとまではいかないリンゴほどのこぶを2つ、胸のところにつけたあられもない姿の女の人が出てきた。
『娘さんの名前は秋葉美来。「よろしくやってあげてくれ!」とのことだ。それじゃ頼むぞ。』
「『はああああああぁぁぁぁぁ!?』」