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ある日の早朝にある学校のある教室の一席に座る少年
少年は一人でスマホを片手にニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「くく、がんばれ‥‥」
少年は笑いを堪えながら一人スマホの画面にエールを送る
そんな少年の背後から迫る人影、その人物は少年に気づかれないように近づき持っていた鞄を少年の頭上に掲げて一気に振り下ろす。少年に抱いた感想と共に
「気持ち悪いわっ!!」
「いったぁぁぁ!?な、何事!?」
少年が振り替えるとそこには一人の少女が鞄を肩にかけ、呆れたように立っていた。
少年は立ち上がり少女に抗議する
「なにすんだよ!!」
「うるさいっ!!朝かスマホ眺めながらクスクスと気持ちわるいのよ!!」
「いいだろ別に!!誰もいないんだし」
「アタシがいるだろうが!!」
「ぐふっ!?」
少女は叫びながら少年の腹部に拳をめり込ませる。
少年はうめき声をあげながら床に座り込み、少女を見上げた。
少女は「ふぅ」と息を吐き少年を見下ろしながら続けた
「まったく、そんなんだなら見かけはいいのに彼女どころか友達もできないのよ」
「それは関係ないだろ!!」
「関係ありますー!!やすみ時間の度にスマホ取り出してずっと画面とにらめっこ!!だれかが話しかけてもスルーするし」
「うるさいわっ!!やすみ時間をどう過ごそうが俺の勝手だろ!!」
「だからってずっとスマホばかりみてるんじゃない!!」
少女はそう叫びながら少年に蹴りを入れようと足を動かした瞬間少年はぼそりと呟く
「ピンク」
「はっ!!」
少女はそれを聞くとあげようとした足を下げ、勢いよくスカートを手で押さえた。
その後今にも殺してやると言うような顔で少年を睨む。
そして誰かを呪うかのような声で少年の名前を口ずさむ
「は~る~き~!!」
少年、七瀬春樹は勢いよく立ち上がり少女がいる反対側に駆け出した。
「あっ待ちなさい!!」
「誰が待つかっ!!」
春樹は教室を飛び出し誰もいない廊下を爆走する
後ろから追ってくる鬼、もとい幼なじみである西条雫から逃れるために‥‥‥
☆☆☆
春樹は自身が通う清涼学園にある体育倉庫裏に身を隠していた
「はぁ、はぁ、はぁ~、たく、雫のやつ、せっかくいいところだったのに‥‥」
春樹は体育倉庫の壁に背中を預けながら地面に腰を下ろし、教室を飛び出す際に持ち出したスマホを操作して先ほどまで見ていた画面を開く。
春樹が見ていたのはウェブ小説だ。
今のブームは家族に虐げられていた女の子を御曹司が救うといういわゆる恋愛小説だ。
春樹はもともと読書が好きで面白ければ少年少女向け等のジャンル問わず読み漁った。
そして今読んでいる小説、〈虐げられた少女×御曹司〉は春樹にとって神作品であり、何度も読み返し、更新を今か今かと待ち望んでいる。
「くっくっ、やっぱり翼くんは最高だ!!」
翼くんとは物語に出てくる御曹司の名前で、彼はヒロインに振り向いてもらおうと奮闘するが自己評価が低いヒロインには全て空振りしてしまう。その時の翼くんの反応や心境が春樹は大好きなのだ。さらに翼くんの家族、親族が翼くんをからかったりしてくるので春樹は笑いを堪えるのが大変なのだ。
そうして春樹は夢中で物語を読み込む、朝のHRの時間を忘れて‥‥
☆☆☆
「くぁ~、ん?‥‥‥やばい!!」
物語に集中し過ぎて時間の確認を忘れてた春樹、
ふとスマホの表示画面を見ると時間はすでに2限目が終わりを迎える時間になっていた。
つまり、1限はサボってしまったということである‥‥
春樹はすぐに立ち上がり走り出さずに
んー!!
気持ちよさそうに身体を伸ばす。
‘今から急いでもどうせ遅刻だしなぁ’
そんなふうに考えた春樹は体育館の近くにある自動販売機で飲み物を購入しゆっくりと教室に向かう。
階段を上がっている途中で2限目終了の鐘がなる、
春樹は自分の教室がある階の踊り場で教室から教師が出てくるのを待った。そして程なくして教師が教室から出て春樹の反対側へと歩いていくのを見届けた後、春樹は教室に足を踏み込んだ。