物語のはじまり
幼い頃から勉学が好きであった。
私が男であればと、父を嘆かせる程に。
いつしか自身の手でも和歌を詠み、漢詩を詠み、後世に残る物を創り上げたいと大それた望みを抱くようになった。
漢詩だけでは駄目だ。それなりに得意であると自負しているが、まだまだ世間の目は厳しい。
女というものは、一という字も読めない方が可愛げがあるなどという風潮がある。
正当に評価されるのは難しいだろう。
和歌もそれだけでは駄目だ。
たかが一、二首残ったところで満足出来ない。
それよりも、男も女も、老いも若きも皆に読み継がれる物を残したい。
兎角女が軽く扱われる現世において、私の名を、作品を残したいのだ。
だが、唯知識をひけらかすだけの物はいけない。そんな鼻持ちならない人間にはなりたく無い。
人が楽しめる、かつ分かる方には分かる知性がある物を書かなければ。
であれば物語だろうか。和歌も漢詩も盛り込むことができる。
確かな知識を密やかに散りばめることもできる。
舞台は華やかな内裏がいい。憧れを持って読んで貰えるように。
男も女も、うんと魅力的な人を描こう。
時折笑えるのもいい。悍ましい様を描くのもいい。
ああ、こうして考えるだけで心が躍る。
書き出しも思いついた。
そう…
『いずれの御時か…』