誤字脱字報告機能テスト用短編 冒険者の足取りを追って
「役不足ってやつだ」
渋いおじさんが語り始めた。
行きつけの酒場は活気で満ちていて、今日も様々な人種がうろうろしていた。
タバコの煙と酒気と与太話でぐちゃぐちゃになった酒場には色々な物語が転がっている。
今、目の前で語るおじさんもその『物語』の一つだ。
「俺はこう見えてベテラン冒険者だぜ。それが今さらゴブリン退治なんかできるかよ。
だから、俺は、俺を誘った若い連中に言ってやったのさ。
『そいつは役不足ってやつだ。俺ぐらいのベテランのやる仕事じゃない。他の、もっと若いのに頼みな』ってさ」
おじさんは私がおごったタバコを嬉しそうに飲みながら、私のおごったエールをグイッと呷る。
「ところが若い連中、言うこと聞きやがらねぇ。
しつこくしつこく誘ってくるもんで、『コイツはなんかあるな?』と思ったわけさ」
おじさんは無精ヒゲにまみれた顎を片手で掻く。
口の端をいやらしくつり上げて、「もう一杯いいかい?」と聞いてきた。
私は「どうぞどうぞ」と笑顔で応じた。
どうせこの取材の費用は所長もちだ。
次なるエールのなみなみそそがれたジョッキが運ばれてくる。
おじさんはそれを口にふくんでから、話を続けた。
「で、俺はその若い連中に同行することにしたんだよ。
怖い物見たさっていうの?
向かったダンジョンはまあ、駆け出しが行くようなレベルの低い場所でなあ……。
着いたのは夕方ごろだったんで、朝まで待った方がいいって言ったんだが、若いのは聞かない。
しょうがねぇから、早めに切りあげろっていうことだけ約束させて、ダンジョンに挑むことになった」
おじさんはタバコをふかす。
吐きだした煙が、他のテーブルの煙と混じって、天井へと消えていく。
「最初は若い冒険者のお守りをしなきゃならねぇかと思ってたんだが、ところが連中、なかなか強い!
どうして俺を誘ったのかもわからねぇほどさ。
バッタバッタとゴブリンどもをなぎ倒して、あっという間に一番奥までたどり着いちまった!
そしてな、あるものを見つけて、『これだこれだ』ってささやき合うんだ。
俺が『なんだよ』って聞くと、そいつらはこう答えた!
『ドラゴンの卵です』ってな!」
私はテーブルに身を乗りだした。
興奮を隠しきれないまま、「それで、その人たちはドラゴンの卵をどうしたんですか?」とたずねる。
おじさんはニヤリと口の端をつり上げて、
「『あなたが見つけたことにしてください』とさ!
ようするに連中、手柄を俺によこすためだけに、俺を同行させたんだ!
『なんでだ?』って聞いたさ、そりゃあ。
そうしたら連中は『あまり目立ちたくないんで』だとさ!
まあ、そうは言ってもな、俺は本当について行っただけだ。
手柄をまるまるいただくってのも、気が悪い。
だが連中、まったく引かない!
押しの強いやつらだ!
そこでまあ、俺も大人なんでな。
『わかった。発見は俺がしたことにしておく。その代わり、懸賞金はお前らが受け取れ』っていう話で、どうにかおさめたわけさ」
やはり彼らは、今回もそうしたらしい。
謎の若手冒険者集団。
ベテランに手柄を押しつけて、目立たないようにしながら活躍する謎の人物たち。
熱心な取材のお陰で、なんとか足取りをつかめてきたものの、まだ、彼らに直接接触することはできていない。
私は「彼らはその後、どこに行ったかわかりますか?」と聞いた。
おじさんは肩をすくめて、
「ダンジョンに入ったのが夕方ごろだったせいか、夜には出て来れたんだがね。
連中、その足ですぐにどこか行っちまったらしい。
街で待っててくれねぇと、もらった金を渡すこともできやしねぇ。
まあ、でも、そうだな……
ダンジョン内での会話から推察するに、水の都に向かったんじゃねぇかな?」
私はおじさんにもう一杯エールをおごってから、水の都に向かうことにした。
次の取材は水の都だ。
手柄を押しつけ去って行く謎のパーティ……
この謎めいた集団の謎を追う取材の旅は、まだまだ続きそうだ。