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覇道を往く  作者: ハル
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帝国貴族マルクスの復讐を描くダークファンタジー

 それは、手に霜焼けが出来るほど寒い日の出来事だった。帝国歴474年2月。帝国の没落貴族であったメルヘス家の敷地を取り囲むポプラ並木はすっかり葉が落ちていて、枝と枝の間に僅かばかりの雪が積もっていた。

「マルクス!」

 まだあどけなさの残る少女の声が、メルヘス家の小さな中庭に響く。その声に応えるように、ボクは雪だるまをつくる手を止めて、彼女に向かって手を振った。

「カレン! おいでよ、一緒に雪だるま作るんだ」

「ええ」

 メルヘス家長女ーーカレン・フォン・メルヘスは分厚い毛皮のコートを肩にかけて屋敷から走ってくる。

 カレンはボクにとって、親が勝手に決めた許嫁だった。それでもボク達は仲が良かったし、きっとお互いに好きあっていた。

「帝国でも、こんなに雪が積もるんだね」

 ボク達は四つん這いになって、雪だるまの鼻に合いそうな枝を探した。

「そうよ。知ってまして、マルクス? 帝国の北側の地域では、一年中雪が降るそうですわ。なんでも近々そこで、戦が起きるんですって」

「ふーん」

 カレンはボクより二つ年上で、いつも当時のボクには分からない事を喋っていた。そんな時ボクはいつも、話を聞いているフリをして、彼女の瑠璃色の瞳を盗み見ていたものだ。

 戦争や家の事情は当時のボクにとってどうでもいい事だった。ボクにとって重要だったのは、カレンと早く結婚したいという事で、そういう未来が来る事をなんの疑いもなく信じていた。

「ねえ、マルクス。私、手が悴んでしまいましたわ。一度お屋敷に戻りましょう」

 雪だるまに鼻を付けた所で、カレンは寒そうにブルブルと身震いをした。わんぱくだったボクとは対照的に、カレンはいかにも貴族のご令嬢という感じで、絵を描いたりバイオリンを弾くのが好きな子だった。

「えー」

「お母様がアップルパイを焼いて下さったの。一緒に食べましょう」

 渋るボクの手を引っ張って、カレンは屋敷に向かって走り出す。素手で雪を触っていたカレンの手は、ボクのそれよりさらに冷たくて、でもなぜだか暖かかった。

 アップルパイを食べようと入った応接間には既に先客がいた。一目で貴族と分かる光沢のある燕尾色のスーツを着た、初老の男だった。

 後で分かった事だが、彼は皇帝の勅令という形で国を私物化する帝国親衛隊で長官という地位に就いている男だった。

「カレン・フォン・メルヘスという少女は、キミかね?」 

「え、ええ。そうですけれど」

 男の舐めまわすような嫌らしい視線を嫌って、カレンは助けを求めるようにボクを見た。

「一体、なんなんですか?」

「ふむ、いいだろう。合格だ。喜びたまえ、カレン・フォン・メルヘス。君は次期皇帝の側室候補に選ばれたのだ」

「ちょっと! このおっさん、なに勝手な事言ってるのさ。カレンはボクと結婚するんだよ! 冗談だよね、叔母さん」

 ソクシツ? ボクは状況が理解できず、男と向かい合って座っていたカレンの叔母さんに助けを求めた。しかし叔母さんは気まずそうに俯いているだけだった。

「ねえ、叔父さんっ」

「マルクス君。口の利き方に気をつけなさい。ここに居られる方は皇帝陛下の命を受けた親衛隊の方なんだよ」

「っ…‥」

 こちらに近寄って、目線を合わすと叔父さんは困った顔でボクを宥めた。そして、ボク達の様子を見ていたカレンは、諦めたように溜息を一つ付いてから、

「そうなのですね…‥分かりました。これから帝都に向かえばよろしいのですか?」

 男に向かって堂々と話した。ボクはこんな時なのに隣にいるカレンの横顔が随分と大人びていることが、やたらと気になった。

「うむ。陛下は首を長くしてお待ちかねだ。すぐにでも御所に来てくれたまえ」

「…‥はい」

「ついて来なさい。生活に必要なものはこちらで用意する」

 そう言って、男はカレンの肩を抱いて屋敷の外へ連れ出そうとする。

 去り際、カレンは悲しそうな眼でちらりとこちらを見つめたが、ボクは何もできずにただ茫然としていた。なにも出来なかったのだ。幼くとも、皇帝の命を受けた親衛隊に逆らうとどうなるかくらい理解していたから。

「すまないね、マルクス君。だが、これも仕方のない事なんだよ」

 男とカレンが屋敷を去ってしばらくの後、叔父さんは棚からブランデーを取り出してボクに言った。

 叔父さんの言葉に反応できず、ボクはただ項垂れて自分の無力さ・情けなさを恥じるだけだった。

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