啖呵切ったらなんかキレた
昼休みに入るや否や、あいつがきた。
「結城君は、いるかい?」
「おい、止水、なんかかわいい女の人が来たぞ?」
田倉が肩を叩いてくる。いや、声で分かるわ。依田だろ。
「おう、いるぞ。今行く」
0組に来客ということで、少し驚かれた気がしないでもない。あれが7組と分かればもっとざわつくかもしれない。何の用か分からないがさっさと行くことにした。
あと田倉はスルーした。
「何だよ、急に」
「思っていた以上にボロいね、ここ」
足下の板でも歪んだのか。足を素早く上げてそう言った依田の顔は少しひきつっていた。
「と言うわけで放課後訓練場を一つ貸し切ってもらったから来るように」
「どういう」
「王貴とかいう男の対策だ。ちゃんと来るように。待ってるからね?」
……携帯に連絡すりゃ良いだろそれくらい。ってそうだ連絡先知らないじゃん。嘘だろ俺、幼なじみよあいつ?
落ち込みつつ教室に戻る。
「結城止水という男を捜している!! どこだ!! ここにいるのは分かっている!!」
……今度は何だ。王貴優成とかいう男だこの声。
「うん、今戻るのは」
「お前がか!!」
ビシィッッッッ!!
「うるせぇ!!」
ものすごい勢いで指を刺されて、俺は我慢できずに教室に戻った。
「俺が結城止水だ名乗らなかったっけ王貴優成??」
あの時"覚えたッ"て言って無かったっけ?
「ほう、あの時の。逃げなかったのだな、この僕から!」
「逃げる、ねぇ」
毛頭そんなつもりはないですね。
「震えて待つが良い!! 次の実戦を!!」
高笑いしながら出て行った。なんだこいつ。
「……大変だな」
「全くだよ」
田倉が憐れんできた。
「……ってもしかしてもう対戦相手決まってるのか!? 早くね!?」
「いや、事情があるの、こっちから申し込んだって言う事情が」
というか、あの感じだと多分申し込まなくても良かったな。はぁ。
「え、何でわざわざ」
「ムカついた、って言うか何というか」
「あー、さっきの奴ならそう感じるのは分かる気がするわ、話聞いてないんなアレ」
「ほんと、何なんだろうなアレは……」
放課後言われたとおりに……あれ?
「どこ行けば……?」
この高校に訓練場は屋内外二十ずつ、計四十も存在する。依田を探すならダメ元で7組に行くのも悪くはない気がする。というか、そうするべきな気がしてきた。
と言うわけでオンボロ0組棟を抜けて、綺麗な本校舎に向かう。その途中
──夕張を見つけた。行こう。
夕張は人気の少ない場所に向かっていた。俺はそれを遠くから見ていた。
夕張が立ち止まる。その先には王貴が、何故か不敵に笑っていた。何かあったら飛び出せるように目を離さないでいた。
何やら言い争う様子が見て取れる。一分と保たずに王貴はキレて、どっか行ってしまった。ほっとした様子の夕張が振り返る。
───目が合った。
「止水君、いたんだ」
「いや、夕張さんが変な方向に向かってるのを見かけてちょっと気になって」
てくてくと歩いてくる夕張。少しだけむっとした様子で彼女は俺の手を握る。
「夕張さん、じゃなくて識杏でいいよ。昔そう呼んでたじゃない」
「そうだけどさ。依田が」
「何? 香織ちゃんがどうしたの?」
「いや。何でもない」
顔を逸らしつつ答える。依田は『きっと分からないと思うから名字呼びで他人を装っておこう。暴露したとききっと驚くぞ』とか言っていた。分かっているんだからもう良いじゃん。
「そじゃ、識杏。」
「ん、よろしい」
輝くような笑顔を浮かべ、手を離す。
「で、止水君、香織ちゃんが探してたけど」
「今ちょうど俺も探してたんだ。どこにいる?」
「うん、あっちに居たかな」
「よし、折角だから来るか?」
「何をするつもりなの?」
「多分ちょっとした魔弾対策を」
「………それって……王貴くんの」
自責、だろうか。きっと何の為にそれをするのかに気付いたんだ。少し暗くなってしまった識杏に俺は取り繕う様に言う。
「いや、識杏のせいじゃないからね? ムカついたんだよ、あの男には。あと君付けする価値は無いと思う」
「…確かに止水君があの人と戦うことに思うところはあるけど、そうじゃなくて……実はさっき…──」
言い辛そうに識杏は口を開く。
────マジかよ。